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第2章

96. 陛下の判断です

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「ええ、私は聖女。皆に大切にされるべき存在なの。だから、そんな私が死なないように、水をたっぷり渡しなさい」

 嫌味が通じないどころか、失ったはずの身分を振りかざして命令してくるのは予想出来なかったわ……。
 でも、今回の水を配る計画では貴族も平民も人数に応じた量だけ配ることに決まっているから、差し出された桶に他の人と同じ量だけの水を注いだ。

「一人なら、これで十分ですわよね?」
「はぁ? わたくしは公爵令嬢なの。屋敷の使用人の分がこれだけで足りると思っているの?」
「そうおっしゃる前に、使用人達を連れてきてください。魔力には限りがありますから」

 本当はこの辺りを水浸しにするくらいの魔力はあるけれど、一人だけを優遇したら反感を買ってしまう。
 私達貴族が生きていくためには、平民からの支持が必要だから反感は買いたくない。

 だから……いくら脅されても、パメラ様の器に水を注ぐことは絶対にしない。

「平民に渡す分はあるのに、このわたくしに渡せないって、見下していますの?」

 パメラ様が怒りを滲ませながら私の方に詰め寄ってくる。
 けれども、彼女が伸ばした手が私に当たることは無かった。

「そこの偽聖女、邪魔なんだよ」
「本当の聖女様に手を出したら、貴族だろうが関係無いんだよな?」
「みんな、やるぞ! 相手は光魔法しか使えないが気を付けろ!」

 私の周りで水を待っていた人達がパメラ様の肩を掴んで、勢いよく引き離していったから。
 今の平民の言葉が事実なら、パメラ様は他の貴族を脅していたことになる。

 自業自得とはこの事ね。

「汚らわしい! 触らないで!」
「断る。汚らわしいのはお前の方だ!」

 平民が貴族に暴力を振るった時は処刑しても問題ないという法があるのに、この行動。
 パメラ様がそれほどまでに恨まれていたとしか思えないのよね。

『これ、どうすれば良いかしら?』
『放置で良いと思います。パメラ様の自業自得ですから』
『そうよね。ありがとう』

 念話の魔道具でカチーナに意見を求めたら、冷めた声色で答えが返ってくる。
 護衛さん達を見回しても、私が助ける仕草をしたら首を振られた。

「誰か助けなさい! 私は聖女なのよ!?」
「知るか! 貴族しか助けない人は聖女と言わん!」

 騒ぎが少しずつ離れていく様子を見ていると、パメラ様の後ろからラインハルト陛下達が姿を見せた。
 タイミングが良すぎる気がするけれど、陛下は真っ直ぐ私の方に歩み寄ってきた。

 ラインハルト陛下は親衛隊に囲われていて、一緒にグレン様や他の王妃派の貴族達が居るのも目に入った。

「カストゥラ夫人、アリオト侯爵殿が倒れてしまったんだ。治療をお願いできないか?」
「ついに倒れてしまいましたのね……。すぐに行きますわ」
「病人なら聖女のわたくしにお任せください!」
「ああ、魔物を生み出していた悪女ではないか。自ら名乗り出てくれるとは。
 パメラ・アルフェルグ。お前を国に災厄をもたらした国家転覆の罪で拘束する」

 突然のことに、この場の空気が固まった気がした。
 パメラ様が魔物を呼び寄せていたことが分かった後も、聖女の地位を剥奪されただけで公爵令嬢の地位はそのままだった。


 だから私も他の貴族も、ラインハルト陛下の発言を聞いて固まっていた。
 言われたパメラ様だって、何が起きたのか分からないという表情のまま一歩も動かない。
 ……いえ、パメラ様は平民達に捕まえられているから、動けないの方が正しかったわ。

 素早く動いているのは、陛下を護衛していた王室親衛隊の人達だけだった。

「どうして私が罪人にされるのよ!? 全部そこのレイラのせいよ!」
「お前がそうやってカストゥラ夫人に冤罪を着せ、命を奪おうとしたことも分かっている。
 まだ確証が無かったから罪に入れないでいたが……一つ追加だな」

 あっという間に両腕を縛られて、身動きが取れなくなったパメラ様を見下すラインハルト陛下。
 惨めな姿を晒しているパメラ様だけれど、私が断罪された時のように嘲笑って見下そうという気持ちにはならなかった。

 私の仕返しは、パメラ様の悪意に打ち勝って幸せになることだと決めているから。
 パメラ様達の様子を見るのはやめて、お水配りを再開するために広場の反対側に移動する私。

「皆さん、お待たせして申し訳ありません。お水、こちらで配りますわ」
「助かります。もう喉がカラカラで……」
「はい、どうぞ。
 皆さん、二列で並んでください!」

 拡声の魔法で知らせると、すぐに列が出来てしまった。
 だから、二列に並ぶようにお願いして、同時に水を生み出していく。

「ありがとうございます!」
「助かります」
「この水美味しいっ! 生き返りました。
 ありがとうございます!」

 すると次々とお礼の言葉がかけられて、重苦しい空気もどこかへ飛んで消えていった。
 やっぱり、誰かが苦しむ顔を見るよりも、笑っている姿を見る方が幸せな気持ちになれるわ。
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