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11. 特別なこと
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馬車から降りると、何十人もの使用人さんが出迎えに来ている様子が目に入った。
こんなに大勢に出迎えられるのは初めてだから、なんだか落ち着かない。
「「いらっしゃいませ、エリシア様!」」
ライアス様はまだ馬車から降りている途中だから、助けを求めることも出来なかった。
「お出迎えありがとうございます……」
私は社交に出るための勉強なんて出来ていないから、侍従としての所作でお礼を口にする。
王宮に仕える使用人さん達は、この違和感に気付いたみたいで、不思議そうな表情や心配するような表情を浮かべられてしまう。
お義母様達には気付けないような表情だけれど、人の顔色を窺って生きてきた私には気付けてしまうこと。
中には訝しんでいる様子の使用人さんも居るから、今すぐこの場から逃げ出したくなった。
「エリシア様はかなり厳しい環境で過ごされていたと伺っていましたが、ここまでとは思いませんでした。
ここではご実家のように限界まで働かされることはございませんので、ご安心していただければと思います」
「我々はエリシア様の味方ですので、何かお困りごとがありましたら、すぐにお声掛けください」
けれど、どうやら私のことを心配してくれていたみたいで、すぐにそんな言葉がかけられた。
ライアス様は私のことを詳しく伝えていないはずなのだけど、今の挨拶だけで勘付かれてしまったらしい。
「ありがとうございます。
今はもう元気になったので、大丈夫です!」
「それは安心しました。
ここではエリシア様に労働を強いるような事はございませんので、ご安心くださいませ」
「ありがとうございます」
言葉を交わしている間にライアス様も馬車から降りてきて、今度は彼が出迎えの言葉を受ける。
そうして一通りの儀式が終わると、私は王城の奥にある王宮へと案内されることになった。
王宮は王家の住まいになっていて、普段は公爵家であっても入ることが許されない場所。
護衛や使用人であっても認められた人しか入ることが出来ないから、この状況に戸惑ってしまう。
「ライアス様、本当に王宮に入っても良いのでしょうか……?」
「ああ、エリーを周囲の目から隠すにはこれしかないと父上が判断して、こうなった」
「そうだったのですね……。
王宮、なんだか緊張します」
「エリーが令嬢としての教育を受けていないことは伝えてあるから、失礼な事があっても大丈夫だ。
だから安心して過ごしてほしい」
ライアス様はそう言ってくれているけれど、王宮に近付くにつれて緊張感は高まるばかり。
王宮の玄関前に着いた頃には、自分の鼓動がうるさく感じられた。
「どうぞお入りくださいませ」
「ありがとうございます」
玄関の扉だけでも煌びやかだったのに、中に入ると豪奢なシャンデリアに装飾品の数々が目に入る。
ライアス様に助けられてから暮らしていた家なんて比べものにならないくらいの豪華さ。
明かりも程よい強さで、目を細めなくても見ることが出来る。
バードナ邸も見栄のために豪華に作られていたけれど、王宮と比べたら天と地くらいの差があると思うけれど、ここは煌びやかすぎて落ち着かない。
「とりあえず、エリーに泊まってもらう部屋に案内するよ。
イリヤは疲れているだろうから、休憩してくると良い」
「お願いします」
「ありがとうございます。それでは、休憩を頂きます」
玄関の先にある廊下もいたるところに装飾がされていて、明かりも綺麗なものばかり。
明かりの下に置かれている花瓶も綺麗だから、うっかり落としたら一生かかっても弁償出来ないと思う。
花瓶には近付かないようにしなくちゃ。
そう思ったのに、ライアス様はすぐ近くにある扉に手をかけて、その中へと入っていった。
「この部屋の中は自由に使って良い。
あの扉の中には衣装部屋があって、その奥にはお風呂もある」
ライアス様はすぐに説明してくれているけれど、私は花瓶に当たらないように必死だから、まったく言葉を返せなかった。
「その花瓶は安物だから、そんなに怖がらなくて良い。
落としても下は絨毯だから、割れることも滅多に無いよ」
「そうだったのですね……安心しました」
部屋に入ると、まず私が六人くらいは眠れそうな大きさのベッドが目に入る。
この部屋もかなり広くて、ダンスの練習も余裕で出来そうだ。
装飾の類は控え目だから落ち着いて過ごせるかもしれないけれど、開放感がありすぎて落ち着かない気もしてしまう。
ベッドの上なら、天蓋のお陰で落ち着いて眠れそうだけれど……この生活に慣れたら、普通の生活に戻れなくなりそうで、なんだか怖くなってしまう。
たまに床の上で眠れば大丈夫だよね?
そんなことを思っていたら、誰かが近付いてくる気配がした。
「ライアス様、誰か来ています……」
「ああ、母上だろう。エリーと会うことを楽しみにしていた様子だったからな」
「お、王妃様……!?
私マナーなんて何も分からないけど、大丈夫ですか!?」
「大丈夫。あの人、俺達には厳しいけど、基本は優しいからね」
ライアス様がそう口にした直後、開けっ放しにしておいた扉の向こうから、初めて見る女性が目に入ってきた。
ドレスは簡素なものだけれど、所作から王妃様だとすぐに分かる。
王妃様は柔らかな笑顔を浮かべていて、私と目が合うと屈んで視線の高さを合わせてくれた。
「初めまして。わたくし、メアリ・ノールダムと申しますわ。
よろしくお願いしますね」
「初めまして、王妃殿下。
私はエリシア・バードナと申します。よろしくお願いいたします」
「最初だから形だけは貴族らしくしてみたけれど、普段は軽く名前で呼んでも良いですからね。
最初は難しいかもしれないけれど、ここを家だと思って構わないわ」
「ありがとうございます、メアリ様」
「もし寂しかったら、私のことは母のように接してくれても構わないわ」
「母上、それは気持ち悪いので止めた方が良いですよ」
王妃様――メアリ様はライアス様に小突かれているけれど、想像していた堅苦しさは全くなくて。
ここ王宮での暮らしが楽しみになった。
こんなに大勢に出迎えられるのは初めてだから、なんだか落ち着かない。
「「いらっしゃいませ、エリシア様!」」
ライアス様はまだ馬車から降りている途中だから、助けを求めることも出来なかった。
「お出迎えありがとうございます……」
私は社交に出るための勉強なんて出来ていないから、侍従としての所作でお礼を口にする。
王宮に仕える使用人さん達は、この違和感に気付いたみたいで、不思議そうな表情や心配するような表情を浮かべられてしまう。
お義母様達には気付けないような表情だけれど、人の顔色を窺って生きてきた私には気付けてしまうこと。
中には訝しんでいる様子の使用人さんも居るから、今すぐこの場から逃げ出したくなった。
「エリシア様はかなり厳しい環境で過ごされていたと伺っていましたが、ここまでとは思いませんでした。
ここではご実家のように限界まで働かされることはございませんので、ご安心していただければと思います」
「我々はエリシア様の味方ですので、何かお困りごとがありましたら、すぐにお声掛けください」
けれど、どうやら私のことを心配してくれていたみたいで、すぐにそんな言葉がかけられた。
ライアス様は私のことを詳しく伝えていないはずなのだけど、今の挨拶だけで勘付かれてしまったらしい。
「ありがとうございます。
今はもう元気になったので、大丈夫です!」
「それは安心しました。
ここではエリシア様に労働を強いるような事はございませんので、ご安心くださいませ」
「ありがとうございます」
言葉を交わしている間にライアス様も馬車から降りてきて、今度は彼が出迎えの言葉を受ける。
そうして一通りの儀式が終わると、私は王城の奥にある王宮へと案内されることになった。
王宮は王家の住まいになっていて、普段は公爵家であっても入ることが許されない場所。
護衛や使用人であっても認められた人しか入ることが出来ないから、この状況に戸惑ってしまう。
「ライアス様、本当に王宮に入っても良いのでしょうか……?」
「ああ、エリーを周囲の目から隠すにはこれしかないと父上が判断して、こうなった」
「そうだったのですね……。
王宮、なんだか緊張します」
「エリーが令嬢としての教育を受けていないことは伝えてあるから、失礼な事があっても大丈夫だ。
だから安心して過ごしてほしい」
ライアス様はそう言ってくれているけれど、王宮に近付くにつれて緊張感は高まるばかり。
王宮の玄関前に着いた頃には、自分の鼓動がうるさく感じられた。
「どうぞお入りくださいませ」
「ありがとうございます」
玄関の扉だけでも煌びやかだったのに、中に入ると豪奢なシャンデリアに装飾品の数々が目に入る。
ライアス様に助けられてから暮らしていた家なんて比べものにならないくらいの豪華さ。
明かりも程よい強さで、目を細めなくても見ることが出来る。
バードナ邸も見栄のために豪華に作られていたけれど、王宮と比べたら天と地くらいの差があると思うけれど、ここは煌びやかすぎて落ち着かない。
「とりあえず、エリーに泊まってもらう部屋に案内するよ。
イリヤは疲れているだろうから、休憩してくると良い」
「お願いします」
「ありがとうございます。それでは、休憩を頂きます」
玄関の先にある廊下もいたるところに装飾がされていて、明かりも綺麗なものばかり。
明かりの下に置かれている花瓶も綺麗だから、うっかり落としたら一生かかっても弁償出来ないと思う。
花瓶には近付かないようにしなくちゃ。
そう思ったのに、ライアス様はすぐ近くにある扉に手をかけて、その中へと入っていった。
「この部屋の中は自由に使って良い。
あの扉の中には衣装部屋があって、その奥にはお風呂もある」
ライアス様はすぐに説明してくれているけれど、私は花瓶に当たらないように必死だから、まったく言葉を返せなかった。
「その花瓶は安物だから、そんなに怖がらなくて良い。
落としても下は絨毯だから、割れることも滅多に無いよ」
「そうだったのですね……安心しました」
部屋に入ると、まず私が六人くらいは眠れそうな大きさのベッドが目に入る。
この部屋もかなり広くて、ダンスの練習も余裕で出来そうだ。
装飾の類は控え目だから落ち着いて過ごせるかもしれないけれど、開放感がありすぎて落ち着かない気もしてしまう。
ベッドの上なら、天蓋のお陰で落ち着いて眠れそうだけれど……この生活に慣れたら、普通の生活に戻れなくなりそうで、なんだか怖くなってしまう。
たまに床の上で眠れば大丈夫だよね?
そんなことを思っていたら、誰かが近付いてくる気配がした。
「ライアス様、誰か来ています……」
「ああ、母上だろう。エリーと会うことを楽しみにしていた様子だったからな」
「お、王妃様……!?
私マナーなんて何も分からないけど、大丈夫ですか!?」
「大丈夫。あの人、俺達には厳しいけど、基本は優しいからね」
ライアス様がそう口にした直後、開けっ放しにしておいた扉の向こうから、初めて見る女性が目に入ってきた。
ドレスは簡素なものだけれど、所作から王妃様だとすぐに分かる。
王妃様は柔らかな笑顔を浮かべていて、私と目が合うと屈んで視線の高さを合わせてくれた。
「初めまして。わたくし、メアリ・ノールダムと申しますわ。
よろしくお願いしますね」
「初めまして、王妃殿下。
私はエリシア・バードナと申します。よろしくお願いいたします」
「最初だから形だけは貴族らしくしてみたけれど、普段は軽く名前で呼んでも良いですからね。
最初は難しいかもしれないけれど、ここを家だと思って構わないわ」
「ありがとうございます、メアリ様」
「もし寂しかったら、私のことは母のように接してくれても構わないわ」
「母上、それは気持ち悪いので止めた方が良いですよ」
王妃様――メアリ様はライアス様に小突かれているけれど、想像していた堅苦しさは全くなくて。
ここ王宮での暮らしが楽しみになった。
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