上 下
17 / 36

17. 酷すぎる状況

しおりを挟む
 あれから一週間。
 貴族令嬢に必要な作法を身に着けることが出来て、いつでも貴族の養子に行けるようになった。

 学問の勉強はまだ途中だけれど、ダンスも出来るようになったから、いつでも社交界に出られるとメアリ様のお墨付きを頂いた。

「早速ですけれど、来週私が開くお茶会に参加してみませんか?
 今のエリーさんなら、ご友人を増やすことも出来ますわ」

「本当に宜しいのですか?」

「ええ。私が信頼している方しか招いていませんから、多少の粗相も問題ありませんわ。
 エリーさんが粗相するとは思えませんけれど」

「ありがとうございます。私で宜しければ、参加したいですわ」

 このお嬢様言葉にはまだ慣れていないけれど、丁寧な口調なら問題無いらしい。
 それでも言葉遣いは合わせた方が良いみたいだから、今も練習の最中だ。

「断る理由なんてありませんもの。楽しみにしていますわ」

 そう口にして笑顔を浮かべるフィリア様。
 デビュタントはパーティーと決まっているから、まだ先になりそうだけれど、その前に知り合いを増やす機会があるのは心強い。

 だから私も素の笑顔を浮かべてお礼を言った。

「フィリア、エリー。少し時間を貰っても良いだろうか?」

「ええ、大丈夫ですわ」

「私も大丈夫です」

 いつの間にかここ中庭に姿を見せたライアス様の問いかけに頷く私達。
 彼は重々しい雰囲気を纏っていて、一体何が語られるのかと身構えてしまう。

「今朝、キャロル・バードナ元伯爵夫人が騎士団に捕えられた」

「元、ですか……?」

「そうだ。どうやらバードナ伯爵がキャロルの悪事に気付いたらしく、一昨日には勘当していたらしい。
 その書簡が届いたのは今日だが、送られた日が一昨日なのは確からしい」

「……父から爵位を剥奪するのは難しくなってしまったのですか?」

 家名を汚すような行いをした人を勘当するのは、過去の公爵家や王家でも行われていたこと。
 それを他の貴族達や王家は許してきていたから、今回の件でお父様から爵位を剥奪することは無理だと思う。

「そういうことになる。
 エリーはそこまで学んでいたのか」

「王国史を教わったお陰ですわ」

「歴史を学んだだけでこの答えを出せるとは……将来有望だな。
 一応、バードナ伯爵本人に問える罪は子女を放置していたと裁くことも不可能ではないが、これを裁くと王国の貴族は殆ど居なくなる。父上もそうだったが、男は育児に無関心なことが多いらしい。
酷い話だが、どうにもならない以上はこの状況を受け入れるしかない」

「家長になると他の仕事で忙しくなることは想像できますから、仕方のない事だと思います。
 でも、父は私が助けを求めても義母には強く言えなかったみたいで、仕事とは関係無かったのかもしれません」

 お父様はお義母様を溺愛していて、私のことは二の次だった。
 もし助けを求めた時に助けの手を差し伸べてくれていたら、きっとこんなことにはならなかったと思う。

 もしかしたら、跡継ぎがエルウィンしか居ない状況に焦っていたのかもしれないけれど……女性が家を継いではいけない決まりは無いから、そんな言い訳を受け入れたりはしない。
 先々代の国王は女性だったことくらい、お父様が知らないわけないもの。

「そうだろうな。今まで調べた情報を集めてみたが、エリーの義母のことを第一に動いていたように見える。それと、エリーの義妹達だが、正確には異母妹だと分かった」

「そうだったのですね……」

「まだあるぞ。エリーが居なくなってから、バードナ邸の状況はかなり悲惨だ。
 使用人は使い物にならず、日々の食事は庶民と同じかそれよりも酷い物になっている。
 伯爵は大慌てで辞めていった使用人達に戻るよう打診したが……全て断られたらしい」

 ライアス様は引き攣った表情を浮かべながら、今のバードナ家の惨状を説明してくれている。

私の味方をしてくれていた使用人達が解雇されてからずっと、屋敷の仕事は殆ど私一人で回していた。
他の使用人達はずっと休憩していて、仕事を見ることすらしていなかった。だから誰も仕事が出来なくて当たり前。

 だから、こうなることは分かっていたけれど、想像していたよりも酷い状況に、私は苦笑いしか浮かべられない。

「まだあるぞ。
キャロルはその生活に耐えられずに癇癪を起して、伯爵はそれに耐えられずに離縁を決めていたそうだ。
 今は別荘に避難して執務をこなしている状況だが、今度はエリシアが恋しくなったらしく、キャロルとは別に捜索隊を出して血眼で探しているらしい。毎晩会いたいと呟いていると影から報告が入っているよ。
 そうそう、別荘にいる使用人はしっかり仕事が出来るそうだ」

「私、愛されていますのね。
こんなに最悪な気分になったのは初めてですわ」

 今更愛されたって全く嬉しくない。
 私が辛い思いをしている時に助けを求めても何もしてくれなかったのに、自分が辛くなってから会いたいだなんて……。

 あまりの酷さに、怒りを通り越して呆れてしまう。

「酷すぎて私まで怒りを感じてしまいますわ」

「今のお話を聞いて、ますます父のことが許せなくなりました。
 法で裁くことが出来ないのなら、私は二度と父の元に戻らないことで抵抗します」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

【完結】妹を庇って怪我をしたら、婚約破棄されました

紫宛
恋愛
R15とR18は、保険です(*ᴗˬᴗ)⁾ 馬の後ろに立つのは危険……そう言われていたのに私の妹は、急に走り寄ってきて馬の後ろに立ったのです。 そして、びっくりした馬が妹を蹴ろうとしたので、私は咄嗟に妹を庇いました。 ……脊椎脊髄損傷、私は足が動かなくなり車椅子での生活が余儀なくされましたの。 父からは、穀潰しと言われてしまいましたわ。その上……婚約者からも、動けない私を娶るのは嫌だと言われ婚約破棄されました。 そんな時、こんな私を娶ってくれるという奇特な人が現れました。 辺境伯様で、血濡れの悪魔と噂されている方です。 蒼海の乙女と言われた令嬢は、怪我が原因で家族に見捨てられ、辺境伯家で、愛され大切にされるお話。 ※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定、リハビリ作品※

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

処理中です...