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第2章

72. これからを考えて

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 あれから少しして、馬車で私達のところに来たグレン様は、魔石の山を見て固まっていた。
 防衛戦にいた衛兵さん達も一緒に来ているのだけど、一歩も動けなくなっている。

 視線は……魔石の山と、私!?

「私、危なくないですよ……?」
「ししし失礼しました! ただ、こんなに可愛らしいお方があのような魔法を扱っていたことが信じられず……」

 衛兵さんがそう口にすると、グレン様がその衛兵さんを睨みつけていた。

 意外だと言いたげな衛兵さんの気持ちもなんとなく分かる。
 こんな弱そうなただの令嬢が魔物を壊滅させたことなんて、普通は受け入れられないわよね。

 そもそも攻撃魔法は男性の方が上手く扱える傾向があって、女性は苦手というのが常識なのだから。
 例に漏れず私も攻撃魔法は苦手だけれど、それでも他の人よりは長けている。

「奥様の魔法は特別ですからね。
 完璧とはまさにこの事です」
「これでも攻撃魔法は苦手なのよ?」
「ええ、存じております。治癒魔法は高度なものを容易に扱えるのに、攻撃魔法は詠唱していましたものね」
「そこまで見ていたのね」

 そんなことをお話している間にグレン様が復活して、衛兵さん達に指示を飛ばし始めた。

「この山を全部屋敷に運ぶように! これはカストゥラ領の未来を左右するものだ!」
「承知しました!」

 少しずつ切り崩されて、荷物を運ぶための馬車に乗せられていく魔石の山。
 でも、馬車一杯に積んでも中々減る様子は無かった。

「それにしても、この大きさの魔物が一斉に襲ってくるとは、どうなっている……」
「またパメラ様の治癒魔法なのでしょうけれど、この量は初めてなので不思議ですわ」

 今までに無かった数の魔物が襲ってくるということは、パメラ様が今までよりも治癒魔法を扱えるようになったこと以外に考えられない。
 でも、学院でのパメラ様の態度を思い出してみると、努力して成長するなんて考えられないのよね。

 魔法を扱う能力というのは、素質意外に知識や練習といった努力も大切だから、普段から与えられた課題をこなさず、それでも素質だけはあったから成績は上位を取り続けていたパメラ様が成長するなんて考えにくい。
 それとも、努力するようになる原因があったのかしら?

 気になるけれど、考えても答えは出なさそうね……。

 ちなみに、私は努力もしている方だと思う。
 素質の影響は大きいかもしれないけれど、練習していなかったら攻撃魔法は今のように扱えていない。

 治癒魔法だって同じだ。
 何があっても家族と使用人のみんなを助けられるようにって、手指のように使えるように練習したから。

「あのパメラの治癒魔法の効果が上がったのか? まさか、な。
 脅しを受けているか、それとも手を貸している人物が居るかのどちらかだろう」
「グレン様もそうお考えなのですね」
「これ以外には考えられないな。常識的には。
 目の前に非常識の塊が居るから、この常識もあまり信用出来ないが」

 そんなことを口にしながら、私をじっと見つめるグレン様。
 誰が非常識ですって……!?

 家が伯爵家にしては貧しくて、良家の令嬢らしくない自覚はあるけれど、それでも貴族の常識は身に着けているつもりだ。
 それなのに……!

「私、そんなに常識が無かったでしょうか?」
「ああ。魔法に限って言えば、俺の知っている常識は何一つ通用しないな。
 貴族の常識とも少し離れている気がするが……」
「そこは否定して欲しかったです……」

 今は社交界に出ないから常識が身に付いていなくても大丈夫だけれど、これからは他の貴族と協力することも増えると思う。
 そんな時に非常識な振る舞いをしていたら、避けられるようになるかもしれない。

 もしも現実になったら、グレン様や使用人のみんなにも迷惑がかかってしまうから、公爵家で常識を身に着けた方が良いかもしれないわ……。

「レイラの常識に囚われずに行動できるところも好きだから、安心してくれ」
「グレン様は良くても、外に出るとなると問題になると思いますの」
「問題にする相手はこちらから願い下げだ。
 だからレイラはそのままでも良い。無理に変わろうとしなくて良い」

 侍女のみんなも頷いているから、きっと今のままなら問題にはならないのかもしれない。
 でも、もう少し両家の奥様らしい振る舞いも身に付けたいのよね……。

 似合わないとは分かっていても、やっぱり気品への憧れは捨てきれない。
 貧乏とはいえ伯爵家の令嬢だったから、相応の振る舞いは身に付けているけれど、お義母様を見ていたら全然足りないと思う。

 それくらい、お義母様の所作は整っていて美しかった。
 だから、グレン様の言葉にこんな風に返してみる。

「私が変わりたいと言ったら、グレン様は止めますか?」
「もしそうなら、レイラが目指す姿になれるように手を貸すだけだ。止めるなどあり得ない」
「ありがとうございます! 
 早速で申し訳ないのですけど、公爵夫人らしい振る舞いを身に付けたいですわ」

 こんなことを言ったら、侍女の仕事を増やすことになるけれど、その分もっとたくさんの仕事の負担が軽くなるようにしたい。
 
「分かった。アンナ、教える余裕はあるか?」
「私でも構いませんが、大奥様の方が適任だと思われます。
 恐らく、奥様は大奥様の所作を見ていましたので」
「そうか。
 魔石が片付いたら、母上に声をかけてみよう」

 グレン様の声を聞きながら、魔石を収納の魔道具に入れる私。
 お義母様は優しいお方だから、すごく楽しみだわ。



 そんなわけで、私はグレン様がお義母様にお願いする様子を見ているのだけど……。

「母上、お願いがあります」
「改まってどうしたの?」
「レイラに所作を教えて欲しいです」
「まさか、レイラちゃんを無理矢理表に出して、交渉の材料にしようとしているの?
 自由を奪うことは許さないわ」

 いきなり雲行きが怪しくなって、ドアの取っ手を握りしめる私。
 表情までは分からないけれど、声色から少しだけ怒りが籠っているように感じた。
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