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第2章
79. ここは地獄ですか?
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私が見ているのは、王都にあるアルフェルグ邸で開かれている夜会の会場。
今使っている千里眼の魔法のお陰で、本当に会場にいるように感じられるのだけど、そのせいで悪寒がしてしまう。
理由はこの会場の中で注目を集めているパメラ様とジャスパー様。
この二人は婚約者同士の関係のはずなのに、どうして他の異性に声をかけているのかしら?
それも一人ではなくて、会場のほぼ全員に……。
「夜会ってこんなに重い空気になるものなのね……」
私が冤罪を着せられた時はここまで重苦しいものではなかったはず。
だから、つい声を漏らしてしまった。
「奥様……? お一人で一体何を……?
遠い目をされていますが、幻覚でも見えているのでしょうか?」
そんな声が聞こえてきたから、意識を近くに向ける私。
千里眼はそのままに、意識だけを戻したら目の前の光景も夜会の様子も見れるようになった。
「遠くを見る魔法を使っているの。そんなに間抜けな顔をしていたかしら?」
「間抜けではありませんが、心配になるお顔をされておりました」
「大丈夫だから気にしないで」
千里眼に意識を戻すと、パメラ様とジャスパー様に動きがあった。
ジャスパー様がパメラ様に近付いて行って、愛おしげな表情のまま抱き締めようとしていた。
けれども、その腕がパメラ様に触れることは無かった。
「気安く触らないで! 浮気者なんて願い下げですわ!」
どの口が……!
そんなツッコミを心の中で入れたのは私だけではなかったみたいで、周りの参加者からも疑いの目が向けられている。
パメラ様はジャスパー様以外の男性を複数人侍らせていて、直前までは口付けまで交わしていた。
自分のことは棚に上げて、とはまさにこのことだ。
でも、見ているだけなら良い娯楽よね。
私を酷い目に遭わせてくれたパメラ様とジャスパー様が不幸になりそうな状況を見て、楽しみにする私は性格が悪いのかしら……?
「なっ……」
パメラ様の反応が予想外だったみたいで、言葉に詰まらせるジャスパー様。
理由も付けずに私に婚約破棄を言い渡してきた人でも、この状況になると固まってしまうのね。
でも、この二人の立場は公爵家と公爵家だから、私の時と違って対抗することも出来る。
「私以外の女性と親密そうにしていたところは、この目で見ておりますわ。
私という可愛く美しい婚約者が居ながら、他の女性と親密にするとはどういうおつもりなのですか?」
「俺は他家との親交を維持するために、お話しをしていただけだ。
だから握手はしても、それ以上のことはしない」
「私の目からは、口付けを交わしているように見えましたけれど?」
千里眼で見ている間、ジャスパー様が口付けを交わしている様子は無かった。
角度を変えたらそう見えるかもしれないけれど、顔の距離が近いだけ。
パメラ様の方はしっかり唇が触れていたのだけど。
「顔は近かったかもしれないが、口は触れていない。
まさかとは思うが、自分がしていて勘違いしたのか?」
「……。
まさか。私がそのような不貞を働くように見えましたの?」
「男に抱きつきながら言われても、説得力が無いな」
パメラ様は今も私が知らない殿方と抱きしめ合っていて、誰がどう見ても浮気中だ。
だから、次第にパメラ様の言葉を疑う声が増えてきた。
けれども、そんな時。
「ジャスパーぁ……あたしを放っておかないでぇ……?」
そんな甘い声が聞こえたと思ったら、私が知らないご令嬢が唇を重ねていた。
貴族年鑑で、王国内の貴族子女の顔は覚えていたはずなのだけど、あの顔は見たことが無いのよね。
それに、貴族令嬢らしい所作の欠片も見られない。
「まさか、平民……?」
平民と結婚することが無いわけではないけれど、血筋を重んじる貴族ではめったに無いのよね。
男爵家ではよくあることでも、伯爵家より上では殆ど縁が無い。
公爵令息となれば平民と結婚するなんて有り得ないはずだから、千里眼で見えている光景を疑いたくなった。
「ジャスパー様も浮気をしているではありませんか!」
「ちがう、これには深いわけが!
……彼女は俺の義妹だ!」
「そんなの関係ありませんわ! 私以外の女性と親密にするだなんて許せません!
婚約は破棄しましょう!」
「ああ、そうしよう。阿婆擦れはこちらから願い下げだ」
婚約破棄で決着がついたみたいだけど、夜会はお通夜と変わらない雰囲気のまま。
結局、主催の第一王子殿下の声によって夜会はお開きになっていた。
◇
今使っている千里眼の魔法のお陰で、本当に会場にいるように感じられるのだけど、そのせいで悪寒がしてしまう。
理由はこの会場の中で注目を集めているパメラ様とジャスパー様。
この二人は婚約者同士の関係のはずなのに、どうして他の異性に声をかけているのかしら?
それも一人ではなくて、会場のほぼ全員に……。
「夜会ってこんなに重い空気になるものなのね……」
私が冤罪を着せられた時はここまで重苦しいものではなかったはず。
だから、つい声を漏らしてしまった。
「奥様……? お一人で一体何を……?
遠い目をされていますが、幻覚でも見えているのでしょうか?」
そんな声が聞こえてきたから、意識を近くに向ける私。
千里眼はそのままに、意識だけを戻したら目の前の光景も夜会の様子も見れるようになった。
「遠くを見る魔法を使っているの。そんなに間抜けな顔をしていたかしら?」
「間抜けではありませんが、心配になるお顔をされておりました」
「大丈夫だから気にしないで」
千里眼に意識を戻すと、パメラ様とジャスパー様に動きがあった。
ジャスパー様がパメラ様に近付いて行って、愛おしげな表情のまま抱き締めようとしていた。
けれども、その腕がパメラ様に触れることは無かった。
「気安く触らないで! 浮気者なんて願い下げですわ!」
どの口が……!
そんなツッコミを心の中で入れたのは私だけではなかったみたいで、周りの参加者からも疑いの目が向けられている。
パメラ様はジャスパー様以外の男性を複数人侍らせていて、直前までは口付けまで交わしていた。
自分のことは棚に上げて、とはまさにこのことだ。
でも、見ているだけなら良い娯楽よね。
私を酷い目に遭わせてくれたパメラ様とジャスパー様が不幸になりそうな状況を見て、楽しみにする私は性格が悪いのかしら……?
「なっ……」
パメラ様の反応が予想外だったみたいで、言葉に詰まらせるジャスパー様。
理由も付けずに私に婚約破棄を言い渡してきた人でも、この状況になると固まってしまうのね。
でも、この二人の立場は公爵家と公爵家だから、私の時と違って対抗することも出来る。
「私以外の女性と親密そうにしていたところは、この目で見ておりますわ。
私という可愛く美しい婚約者が居ながら、他の女性と親密にするとはどういうおつもりなのですか?」
「俺は他家との親交を維持するために、お話しをしていただけだ。
だから握手はしても、それ以上のことはしない」
「私の目からは、口付けを交わしているように見えましたけれど?」
千里眼で見ている間、ジャスパー様が口付けを交わしている様子は無かった。
角度を変えたらそう見えるかもしれないけれど、顔の距離が近いだけ。
パメラ様の方はしっかり唇が触れていたのだけど。
「顔は近かったかもしれないが、口は触れていない。
まさかとは思うが、自分がしていて勘違いしたのか?」
「……。
まさか。私がそのような不貞を働くように見えましたの?」
「男に抱きつきながら言われても、説得力が無いな」
パメラ様は今も私が知らない殿方と抱きしめ合っていて、誰がどう見ても浮気中だ。
だから、次第にパメラ様の言葉を疑う声が増えてきた。
けれども、そんな時。
「ジャスパーぁ……あたしを放っておかないでぇ……?」
そんな甘い声が聞こえたと思ったら、私が知らないご令嬢が唇を重ねていた。
貴族年鑑で、王国内の貴族子女の顔は覚えていたはずなのだけど、あの顔は見たことが無いのよね。
それに、貴族令嬢らしい所作の欠片も見られない。
「まさか、平民……?」
平民と結婚することが無いわけではないけれど、血筋を重んじる貴族ではめったに無いのよね。
男爵家ではよくあることでも、伯爵家より上では殆ど縁が無い。
公爵令息となれば平民と結婚するなんて有り得ないはずだから、千里眼で見えている光景を疑いたくなった。
「ジャスパー様も浮気をしているではありませんか!」
「ちがう、これには深いわけが!
……彼女は俺の義妹だ!」
「そんなの関係ありませんわ! 私以外の女性と親密にするだなんて許せません!
婚約は破棄しましょう!」
「ああ、そうしよう。阿婆擦れはこちらから願い下げだ」
婚約破棄で決着がついたみたいだけど、夜会はお通夜と変わらない雰囲気のまま。
結局、主催の第一王子殿下の声によって夜会はお開きになっていた。
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