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第2章
65. 怪しい空気
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「今回はどのような形のものをお求めですか?」
案内された椅子に腰を下ろすと、向かい側に座った店員さんから質問が投げかける。
鍛冶屋に部品を頼むときは設計図か複製する形のものが必要になるみたいなのだけど、設計図は書けないから実物を持ってきたのよね。
それを収納の魔道具から取り出すと、店員さんは少し驚いていた。
一応、収納魔法というものも存在していて、王国の中にも闇魔法に適性がある人を中心に使い手は何人かいる。魔法が存在しなければ魔道具を作れないという前提はあるのだけど。
だから驚かれはしたけれど、魔道具の存在までは気付かれていないと思う。
「これを三十個お願い出来ますか?」
「確認してまいりますので、お待ちください」
店員さんは部品を抱えて応接室を後にした。
そうして雑談を交わしながら待つこと数分。
部品と何かが書かれている紙を持って部屋に戻ってきた。
「お待たせしました。こちらですと、材料費などを考慮してこの金額になりますが、如何ですか?」
この言葉と共に差し出された紙には材料費や人件費などが細かく書かれていた。
当然のように利益も考えられているけれど、どれも相場通りだった。
「問題ありませんわ。どれくらいで完成させられますの?」
「全て完成するまでは半月ほど時間を頂きたく思います」
「分かりましたわ。多少は遅れても構わないから、壊れにくいようにお願い」
「畏まりました」
このやり取りの後に正式に契約を交わして、お金も渡した。
だから予定通りに進めば半月後に出揃うはずだから、それまでに中身――魔道具になる部分を作らなくちゃ。
「ありがとうございました」
「よろしくお願いしますね」
最後にそんな言葉を交わしてから、鍛冶屋を後にする私達。
他に用事は無いからお屋敷に向けて歩き始めたのだけど……。
「誰か衛兵を呼んで!」
「強盗が出たぞ!」
足を向けている方から、そんな声が聞こえてきた。
この辺りは治安が良かったはずなのに……。
防御魔法は屋敷を出る前から使っているけれど、何が起きているのか分からないから慎重に近付いていく。
すると、昼間なのに真っ黒な服で全身を包んでいる五人くらいの集団が目に入った。
「動きからして手練れですね……」
「そうみたいね。中には強盗しかいないみたいだわ」
「奥様、まさか捕らえるのですか?」
「悪行は見過ごせないもの」
物陰から様子を見ている私達に気付いた様子はなくて、売り物の小麦や野菜が次々と箱のまま運び出されていく。
馬車も持っているだなんて、珍しいわね……。
馬は繋がれていないみたいだけど、逃げられないように車輪を氷魔法で固めておいた。
「普通は宝石店が狙われるので、不穏です」
「そうよね……。この人達はお金以外の目的があるみたいね」
「それに、この商店は私達が使う食材の一部を扱っています。本当にただの強盗なのか怪しいですね……」
私もカチーナと同じことを考えていた。
この人達はただの強盗ではないことは間違いない。
どういうわけか、土魔法で地面に罠を作っているから。
魔法が使える人は貴族や王家に雇われることが多くて、それだけで豊かな生活が保障されるのだから、強盗なんてする必要が無いのよね。
この強盗達がカストゥラ領の外から来ているなら、他の貴族か王家が差し向けた妨害ということになる。
屋敷の守りは固いから、公爵家を支えている商人を潰そうと考えたのかしら?
「全員捕まえるわ。カチーナ、紙は持っているかしら?」
「はい、こちらに」
「ありがとう」
この人数なら一人で拘束できると思うけれど、何が起こるか分からないから、屋敷の方に援護をお願いする手紙を飛ばした。
「そろそろ出てくるかしら?」
「あの馬車にはまだ乗りそうですよ?」
「そうよね……」
今の状況で戦うとお店の方にも被害が出るかもしれない。
だから全員が出てくるのを待っているのだけど、まだ動きそうにないのよね……。
けれども、その時は突然訪れた。
三人が馬車に飛び乗ろうとして、残りの二人が馬を繋ぐはずの縄を掴んで、馬車を引っ張ろうとしている。
「あ、転びましたね……」
「分かりやすい土魔法なのに……」
乗られても商品がダメになってしまうから、魔法で馬車に乗れないようにしておいた。
それなのに気付かないで転ぶだなんて。
本当に魔法の使い手なのか怪しいわ。
地面に作られていた落とし穴の罠は全部無力化してあるのに、それにも気付いていないみたいだもの。
「おい! どうなってる!」
「誰かの魔法だ。気付かれてたらしい!」
「クソッ! 失敗したら首が飛ぶんだぞ!?」
慌てる様子の強盗達に顔を見られないように、口元を隠してから姿を見せる私。
でも、強盗達はまだ気付いていなかった。
「諦めなさい」
「全部お前の仕業か!?」
一斉に私の方に魔法が飛んできた。
土魔法に火魔法に水魔法に風魔法に闇魔法。
五人でほとんどの属性を扱えるだなんて、やっぱりただの強盗ではないみたい。
でも、威力は大したことないわ。
当たれば少し痛そうだから、私も攻撃魔法を飛ばして打ち消すことで、全部防いだ。
「なっ……」
「こいつ、複数属性持ちかよ……」
「衛兵が魔法を使えないって情報はどこに行った!?」
強盗達の顔が絶望に染まっていく。
「大人しく従えば首が飛ばないようには出来るけど、どうする?」
「し、従います」
「そう。その前に質問してもいいかしら?
これは誰の指示?」
そう問いかけると、強盗達は一瞬ためらうような仕草をしていた。
けれども、すぐに私が知っている人の名前が飛び出してきた。
案内された椅子に腰を下ろすと、向かい側に座った店員さんから質問が投げかける。
鍛冶屋に部品を頼むときは設計図か複製する形のものが必要になるみたいなのだけど、設計図は書けないから実物を持ってきたのよね。
それを収納の魔道具から取り出すと、店員さんは少し驚いていた。
一応、収納魔法というものも存在していて、王国の中にも闇魔法に適性がある人を中心に使い手は何人かいる。魔法が存在しなければ魔道具を作れないという前提はあるのだけど。
だから驚かれはしたけれど、魔道具の存在までは気付かれていないと思う。
「これを三十個お願い出来ますか?」
「確認してまいりますので、お待ちください」
店員さんは部品を抱えて応接室を後にした。
そうして雑談を交わしながら待つこと数分。
部品と何かが書かれている紙を持って部屋に戻ってきた。
「お待たせしました。こちらですと、材料費などを考慮してこの金額になりますが、如何ですか?」
この言葉と共に差し出された紙には材料費や人件費などが細かく書かれていた。
当然のように利益も考えられているけれど、どれも相場通りだった。
「問題ありませんわ。どれくらいで完成させられますの?」
「全て完成するまでは半月ほど時間を頂きたく思います」
「分かりましたわ。多少は遅れても構わないから、壊れにくいようにお願い」
「畏まりました」
このやり取りの後に正式に契約を交わして、お金も渡した。
だから予定通りに進めば半月後に出揃うはずだから、それまでに中身――魔道具になる部分を作らなくちゃ。
「ありがとうございました」
「よろしくお願いしますね」
最後にそんな言葉を交わしてから、鍛冶屋を後にする私達。
他に用事は無いからお屋敷に向けて歩き始めたのだけど……。
「誰か衛兵を呼んで!」
「強盗が出たぞ!」
足を向けている方から、そんな声が聞こえてきた。
この辺りは治安が良かったはずなのに……。
防御魔法は屋敷を出る前から使っているけれど、何が起きているのか分からないから慎重に近付いていく。
すると、昼間なのに真っ黒な服で全身を包んでいる五人くらいの集団が目に入った。
「動きからして手練れですね……」
「そうみたいね。中には強盗しかいないみたいだわ」
「奥様、まさか捕らえるのですか?」
「悪行は見過ごせないもの」
物陰から様子を見ている私達に気付いた様子はなくて、売り物の小麦や野菜が次々と箱のまま運び出されていく。
馬車も持っているだなんて、珍しいわね……。
馬は繋がれていないみたいだけど、逃げられないように車輪を氷魔法で固めておいた。
「普通は宝石店が狙われるので、不穏です」
「そうよね……。この人達はお金以外の目的があるみたいね」
「それに、この商店は私達が使う食材の一部を扱っています。本当にただの強盗なのか怪しいですね……」
私もカチーナと同じことを考えていた。
この人達はただの強盗ではないことは間違いない。
どういうわけか、土魔法で地面に罠を作っているから。
魔法が使える人は貴族や王家に雇われることが多くて、それだけで豊かな生活が保障されるのだから、強盗なんてする必要が無いのよね。
この強盗達がカストゥラ領の外から来ているなら、他の貴族か王家が差し向けた妨害ということになる。
屋敷の守りは固いから、公爵家を支えている商人を潰そうと考えたのかしら?
「全員捕まえるわ。カチーナ、紙は持っているかしら?」
「はい、こちらに」
「ありがとう」
この人数なら一人で拘束できると思うけれど、何が起こるか分からないから、屋敷の方に援護をお願いする手紙を飛ばした。
「そろそろ出てくるかしら?」
「あの馬車にはまだ乗りそうですよ?」
「そうよね……」
今の状況で戦うとお店の方にも被害が出るかもしれない。
だから全員が出てくるのを待っているのだけど、まだ動きそうにないのよね……。
けれども、その時は突然訪れた。
三人が馬車に飛び乗ろうとして、残りの二人が馬を繋ぐはずの縄を掴んで、馬車を引っ張ろうとしている。
「あ、転びましたね……」
「分かりやすい土魔法なのに……」
乗られても商品がダメになってしまうから、魔法で馬車に乗れないようにしておいた。
それなのに気付かないで転ぶだなんて。
本当に魔法の使い手なのか怪しいわ。
地面に作られていた落とし穴の罠は全部無力化してあるのに、それにも気付いていないみたいだもの。
「おい! どうなってる!」
「誰かの魔法だ。気付かれてたらしい!」
「クソッ! 失敗したら首が飛ぶんだぞ!?」
慌てる様子の強盗達に顔を見られないように、口元を隠してから姿を見せる私。
でも、強盗達はまだ気付いていなかった。
「諦めなさい」
「全部お前の仕業か!?」
一斉に私の方に魔法が飛んできた。
土魔法に火魔法に水魔法に風魔法に闇魔法。
五人でほとんどの属性を扱えるだなんて、やっぱりただの強盗ではないみたい。
でも、威力は大したことないわ。
当たれば少し痛そうだから、私も攻撃魔法を飛ばして打ち消すことで、全部防いだ。
「なっ……」
「こいつ、複数属性持ちかよ……」
「衛兵が魔法を使えないって情報はどこに行った!?」
強盗達の顔が絶望に染まっていく。
「大人しく従えば首が飛ばないようには出来るけど、どうする?」
「し、従います」
「そう。その前に質問してもいいかしら?
これは誰の指示?」
そう問いかけると、強盗達は一瞬ためらうような仕草をしていた。
けれども、すぐに私が知っている人の名前が飛び出してきた。
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