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第2章

77. ささやかな呪いです

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 あの後無事に水を生み出す魔道具を完成させた私は、工事の進捗を見て回ることにした。

 まずはお屋敷の隣に新しく造られることになった、水道管理棟から。
 ここは公爵家で直接管理することになる予定で、使用人さん達の手で魔石を補充する計画らしい。

 私は発案者だけれど、細かいところを詰めるのは執事さん達の仕事なのだから。
 ちなみに、案内役は庭師さん。土魔法に長けていて、水を貯めるための大きな穴を掘るこの場所が適任ということらしい。

「こんなに大きな穴にするのね」
「万が一魔石を切らしても、ある程度は持たせられるようにしないと死人が出ますからね」
「しっかり考えられているみたいで安心したわ。
 魔道具を付けるのはいつ頃になるかしら?」
「明日にはタンクが入るので、同時に付けようと考えています」

 計画では三つのタンクを用意することになっているけれど、時間が限られているから最初は一つだけにする予定だから、明日には一つ分完成することになるみたい。

 ここで作った水はお屋敷では使えないから、お屋敷は今まで通り小さな魔道具に頼ることになりそうね。

「分かったわ。
 付ける時になったら呼びに来てくださいね」
「畏まりました」

 いくら使用人さん達を信用しているといっても、神鉄ミスリルのような貴重なものは渡せない。
 使用人さんが悪用しなくても、それを盗もうとする人も出てくるから。

 そもそも神鉄を使っていることは私とカチーナしか知らないけれど……。

「そういえば、魔石を上から入れるだけで水が出るようになっていますか?」
「ええ、もちろんよ。水が一杯になったら止まるようにしてあるから、溢れる心配も無いわ」
「流石は奥様、完璧のようですね」

 わざわざ上級魔法で作ったのは、効率のこともあるけれど水が一杯になっている時には魔石が触れていても水を生み出さないようにするため。
 こういう複雑な魔法だと、中級魔法以上にしない出来ないのよね。

 初級魔法でも使い手が少ないのに、上級魔法になると作れる人はもっと少なくなると思う。
 神鉄は滅多なことでは壊れないけれど、万が一壊れたら治すのは大変かもしれない。

「ええ。お屋敷の隣から大洪水になるのは嫌ですもの」
「確かに、それは想像したくありません……」

 タンクが入る場所は大丈夫そうね。
 次は街につながる管を通す場所なのだけど……。

「ここも穴は掘れたのね」
「はい。皆さん力持ちで、あっという間でした!」
「そんなに力持ちだったの? 予定より早く終わって良かったわ」

 ここまでは順調そう。
 けれども、町に降りてみると、途端に進みが悪くなっていた。

 穴は確かに掘れているけれど……人手が足りていないみたい。
 報酬は少し高めにしているけれど、そもそも水道のために働ける人が少ないらしい。

「こうなったら魔道具の出番かしら……」
「土を掘る魔道具なんて作れるんですか?」
「ええ、もちろんよ。
 でも大きさを変えられないから、みんなが使っているスコップを軽い力で動かせるようにしようと思うわ」
「なるほど、その手がありましたか」

 魔道具は場所によって大きさを変えることは出来ないから、アルタイス領では子供でも簡単に畑を耕せるように、少しの力で動かせるくわを作ったのよね。中身はただの身体能力強化の魔法だけれど、領民からは好評だった。
 その時に使った魔道具を付ければ、スコップでも同じことが出来ると思う。

 今日は魔力が残り少ないから作れないけれど、明日は早めに起きて魔道具を作ったほうが良さそうね。



 工事があまり進んでいなかったから、視察もここで終わり。
 この計画のために参加してくれた人たちにお礼を言った私は、歩いてお屋敷まで戻った。

 今日はグレン様はカストゥラ領の隣に領地を持つオグマ侯爵家に行っているから、夕食は私と使用人さん達だけだ。
 義両親も遠くに領地を構えている家に交渉に行っていて、四日は帰ってこれないらしい。

 私が断罪される前なら、殆どの貴族が王都の屋敷で暮らしていたから交渉もすぐに済ませられたのだけど、今は王都で暮らしている貴族は国王派くらいしかいないから、仕方ないのよね。
 早く平和で快適な世の中になって欲しいわ……。


 そんなことを考えながら廊下を進んでいると、ふとブランがこんな事を口にした。

「レイラを恨んでるパメラって人、面白いことになりそうだよ?」
「どうして分かるの?」
「千里眼だよ。山があっても壁があっても、場所さえ分かれば様子を見れるんだ」

 得意げな口調でそんなことを言われて、つい足を止めてしまう私。

「そんな魔法、本当にあるの……?」
「僕が使えるんだから、レイラも使えると思ってたんだけど……」
「存在も知らなかったわ。本当に使えたら、グレン様の様子も見れるのね」
「あ、うん。そうなるね」

 遠い目をされてしまったけれど、大事な人の無事を確認できるようになるのは、すごく嬉しい情報だわ。
 もう夕食の時間だから今から練習したりは出来ないけれど、寝る準備を終えたら少し余裕があるから、そこで試そうかしら。

「パメラ様が面白いことになるのって、いつか分かるかしら?」
「今夜って話してるみたいだから、夕食のあとくらいじゃないかな?」
「ありがとう。夕食を終えたらすぐに練習するわ」

 今日は夜更かしになりそうね。
 そんなことを思いながら、食堂の扉を開ける私だった。

 パメラ様の不幸を一番の楽しみにしているわけではないけれど、私の人生にも関わることだから気になるのよね。
 ついでに私を裏切ったジャスパー様も痛い目に遭わないかしら?

 こっそり、次に靴を履いた時に小石が入るようにお願いしておいた。
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