上 下
79 / 100
第2章

79. ここは地獄ですか?

しおりを挟む
 私が見ているのは、王都にあるアルフェルグ邸で開かれている夜会の会場。
 今使っている千里眼の魔法のお陰で、本当に会場にいるように感じられるのだけど、そのせいで悪寒がしてしまう。

 理由はこの会場の中で注目を集めているパメラ様とジャスパー様。
 この二人は婚約者同士の関係のはずなのに、どうして他の異性に声をかけているのかしら?

 それも一人ではなくて、会場のほぼ全員に……。

「夜会ってこんなに重い空気になるものなのね……」

 私が冤罪を着せられた時はここまで重苦しいものではなかったはず。
 だから、つい声を漏らしてしまった。

「奥様……? お一人で一体何を……?
 遠い目をされていますが、幻覚でも見えているのでしょうか?」

 そんな声が聞こえてきたから、意識を近くに向ける私。
 千里眼はそのままに、意識だけを戻したら目の前の光景も夜会の様子も見れるようになった。

「遠くを見る魔法を使っているの。そんなに間抜けな顔をしていたかしら?」
「間抜けではありませんが、心配になるお顔をされておりました」
「大丈夫だから気にしないで」

 千里眼に意識を戻すと、パメラ様とジャスパー様に動きがあった。
 ジャスパー様がパメラ様に近付いて行って、愛おしげな表情のまま抱き締めようとしていた。

 けれども、その腕がパメラ様に触れることは無かった。

「気安く触らないで! 浮気者なんて願い下げですわ!」

 どの口が……!
 そんなツッコミを心の中で入れたのは私だけではなかったみたいで、周りの参加者からも疑いの目が向けられている。
 パメラ様はジャスパー様以外の男性を複数人侍らせていて、直前までは口付けまで交わしていた。

 自分のことは棚に上げて、とはまさにこのことだ。
 でも、見ているだけなら良い娯楽よね。

 私を酷い目に遭わせてくれたパメラ様とジャスパー様が不幸になりそうな状況を見て、楽しみにする私は性格が悪いのかしら……?
 
「なっ……」

 パメラ様の反応が予想外だったみたいで、言葉に詰まらせるジャスパー様。
 理由も付けずに私に婚約破棄を言い渡してきた人でも、この状況になると固まってしまうのね。

 でも、この二人の立場は公爵家と公爵家だから、私の時と違って対抗することも出来る。

わたくし以外の女性と親密そうにしていたところは、この目で見ておりますわ。
 私という可愛く美しい婚約者が居ながら、他の女性と親密にするとはどういうおつもりなのですか?」
「俺は他家との親交を維持するために、お話しをしていただけだ。
 だから握手はしても、それ以上のことはしない」
わたくしの目からは、口付けを交わしているように見えましたけれど?」

 千里眼で見ている間、ジャスパー様が口付けを交わしている様子は無かった。
 角度を変えたらそう見えるかもしれないけれど、顔の距離が近いだけ。

 パメラ様の方はしっかり唇が触れていたのだけど。

「顔は近かったかもしれないが、口は触れていない。
 まさかとは思うが、自分がしていて勘違いしたのか?」
「……。
 まさか。私がそのような不貞を働くように見えましたの?」
「男に抱きつきながら言われても、説得力が無いな」

 パメラ様は今も私が知らない殿方と抱きしめ合っていて、誰がどう見ても浮気中だ。
 だから、次第にパメラ様の言葉を疑う声が増えてきた。

 けれども、そんな時。

「ジャスパーぁ……あたしを放っておかないでぇ……?」

 そんな甘い声が聞こえたと思ったら、私が知らないご令嬢が唇を重ねていた。
 貴族年鑑で、王国内の貴族子女の顔は覚えていたはずなのだけど、あの顔は見たことが無いのよね。

 それに、貴族令嬢らしい所作の欠片も見られない。

「まさか、平民……?」

 平民と結婚することが無いわけではないけれど、血筋を重んじる貴族ではめったに無いのよね。
 男爵家ではよくあることでも、伯爵家より上では殆ど縁が無い。

 公爵令息となれば平民と結婚するなんて有り得ないはずだから、千里眼で見えている光景を疑いたくなった。

「ジャスパー様も浮気をしているではありませんか!」
「ちがう、これには深いわけが! 
 ……彼女は俺の義妹だ!」
「そんなの関係ありませんわ! 私以外の女性と親密にするだなんて許せません!
 婚約は破棄しましょう!」
「ああ、そうしよう。阿婆擦れはこちらから願い下げだ」

 婚約破棄で決着がついたみたいだけど、夜会はお通夜と変わらない雰囲気のまま。
 結局、主催の第一王子殿下の声によって夜会はお開きになっていた。



   ◇


しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

処理中です...