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第2章
91. 水のお陰です
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「開けてくれ!」
「ここなら水があるんだろ!」
「誰の指示だ?」
「国王を出せ! 一発殴らせろ!」
「死にそうな人もいるんだぞ!」
「処刑だけでは不満なのか!?」
王城に入るための門の近くに行くと、そんな声が耳に入り続ける。
喉の渇きのせいかしら? どの声も掠れていて、威勢は感じられなかった。
けれど包丁や鉄の棒、それに剣を持っている人だっているから、雰囲気は物々しくなっている。
武器を持っている人に話しかけるのは怖いから、武器を手にしていない人に声をかけようと一歩踏み出す私。
きっと魔物の群れに突っ込んだ時のように、水を求めている人に囲われると思う。
でも、助けるためだからと覚悟を決めている。
「私、水魔法を使えるのですけど、何かお手伝い出来ることはありますか?」
「水魔法!? どうしてすぐに言ってくれなかったのよ!」
こんな反応をされるのも予想していた。
けれども、直後にかけられた言葉は意外なものだった。
「おい、止せ。このお嬢さんの善意に対して怒鳴るとは何を考えている」
「でも、もっと早く言ってくれたら、私はこんなに苦しまなかった!」
「お前さんは魔法が使えないから知らないかもしれんが、魔法を使いすぎると寿命を削る。
この人数が満足できるだけの水となると、文字通り血を吐く思いをするだろうな」
この人数くらいなら余裕なのだけど、そのことは黙っていた方が良さそうね。
「もっと早く助けられるのが理想でしたわ。でも、私が国王に見つかったらどうなるでしょう……?」
「あっ……」
「もうすぐ国王は捕らえられますから、こうして助けに来ましたの」
「そうだったのね……。怒鳴ってしまってごめんなさい」
理由を説明すると、すぐに謝罪の言葉が返ってきた。
これなら大丈夫そう……。そう思って、この場の人達に聞こえるように、声を上げる。
「水が欲しい人は並んでください!」
するとすぐに私の周りに人が集まってきたから、庭師さんから借りてきたじょうろをに水を入れて、傾ける。
「手ですくってくださいね」
「分かりました」
それから十分ほどで全員に水を渡すことが出来たけれど、これはまだ一部の人の命を繋いだだけ。
一通りお礼を受けてから、私は次の場所に飛んでいった。
◇
「グレン様、この辺りに居る人には配り終えましたわ。それから、衛兵さん達が味方になってくれましたの」
「お疲れ様。こっちもはまだ終わっていないんだ。陛下がどこかに隠れていて、探すのに手間取っている」
三十分ほどでブランが居る場所に戻ると、グレン様からそんな言葉が返ってきた。
防御魔法で使う魔力はまだ増えていないから、騎士団の方々は避けるのが上手なのだと思っていたけれど、違ったらしい。
でも、剣や魔法を交えずに解決すればそれで良いのよね。
「そうでしたのね。それにしても、戦闘が一切起きていないのは不思議ですわ」
「陛下を守っていた騎士団は全員説得して、王妃派についたから大丈夫だ。ただ、対価として水を約束してしまったから、今はカチーナが頑張ってくれている」
「私も行きますわ。カチーナだけだと大変だと思いますので」
「分かった」
「私も行くわ」
私がカチーナの居るところに向かおうとすると、王妃様がそう口にした。
王妃様は危険が無いようにグレン様や護衛さん達と一緒にブランの背中の上に居てもらっていたけれど、念のために確認したら普通に戦えるらしいのよね。
王族なら自らの身を守れないとお話にならないらしい。
貴族でも最低限の護身術は身に付けないといけないから、なんとなく想像はしていたけれど……十人同時に剣技だけで相手出来るというのは想像出来なかったわ……。
「騎士団だけじゃあの人を見つけられないと思うから、水を配り終えたら私も探してみるわ」
「分かりました。私で良ければ、お手伝いさせて頂きますね」
「ありがとう。貴女ほどの魔法の使い手の援護ほど頼もしいものは無いわ」
そんなお話しをしながら、久々に見る王城の廊下を進んでいく私達。
しばらく進むと、カチーナが衛兵さん達に囲まれている様子が目に入った。
「カチーナ、魔力は大丈夫?」
「ええ。魔道具と魔石のお陰で」
「良かったわ。ところで、これはどこから持ってきたのかしら?」
「庭師さんからお借りしたんです。もしかしたら使うかもしれないと思っていましたので」
魔道具を作る余裕がなくて、水魔法の魔道具はほとんど無いけれど、カチーナは上手く見繕っていたみたい。
だから疲れなんて欠片も見えなかった。
衛兵さん達とも色々なことをお話ししていたみたいで、すっかり打ち解けている様子。
危ない様子は無かったから安心していると、衛兵さんから声をかけられた。
「レイラ様。水の魔道具で我々を救っていただき、ありがとうございました」
「えっと、助けたのはカチーナですから、お礼ならカチーナにお願いしますわ」
「カチーナ様はレイラ様が魔道具を作っていなかったら助けられなかったとおっしゃっていました。我々もレイラ様が居なければ助からなかったと考えていますので、どうか言葉だけでも受け取ってください」
銀貨が手の隙間から見えたことは気にしないで、「どういたしまして」と言葉を返す私。
一応は公爵夫人だから落ち着いている様を演じているけれど、この扱いはくすぐったいわ……。
それから、私は王妃様に防御魔法をかけながら王城をくまなく――いえ、王妃様の勘に頼って探すことになった。
王妃様はかなりお怒りのようで、見つけたら国王陛下を殴ると公言しているけれど、止めようとは思わない。
「オスニル! 早く出てきなさい!」
誰がどう見ても、殴られるだけでは済まないような事を働いているのだから。
王妃殿下の言葉が乱暴になるのも、仕方のないことだと思う。
「ここなら水があるんだろ!」
「誰の指示だ?」
「国王を出せ! 一発殴らせろ!」
「死にそうな人もいるんだぞ!」
「処刑だけでは不満なのか!?」
王城に入るための門の近くに行くと、そんな声が耳に入り続ける。
喉の渇きのせいかしら? どの声も掠れていて、威勢は感じられなかった。
けれど包丁や鉄の棒、それに剣を持っている人だっているから、雰囲気は物々しくなっている。
武器を持っている人に話しかけるのは怖いから、武器を手にしていない人に声をかけようと一歩踏み出す私。
きっと魔物の群れに突っ込んだ時のように、水を求めている人に囲われると思う。
でも、助けるためだからと覚悟を決めている。
「私、水魔法を使えるのですけど、何かお手伝い出来ることはありますか?」
「水魔法!? どうしてすぐに言ってくれなかったのよ!」
こんな反応をされるのも予想していた。
けれども、直後にかけられた言葉は意外なものだった。
「おい、止せ。このお嬢さんの善意に対して怒鳴るとは何を考えている」
「でも、もっと早く言ってくれたら、私はこんなに苦しまなかった!」
「お前さんは魔法が使えないから知らないかもしれんが、魔法を使いすぎると寿命を削る。
この人数が満足できるだけの水となると、文字通り血を吐く思いをするだろうな」
この人数くらいなら余裕なのだけど、そのことは黙っていた方が良さそうね。
「もっと早く助けられるのが理想でしたわ。でも、私が国王に見つかったらどうなるでしょう……?」
「あっ……」
「もうすぐ国王は捕らえられますから、こうして助けに来ましたの」
「そうだったのね……。怒鳴ってしまってごめんなさい」
理由を説明すると、すぐに謝罪の言葉が返ってきた。
これなら大丈夫そう……。そう思って、この場の人達に聞こえるように、声を上げる。
「水が欲しい人は並んでください!」
するとすぐに私の周りに人が集まってきたから、庭師さんから借りてきたじょうろをに水を入れて、傾ける。
「手ですくってくださいね」
「分かりました」
それから十分ほどで全員に水を渡すことが出来たけれど、これはまだ一部の人の命を繋いだだけ。
一通りお礼を受けてから、私は次の場所に飛んでいった。
◇
「グレン様、この辺りに居る人には配り終えましたわ。それから、衛兵さん達が味方になってくれましたの」
「お疲れ様。こっちもはまだ終わっていないんだ。陛下がどこかに隠れていて、探すのに手間取っている」
三十分ほどでブランが居る場所に戻ると、グレン様からそんな言葉が返ってきた。
防御魔法で使う魔力はまだ増えていないから、騎士団の方々は避けるのが上手なのだと思っていたけれど、違ったらしい。
でも、剣や魔法を交えずに解決すればそれで良いのよね。
「そうでしたのね。それにしても、戦闘が一切起きていないのは不思議ですわ」
「陛下を守っていた騎士団は全員説得して、王妃派についたから大丈夫だ。ただ、対価として水を約束してしまったから、今はカチーナが頑張ってくれている」
「私も行きますわ。カチーナだけだと大変だと思いますので」
「分かった」
「私も行くわ」
私がカチーナの居るところに向かおうとすると、王妃様がそう口にした。
王妃様は危険が無いようにグレン様や護衛さん達と一緒にブランの背中の上に居てもらっていたけれど、念のために確認したら普通に戦えるらしいのよね。
王族なら自らの身を守れないとお話にならないらしい。
貴族でも最低限の護身術は身に付けないといけないから、なんとなく想像はしていたけれど……十人同時に剣技だけで相手出来るというのは想像出来なかったわ……。
「騎士団だけじゃあの人を見つけられないと思うから、水を配り終えたら私も探してみるわ」
「分かりました。私で良ければ、お手伝いさせて頂きますね」
「ありがとう。貴女ほどの魔法の使い手の援護ほど頼もしいものは無いわ」
そんなお話しをしながら、久々に見る王城の廊下を進んでいく私達。
しばらく進むと、カチーナが衛兵さん達に囲まれている様子が目に入った。
「カチーナ、魔力は大丈夫?」
「ええ。魔道具と魔石のお陰で」
「良かったわ。ところで、これはどこから持ってきたのかしら?」
「庭師さんからお借りしたんです。もしかしたら使うかもしれないと思っていましたので」
魔道具を作る余裕がなくて、水魔法の魔道具はほとんど無いけれど、カチーナは上手く見繕っていたみたい。
だから疲れなんて欠片も見えなかった。
衛兵さん達とも色々なことをお話ししていたみたいで、すっかり打ち解けている様子。
危ない様子は無かったから安心していると、衛兵さんから声をかけられた。
「レイラ様。水の魔道具で我々を救っていただき、ありがとうございました」
「えっと、助けたのはカチーナですから、お礼ならカチーナにお願いしますわ」
「カチーナ様はレイラ様が魔道具を作っていなかったら助けられなかったとおっしゃっていました。我々もレイラ様が居なければ助からなかったと考えていますので、どうか言葉だけでも受け取ってください」
銀貨が手の隙間から見えたことは気にしないで、「どういたしまして」と言葉を返す私。
一応は公爵夫人だから落ち着いている様を演じているけれど、この扱いはくすぐったいわ……。
それから、私は王妃様に防御魔法をかけながら王城をくまなく――いえ、王妃様の勘に頼って探すことになった。
王妃様はかなりお怒りのようで、見つけたら国王陛下を殴ると公言しているけれど、止めようとは思わない。
「オスニル! 早く出てきなさい!」
誰がどう見ても、殴られるだけでは済まないような事を働いているのだから。
王妃殿下の言葉が乱暴になるのも、仕方のないことだと思う。
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