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第2章
92. 援軍のようです
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「ここかしら?」
呟きながら、ベッドの下をのぞき込む王妃様。
私は指示された通りにタイミングを合わせて押し入れを開ける。
それから、示し合わせた通りに足音を消して部屋を後にした。
「居たわ。少し待ってから、入りましょう」
「分かりました」
ここは普段、王族しか入れない場所なのだけど、こんな形で入ることになるとは思わなかったわ……。
それにしても、十分ほどで国王陛下の居場所を突き止める王妃様の勘が恐ろしい。
どんなことでも見抜いていそうなのに、こんな状況になってしまったのは、きっと脅されていたのね。
聞いてみないと分からないけれど、それくらいしか考えられない。
「行きましょう」
「分かりましたわ」
王妃様から声をかけられて、頷く私。
直後に勢い良く扉が開けられて、国王陛下が飛び出してきた。
そして勢いをそのままに、盛大に転ぶ陛下。
王妃様が足をかけたみたいだけど、このタイミングで反応出来るなんてすごいわ。
「お、おい。俺は国王だぞ! 何をする!」
「争っていることを忘れたのですか? 敵の王など、敬う対象ではありません!」
「ま、待て。俺は君の夫だ。話せば分かる!」
「何度も何度も助言したというのに、無視し続けたのはどこの誰ですか!? 反省しなさい!」
えっ? 平手じゃなくて拳?
ドスッという鈍い音に、そんな感想を抱いてしまう私。
言葉だけ聞いていると夫婦喧嘩に近いのだけど、一切容赦はしない王妃様。
陛下は私にも気付いたみたいで、助けを求めるような視線を向けてきているけれど、死にそうになるまでは助けつもりは無い。
今回の治癒魔法の使い方は陛下を苦しめるものだけれど、目的は陛下の命を助けることだから魔物が現れることは無いと思う。
「レイラ嬢、助けてくれ! 助けてくれたら聖女にする! 特別に男爵位も授けよう!」
「お断りしますわ。私、聖女になりたくありませんから」
社交界に出る前は聖女の立場は魅力的に見えていたけれど、今はそう思えない。
聖女になれば自由に行動することは許されず、日々貴族達の怪我や病を治すことを強制される。例え嫌いな相手でも、王家の命令だから。
住む場所だって王城になるから、自由は殆ど無いと思うのよね。
パメラ様はそれでも良かったみたいだけど、私は絶対に嫌だ。
それに、男爵位って……。
今持っている帝国の侯爵位だけでも手一杯なのに、これ以上増やしたら忙しすぎて目が回る羽目になる。
だから爵位も要らないというのに、押さえつける王妃様の手から逃れようともがきながら、私に助けを求め続ける陛下。
「な、なら男爵位を……」
「それも結構です」
「な、何故だ!?」
「私、爵位にはもう興味がありませんの」
「なっ……」
私の答えが意外だったのかしら? 陛下は黙り込んでしまった。
けれど、直後に王妃様の拳が顔にめり込むと、うめき声を漏らしていた。
「今まで乱暴された分はこれでお互い様ということにしましょう。
ところで、国王を辞めるつもりはないかしら?」
「国王は俺かリック以外に認めん!」
「それなら、力ずくで奪うまでです。民は今の国王を嫌っているので、問題ありませんね?」
そう言って陛下の首にナイフを近づけていく王妃様。
すると陛下のお顔はみるみると青くなって、ピタリと首に触れると、弱々しい声を漏らした。
「わ、分かった……王位はリックに譲る。だから許してくれ」
「リックはダメです。優秀なラインハルトにしなさい」
「ラインハルトは優秀過ぎて周りが見えない事が……」
「今の貴方よりも見えていますわ」
ナイフを押し付ける王妃様の様子を見て、私は治癒魔法の出番だと思ったのだけど、陛下の首から血が流れることは無かった。
よく見ると、ナイフが触れているのは刃が無い部分だから、王妃様は最初から脅しだけで切り傷を負わせるつもりはなかったらしい。
陛下、鼻血は出しているけれど元気そうだから私の出番は来ないかもしれないわ。
「わ、分かった。ラインハルトに譲る。だからそのナイフを離してくれ」
「カストゥラ公爵夫人。今の言葉は聞いていましたか?」
同じような返事をする陛下の言葉を聞いて、そう口にする王妃様。
陛下の言葉はこの場をしのぐためのものにも聞こえるから、他にも証人が居た方が良いと思うのよね。
だから、この場は王妃様に任せて、私はグレン様を呼んだ方が良いと思う。
「ええ、しっかりと聞いておりましたわ。ですが、陛下の言葉はこの場をしのぐためのものに聞こえました。
私以外にも証人が居た方が確実だと思いますわ」
「たしかに、貴女の言う通りですわね。こんなみっともない姿はあまり見せたくないけれど、人を集めてもらえますか?」
「ええ、大丈夫ですわ。では、行ってきます」
軽く一礼してから、歩いてきた廊下を進んでいく私。
それから一分ほどで中庭に着いたのだけど、初めて見る人達に埋め尽くされていてグレン様の姿は見えなかった。
ブランの頭は見えるから、この人達が援軍のようね。
呟きながら、ベッドの下をのぞき込む王妃様。
私は指示された通りにタイミングを合わせて押し入れを開ける。
それから、示し合わせた通りに足音を消して部屋を後にした。
「居たわ。少し待ってから、入りましょう」
「分かりました」
ここは普段、王族しか入れない場所なのだけど、こんな形で入ることになるとは思わなかったわ……。
それにしても、十分ほどで国王陛下の居場所を突き止める王妃様の勘が恐ろしい。
どんなことでも見抜いていそうなのに、こんな状況になってしまったのは、きっと脅されていたのね。
聞いてみないと分からないけれど、それくらいしか考えられない。
「行きましょう」
「分かりましたわ」
王妃様から声をかけられて、頷く私。
直後に勢い良く扉が開けられて、国王陛下が飛び出してきた。
そして勢いをそのままに、盛大に転ぶ陛下。
王妃様が足をかけたみたいだけど、このタイミングで反応出来るなんてすごいわ。
「お、おい。俺は国王だぞ! 何をする!」
「争っていることを忘れたのですか? 敵の王など、敬う対象ではありません!」
「ま、待て。俺は君の夫だ。話せば分かる!」
「何度も何度も助言したというのに、無視し続けたのはどこの誰ですか!? 反省しなさい!」
えっ? 平手じゃなくて拳?
ドスッという鈍い音に、そんな感想を抱いてしまう私。
言葉だけ聞いていると夫婦喧嘩に近いのだけど、一切容赦はしない王妃様。
陛下は私にも気付いたみたいで、助けを求めるような視線を向けてきているけれど、死にそうになるまでは助けつもりは無い。
今回の治癒魔法の使い方は陛下を苦しめるものだけれど、目的は陛下の命を助けることだから魔物が現れることは無いと思う。
「レイラ嬢、助けてくれ! 助けてくれたら聖女にする! 特別に男爵位も授けよう!」
「お断りしますわ。私、聖女になりたくありませんから」
社交界に出る前は聖女の立場は魅力的に見えていたけれど、今はそう思えない。
聖女になれば自由に行動することは許されず、日々貴族達の怪我や病を治すことを強制される。例え嫌いな相手でも、王家の命令だから。
住む場所だって王城になるから、自由は殆ど無いと思うのよね。
パメラ様はそれでも良かったみたいだけど、私は絶対に嫌だ。
それに、男爵位って……。
今持っている帝国の侯爵位だけでも手一杯なのに、これ以上増やしたら忙しすぎて目が回る羽目になる。
だから爵位も要らないというのに、押さえつける王妃様の手から逃れようともがきながら、私に助けを求め続ける陛下。
「な、なら男爵位を……」
「それも結構です」
「な、何故だ!?」
「私、爵位にはもう興味がありませんの」
「なっ……」
私の答えが意外だったのかしら? 陛下は黙り込んでしまった。
けれど、直後に王妃様の拳が顔にめり込むと、うめき声を漏らしていた。
「今まで乱暴された分はこれでお互い様ということにしましょう。
ところで、国王を辞めるつもりはないかしら?」
「国王は俺かリック以外に認めん!」
「それなら、力ずくで奪うまでです。民は今の国王を嫌っているので、問題ありませんね?」
そう言って陛下の首にナイフを近づけていく王妃様。
すると陛下のお顔はみるみると青くなって、ピタリと首に触れると、弱々しい声を漏らした。
「わ、分かった……王位はリックに譲る。だから許してくれ」
「リックはダメです。優秀なラインハルトにしなさい」
「ラインハルトは優秀過ぎて周りが見えない事が……」
「今の貴方よりも見えていますわ」
ナイフを押し付ける王妃様の様子を見て、私は治癒魔法の出番だと思ったのだけど、陛下の首から血が流れることは無かった。
よく見ると、ナイフが触れているのは刃が無い部分だから、王妃様は最初から脅しだけで切り傷を負わせるつもりはなかったらしい。
陛下、鼻血は出しているけれど元気そうだから私の出番は来ないかもしれないわ。
「わ、分かった。ラインハルトに譲る。だからそのナイフを離してくれ」
「カストゥラ公爵夫人。今の言葉は聞いていましたか?」
同じような返事をする陛下の言葉を聞いて、そう口にする王妃様。
陛下の言葉はこの場をしのぐためのものにも聞こえるから、他にも証人が居た方が良いと思うのよね。
だから、この場は王妃様に任せて、私はグレン様を呼んだ方が良いと思う。
「ええ、しっかりと聞いておりましたわ。ですが、陛下の言葉はこの場をしのぐためのものに聞こえました。
私以外にも証人が居た方が確実だと思いますわ」
「たしかに、貴女の言う通りですわね。こんなみっともない姿はあまり見せたくないけれど、人を集めてもらえますか?」
「ええ、大丈夫ですわ。では、行ってきます」
軽く一礼してから、歩いてきた廊下を進んでいく私。
それから一分ほどで中庭に着いたのだけど、初めて見る人達に埋め尽くされていてグレン様の姿は見えなかった。
ブランの頭は見えるから、この人達が援軍のようね。
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