上 下
69 / 100
第2章

69. 引き出せませんでした

しおりを挟む
 私達に責任があるような内容の手紙を見て、頭を抱えたくなってしまう。
 カストゥラ家は魔法寄りの家ではあるけれど、兵力ではアルフェルグ家に劣っている。

 諜報の結果、アルフェルグ家がマハシム家などと手を組んでいることも分かっているから、戦争になるのは避けた方が良いのは確かなのよね……。

「人間くらい、簡単に動けなく出来るよ?」

 珍しくブランが殺意を出しているけれど、誰かが傷つく戦争は避けたい。
 グレン様も同じ考えのようで、溜息交じりにこんなことを口にした。

「戦争で大切な領民達を苦しめる訳にはいかない。
 今回は頭を下げて、外部からの人の出入りの監視を強めよう」
「ええ、それが最善だと思いますわ」

 グレン様の言葉に、頷く私。
 この事はグレン様が進めてくれることになっているから、このお話はここで終わりになった。

 今はお昼前。
 これから昼食の時間だから、私はグレン様と並んで食堂に向かった。

「……少し早すぎたようだな」
「そうですわね。でも、もうすぐ出来上がるみたいなので、待ちましょう」

 そう口にしながら、昨日から少しだけ変化している食堂を見回す私。
 ここにも部屋を暖める魔道具を繋ぐ予定で、壁に穴が開けられている。

「少し見た目が悪くなりそうですわね……」
「その心配は要りません。上手く装飾品と一体にしますから」
「この大きさでも出来るのね。楽しみにしているわ」

 今はあまり無いけれど、ここは公爵邸。
 お客様をお招きすることも多いから、見た目には気を付けないといけないのよね。

 最近は王都が混乱していて、おまけに私が狙われていることもあって、来るのはアルタイス家や他の親交が深い家ばかり。
 だから、少しくらいなら工事中でも大丈夫らしい。



 そもそも社交の場は王都だけれど、王都は聖女と王家への不信感が貯まっているそうで混乱の最中。
 とても貴族が社交に興じられる空気ではないから、今は殆どの貴族が王都から避難しているらしい。

 どうやら第三王子以外の王子殿下達が協力して、国王陛下を玉座から引きずり降ろそうとしているのだとか。
 けれども、不正を許さない方針の殿下達は貴族から見ると邪魔な存在みたいで、国王陛下と第三王子を支援している。

 ちなみに第三王子殿下はパメラ様やジャスパー様との親交も深く、私を敵視しているお方だ。
 一方の第一王子殿下と第二王子殿下は、パメラ様やジャスパー様を良くない目で見ているそうで、私が置かれている立場を良くないと思っているらしい。敵の敵は味方とは少し違うけれど、協力するべき相手ではある。

 王妃様は第一王子殿下と第二王子殿下と同じ考えみたいで、今の王家は国王派と王妃派に分かれているらしいく、貴族もどちらかに協力することを迫られている。
 アルタイス家とカストゥラ家は、王妃派につくことを決めているとグレン様から聞いている。

 この辺りの対立関係は、当主が決めることで私は従うだけなのだけれど、私が願っている通りになって良かったわ。
 もっとも、貴族の殆どは私兵に被害を出したくないから、行動には移していないから、私達にはほとんど無関係なのだけど。

 王妃派が勝てば私が追われることも無くなりそうだから、少し期待している。

「しかし、これだけの屋敷を温めるとなると、魔力が足りなくなりそうだが……」
「大丈夫ですわ。今回は上級魔法にしますので」

 私が対立のことを思い出している間にグレン様は魔力の心配をしていたみたいで、慌てて言葉を返す。
 すると、彼は不思議そうな顔をした。

「上級魔法って、魔力を大量に使うはずだが?」
「効率は良いですから、魔力が少ない人でも暖められるはずですわ」
「そんなことが出来るのだな。楽しみにしている」
「ありがとうございます。期待に応えられるように頑張りますわ」

 問題があるとすれば、上級魔法の魔道具を作ろうとしたら、一回で私の魔力がほぼ空になってしまうこと。
 でも、今はみんなが守ってくれるから大丈夫よね……。

「無理はしないように」
「大丈夫ですわ。もう魔法陣は描けてますもの」

 そんな言葉を交わしていると、料理が運ばれてきた。

 魔道具で動く冷蔵庫が完成してから、料理の幅がかなり広がったそうで、今日のメニューも最近見た記憶が無いものばかりだ。
 主食のパンでさえ、パンと言う形は留めていても中身が毎回違っている。

 湯気をのぼらせているスープだって、滅多に見ることが出来ない野菜に傷んでいないお肉が使われているから、今日も美味しいはずだわ。
 ここでの食事に慣れてしまったら、王宮で出されていた料理では物足りなくなってしまうほどなのよね。

 料理人さん達の腕はもちろんのこと、王宮でも手が出せない新鮮な食材を使っているのだから。
 ちなみに、魔道具で冷やす冷蔵庫は、氷を入れておくだけの冷蔵庫よりも良く冷やせて、魔石の大きさを変えることで温度の調整もしやすいらしい。

 でも、不思議なのは日に日に美味しくなっていることなのよね……。
 食材の新鮮さは変わらないというのに、どうなっているのか不思議だわ。

「これで最後になります」
「ありがとう」

 私の前に料理を置いてくれた使用人さんにお礼を言ってから、全員に行き届くのを待つ私。
 それから間もなく、グレン様の「いただきます」の合図で昼食を始めた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

処理中です...