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第2章
68. 分かりやすい嘘なので
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「貴女がレイラ……?
そんなはずがあるか! どこの公爵夫人が護衛と同じ服装をする!」
私が公爵夫人だと受け入れられないみたいで、声を荒げる強盗。
さっきからずっと私を睨みつけているのだけど、グレン様から獲物を狙う猛獣のような視線を向けられていることに気付いていないのかしら?
「ああ、信じられない気持ちは分かる。貴族の令嬢といえば、やたらと評判を気にして変装すらためらうからな。
だが彼女は俺の妻で間違いない。それとも、俺の頭が狂っているとでも言うか?」
グレン様の言葉にも毒が混じっていた気がするけれど、それは無視して続きを待つ私。
強盗は私が公爵夫人だと分かっても、見下すような目をやめていないのよね……。
私が女だから、痛い目には遭わないとでも思っているのかしら?
「いえ、思いません。
そこの女が狂っているとは思いますが」
「誰が狂っているだと?
一応言っておくが、俺は妻を大切にしている。レイラなら見逃すかもしれないが、俺は侮辱を許さない」
グレン様はそんな風に思っていたのね……。
でも、少し間違ってる。流石に、ここまで侮辱されたら見逃せない。
「な、なぜです!? カストゥラ公爵様は可愛くない妻に見切りを付けていると……」
「お前に命令をした人物が嘘を吐いていたのだろう。
少なくとも、俺がレイラを可愛くないと思ったことは一度も無い」
「そんな……」
「恨むなら、貴方に指示をした人を恨むべきですわ。
誰か知りませんが、貴方を使い捨てにしようとした人に復讐をしませんか?」
この強盗はおそらくパメラ様の家の使用人で、騙されている被害者でもあると思う。
だから、反省の色が見えたら重い罰にはしないようにお願いしようと思って、指示をした人を言うように促してみた。
けれども、どうやら指示をした人が大事みたいで、強盗は予想外の行動を始めた。
バキッという音がしたと思ったら、強盗の両手が自由に動かせるようになっていた。
自ら手の指を折って、縄から抜けるようにしたみたい。
「レイラ、下がって」
「いえ、私がやりますわ」
「離婚にならないなら、殺すまでだ!」
そんなことを叫びながら、椅子を振りかざす強盗。
私が何も出来ないと思ったみたいで、表情は勝ち誇るものだった。
きっと、重罪になってでも命令を完遂しようとするほど、パメラ様に忠誠を誓っているのね。
忠誠を誓うことを悪いこととは思わないけれど、悪事に手を染めてまで守ることでは無いと思う。
「分かった。俺はここから見ているよ」
これは私の勝手な都合だけれど、散々馬鹿にされて、貶められて、怒らないはずが無いのよね?
だからこの強盗には痛い思いをしてもらおうと思った。
椅子が迫ってきているから、身を低くして蹴りを入れようとする私。
強盗は反撃されると思っていなかったみたいで、驚いていた。
「ぐえっ……」
蹴りは狙いを少し逸れたけれど、手応えはあった。
だから攻撃を避けながら、強盗が突っ込んで来る勢いを利用して、床に投げ払う。
すると、派手な音を立てて、強盗が床に倒れた。
「お見事。綺麗な動きだったよ。
しかし……容赦ないね? 股間を蹴られた男は半日は痛みに悶えるって知ってるか?」
「お腹を狙っていましたのに……」
「あまりにも綺麗な動きだったから、狙っているものだと思ったよ」
「流石に汚い場所を狙ったりはしませんわ」
めでたく沈黙した強盗に足を乗せて、動きを封じているグレン様に言葉を返す私。
強盗が痛みに悶えるのは分かるけれど、グレン様まで苦虫を噛み潰したような顔をしているのはどうしてかしら?
もしかして、この強盗の仕業……?
今の投げでグレン様を巻き込んでしまったのかしら?
「グレン様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫だが、何かあったか?」
「いえ、何も」
それからすぐに、強盗を椅子に縛り付けていくグレン様。
どうやら今ので失神したみたいで、糸の切れた操り人形を縛り付けているみたいだった。
「結局、首謀者までは分からず、か。
あとは拷問するしかないだろう」
「仕方ありませんわ。人殺しを企んでいたくらいですもの。
もう慈悲も情けも必要ないと思いますわ」
私が聞き出したパメラ様の指示という言葉も真実とは限らないから、グレン様の判断は正しいと思う。
こういう時、差し向けられた暗殺者などに可哀相という感情を抱いてしまったら、足元を掬われるのは私達の方なのだから。
「ああ、間違いないな。拷問は俺の方で進めておく。
何かあったらすぐに伝えよう」
「ありがとうございます」
それからのグレン様は、この牢にいる人達に色々な指示を出していた。
でも、それも長くはかからないから、十分ほど経った頃に私達は屋敷に向かう馬車に乗った。
◇
翌日。
拷問の結果、パメラ様が首謀者だと判断された。
暗殺の首謀は立派な犯罪。
だからパメラ様は捕らえられることになるはずだ。
けれども、王国騎士団は動かなかった。
都合の悪いことに、アルフェルグ公爵様は兵部興だから、今回のことを揉み消したらしい。
「……ということだから、パメラを捕らえるには戦争しか選択肢が無い。
それどころか、向こうはこんな手紙を送ってきた」
申し訳なさそうにするグレン様が見せてきたのは、アルフェルグ公爵様のサインが記されている手紙だった。
『パメラはそのような卑劣な事はしない。この件はアルフェルグ家に対する侮辱と捕らえる。
すぐに謝罪しなければ、戦争も辞さない』
非を認めないどころか、私達に非があるように書かれているのは気のせいかしら……?
そんなはずがあるか! どこの公爵夫人が護衛と同じ服装をする!」
私が公爵夫人だと受け入れられないみたいで、声を荒げる強盗。
さっきからずっと私を睨みつけているのだけど、グレン様から獲物を狙う猛獣のような視線を向けられていることに気付いていないのかしら?
「ああ、信じられない気持ちは分かる。貴族の令嬢といえば、やたらと評判を気にして変装すらためらうからな。
だが彼女は俺の妻で間違いない。それとも、俺の頭が狂っているとでも言うか?」
グレン様の言葉にも毒が混じっていた気がするけれど、それは無視して続きを待つ私。
強盗は私が公爵夫人だと分かっても、見下すような目をやめていないのよね……。
私が女だから、痛い目には遭わないとでも思っているのかしら?
「いえ、思いません。
そこの女が狂っているとは思いますが」
「誰が狂っているだと?
一応言っておくが、俺は妻を大切にしている。レイラなら見逃すかもしれないが、俺は侮辱を許さない」
グレン様はそんな風に思っていたのね……。
でも、少し間違ってる。流石に、ここまで侮辱されたら見逃せない。
「な、なぜです!? カストゥラ公爵様は可愛くない妻に見切りを付けていると……」
「お前に命令をした人物が嘘を吐いていたのだろう。
少なくとも、俺がレイラを可愛くないと思ったことは一度も無い」
「そんな……」
「恨むなら、貴方に指示をした人を恨むべきですわ。
誰か知りませんが、貴方を使い捨てにしようとした人に復讐をしませんか?」
この強盗はおそらくパメラ様の家の使用人で、騙されている被害者でもあると思う。
だから、反省の色が見えたら重い罰にはしないようにお願いしようと思って、指示をした人を言うように促してみた。
けれども、どうやら指示をした人が大事みたいで、強盗は予想外の行動を始めた。
バキッという音がしたと思ったら、強盗の両手が自由に動かせるようになっていた。
自ら手の指を折って、縄から抜けるようにしたみたい。
「レイラ、下がって」
「いえ、私がやりますわ」
「離婚にならないなら、殺すまでだ!」
そんなことを叫びながら、椅子を振りかざす強盗。
私が何も出来ないと思ったみたいで、表情は勝ち誇るものだった。
きっと、重罪になってでも命令を完遂しようとするほど、パメラ様に忠誠を誓っているのね。
忠誠を誓うことを悪いこととは思わないけれど、悪事に手を染めてまで守ることでは無いと思う。
「分かった。俺はここから見ているよ」
これは私の勝手な都合だけれど、散々馬鹿にされて、貶められて、怒らないはずが無いのよね?
だからこの強盗には痛い思いをしてもらおうと思った。
椅子が迫ってきているから、身を低くして蹴りを入れようとする私。
強盗は反撃されると思っていなかったみたいで、驚いていた。
「ぐえっ……」
蹴りは狙いを少し逸れたけれど、手応えはあった。
だから攻撃を避けながら、強盗が突っ込んで来る勢いを利用して、床に投げ払う。
すると、派手な音を立てて、強盗が床に倒れた。
「お見事。綺麗な動きだったよ。
しかし……容赦ないね? 股間を蹴られた男は半日は痛みに悶えるって知ってるか?」
「お腹を狙っていましたのに……」
「あまりにも綺麗な動きだったから、狙っているものだと思ったよ」
「流石に汚い場所を狙ったりはしませんわ」
めでたく沈黙した強盗に足を乗せて、動きを封じているグレン様に言葉を返す私。
強盗が痛みに悶えるのは分かるけれど、グレン様まで苦虫を噛み潰したような顔をしているのはどうしてかしら?
もしかして、この強盗の仕業……?
今の投げでグレン様を巻き込んでしまったのかしら?
「グレン様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫だが、何かあったか?」
「いえ、何も」
それからすぐに、強盗を椅子に縛り付けていくグレン様。
どうやら今ので失神したみたいで、糸の切れた操り人形を縛り付けているみたいだった。
「結局、首謀者までは分からず、か。
あとは拷問するしかないだろう」
「仕方ありませんわ。人殺しを企んでいたくらいですもの。
もう慈悲も情けも必要ないと思いますわ」
私が聞き出したパメラ様の指示という言葉も真実とは限らないから、グレン様の判断は正しいと思う。
こういう時、差し向けられた暗殺者などに可哀相という感情を抱いてしまったら、足元を掬われるのは私達の方なのだから。
「ああ、間違いないな。拷問は俺の方で進めておく。
何かあったらすぐに伝えよう」
「ありがとうございます」
それからのグレン様は、この牢にいる人達に色々な指示を出していた。
でも、それも長くはかからないから、十分ほど経った頃に私達は屋敷に向かう馬車に乗った。
◇
翌日。
拷問の結果、パメラ様が首謀者だと判断された。
暗殺の首謀は立派な犯罪。
だからパメラ様は捕らえられることになるはずだ。
けれども、王国騎士団は動かなかった。
都合の悪いことに、アルフェルグ公爵様は兵部興だから、今回のことを揉み消したらしい。
「……ということだから、パメラを捕らえるには戦争しか選択肢が無い。
それどころか、向こうはこんな手紙を送ってきた」
申し訳なさそうにするグレン様が見せてきたのは、アルフェルグ公爵様のサインが記されている手紙だった。
『パメラはそのような卑劣な事はしない。この件はアルフェルグ家に対する侮辱と捕らえる。
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