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第2章
64. 久々に歩きます
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「では、改造計画は我々で纏めて、旦那様に提出致します」
「ありがとう。どんな風になるのか楽しみにしているわ」
あの後、お屋敷改造計画は庭師さん達が進めてくれることになったから、私は馬車に乗せる分の魔導具の材料を鍛冶屋に注文しに行くことにしている。
時間もお昼を過ぎたばかりだから、今なら一人でも大丈夫。
簡単な魔導具の材料ならまだ残っているけれど、この大きさのものは用意していなかったのよね……。
問題はお金なのだけど、今の私には黒竜討伐の報奨金がある。
グレン様に言わせてみると少ない額でも、貧乏伯爵家出身の私に取っては大金だ。
それに魔導具の材料になる鉄ならそこまでお金はかからない。
でも、節約はした方がいいのよね……。
お金は無限ではないから。
お金の稼ぎ方を考えながら廊下を進んで、私室に戻った私は早速鍛冶屋に行く準備を始めた。
準備とは言っても、襲われた時に戦いやすいように護衛さんが着ているのと同じデザインの服に着替えるだけ。
「すっかり奥様が護衛の制服を着ることにも慣れてしまいました……」
「仕方ないじゃない。動きやすくて色々なものを入れられる服はこれくらいしか無いのだから」
「確かに便利そうではありますが、男性用ですよ?」
ちなみに、セットになってる制服の帽子に髪を入れておけば、一目見ただけだと殿方と間違えられることもある。
「偽装も兼ねてるから、これでいいのよ」
「確かに……胸筋だけが逞しい護衛に見えなくもありませんね。ガルドさんなんかには負けてますけど……」
殿方に胸で負けるだなんて……。
少し悲しくなった。
ここの護衛さんが逞しすぎるせいだわ……。
「弱そうに見えるのは仕方ないわよね……。襲われても全員返り討ちにするけど」
「奥様なら余裕ですね」
そんな冗談を話しながら着替えを終えた私達は、必要な荷物を収納の魔道具に入れてから屋敷を出た。
鍛冶屋までは歩いて数分のところにあるから今日は馬車は使わないで歩いて移動するつもり。
最近はずっとブランの背中に乗って移動していたから、たまには歩いた方が良いと思うのよね。
「奥様とカチーナさんでしたか。行ってらっしゃいませ」
「見送りありがとう。行ってきます」
「行ってきます」
ちなみに、侍女にも外行きの服があって、今のカチーナは貴族のお嬢様のような装いをしている。事実として、カチーナは子爵家の令嬢でもあるのだけど……。
そのせいかしら? 門を抜けて少しすると、門番さん達が「専属騎士とお嬢様という感じでしたね」なんて話している声が聞こえてきた。
今の状態だと私が従者に見えるらしい。
「奥様の変装が完璧すぎるせいですよ?」
「何も気にしていないから大丈夫よ」
小高い丘になっているお屋敷の周りは人の気配は殆どないのだけど、ここからでも町の喧騒が聞こえてくる。
大きな通りに出ると、たくさんの人が私達に視線を向けていた。
「いつの間にか、領主さまのところにお嬢様が生まれていたのか……」
「存在を秘密にされているお嬢様かもしれない」
「あんた達、そういうことにしか頭が無いの!? 普通にお客様と考えられないの?
領主様の恥にならないようにしっかりしないさい!」
近くのお店からはそんな声も聞こえてくる。
お客様だと思うなら、聞こえないようにお説教をするべきだと思うのよね。
私達はお客様ではないから今は問題にならなくても、もしお客様をお招きする時があったら大問題だ。
だから、声が聞こえてきたお店に立ち寄ってみることにした。
「お説教の声、聞こえてますよ」
この人……お屋敷でも見かけたことがあるから、カストゥラ家と取引があるお店みたい。
つまり私の顔も知っていることになるから、すぐに私が誰なのか気付いたみたいで、深々と頭を下げていた。
「し、失礼しました……。今後はこのようなことが無いように注意します」
「ありがとう。そうしてもらえると助かるわ」
「はい!」
このお店の番をしている女性からはすぐに返事が返ってきたのだけど、お説教をされていた二人は私に疑うような目を向けて来ていた。
一応、貴族に雇われている人は貴族の代行者としての意味を持つこともあるから命令すれば従わないといけない。
でも敬う必要は無いから、口調に気を付ける必要は無いというのが常識になっている。
だからお説教を受けていた人は、不思議そうな様子でこんな問いかけをしてきた。
「女性の護衛なんて居たんですね」
「本来は護られる側ですわ。こちらの方はもう分かっているみたいだけど、私は領主の妻ですの」
「へっ……? 領主の妻……?
ってことは……」
「今のことは内密にお願いしますね?」
「は、はい……」
この人は口が堅そうだから正体を明かしておいた。
取引がある商店の人なら顔が割れるのも時間の問題だもの。
「他に用があるから、これで失礼しますね」
「お邪魔しました」
軽く頭を下げてから、お店を後にする私達。
それからしばらく歩くと、鍛冶屋の看板が見えてきた。
ちなみに、鍛冶屋さんは武器を作るのを本業としているけれど、金属を使った商品も売りに出している。
だから表は金属の輝きで満たされていて、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
そんな入口をくぐって中に入ると、すぐに店員さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。本日は武器をご用命でしょうか?」
「こんな感じの部品を三十個お願いしようと思っていますの。実物もあるので、見て頂けますか?」
「かしこまりました。詳しい話は奥の応接室で伺いますね」
この鍛冶屋はカストゥラ家のお抱えだから、私の顔を見てすぐに誰なのか気付いたみたいで、そのままお店の奥に案内されることになった。
「ありがとう。どんな風になるのか楽しみにしているわ」
あの後、お屋敷改造計画は庭師さん達が進めてくれることになったから、私は馬車に乗せる分の魔導具の材料を鍛冶屋に注文しに行くことにしている。
時間もお昼を過ぎたばかりだから、今なら一人でも大丈夫。
簡単な魔導具の材料ならまだ残っているけれど、この大きさのものは用意していなかったのよね……。
問題はお金なのだけど、今の私には黒竜討伐の報奨金がある。
グレン様に言わせてみると少ない額でも、貧乏伯爵家出身の私に取っては大金だ。
それに魔導具の材料になる鉄ならそこまでお金はかからない。
でも、節約はした方がいいのよね……。
お金は無限ではないから。
お金の稼ぎ方を考えながら廊下を進んで、私室に戻った私は早速鍛冶屋に行く準備を始めた。
準備とは言っても、襲われた時に戦いやすいように護衛さんが着ているのと同じデザインの服に着替えるだけ。
「すっかり奥様が護衛の制服を着ることにも慣れてしまいました……」
「仕方ないじゃない。動きやすくて色々なものを入れられる服はこれくらいしか無いのだから」
「確かに便利そうではありますが、男性用ですよ?」
ちなみに、セットになってる制服の帽子に髪を入れておけば、一目見ただけだと殿方と間違えられることもある。
「偽装も兼ねてるから、これでいいのよ」
「確かに……胸筋だけが逞しい護衛に見えなくもありませんね。ガルドさんなんかには負けてますけど……」
殿方に胸で負けるだなんて……。
少し悲しくなった。
ここの護衛さんが逞しすぎるせいだわ……。
「弱そうに見えるのは仕方ないわよね……。襲われても全員返り討ちにするけど」
「奥様なら余裕ですね」
そんな冗談を話しながら着替えを終えた私達は、必要な荷物を収納の魔道具に入れてから屋敷を出た。
鍛冶屋までは歩いて数分のところにあるから今日は馬車は使わないで歩いて移動するつもり。
最近はずっとブランの背中に乗って移動していたから、たまには歩いた方が良いと思うのよね。
「奥様とカチーナさんでしたか。行ってらっしゃいませ」
「見送りありがとう。行ってきます」
「行ってきます」
ちなみに、侍女にも外行きの服があって、今のカチーナは貴族のお嬢様のような装いをしている。事実として、カチーナは子爵家の令嬢でもあるのだけど……。
そのせいかしら? 門を抜けて少しすると、門番さん達が「専属騎士とお嬢様という感じでしたね」なんて話している声が聞こえてきた。
今の状態だと私が従者に見えるらしい。
「奥様の変装が完璧すぎるせいですよ?」
「何も気にしていないから大丈夫よ」
小高い丘になっているお屋敷の周りは人の気配は殆どないのだけど、ここからでも町の喧騒が聞こえてくる。
大きな通りに出ると、たくさんの人が私達に視線を向けていた。
「いつの間にか、領主さまのところにお嬢様が生まれていたのか……」
「存在を秘密にされているお嬢様かもしれない」
「あんた達、そういうことにしか頭が無いの!? 普通にお客様と考えられないの?
領主様の恥にならないようにしっかりしないさい!」
近くのお店からはそんな声も聞こえてくる。
お客様だと思うなら、聞こえないようにお説教をするべきだと思うのよね。
私達はお客様ではないから今は問題にならなくても、もしお客様をお招きする時があったら大問題だ。
だから、声が聞こえてきたお店に立ち寄ってみることにした。
「お説教の声、聞こえてますよ」
この人……お屋敷でも見かけたことがあるから、カストゥラ家と取引があるお店みたい。
つまり私の顔も知っていることになるから、すぐに私が誰なのか気付いたみたいで、深々と頭を下げていた。
「し、失礼しました……。今後はこのようなことが無いように注意します」
「ありがとう。そうしてもらえると助かるわ」
「はい!」
このお店の番をしている女性からはすぐに返事が返ってきたのだけど、お説教をされていた二人は私に疑うような目を向けて来ていた。
一応、貴族に雇われている人は貴族の代行者としての意味を持つこともあるから命令すれば従わないといけない。
でも敬う必要は無いから、口調に気を付ける必要は無いというのが常識になっている。
だからお説教を受けていた人は、不思議そうな様子でこんな問いかけをしてきた。
「女性の護衛なんて居たんですね」
「本来は護られる側ですわ。こちらの方はもう分かっているみたいだけど、私は領主の妻ですの」
「へっ……? 領主の妻……?
ってことは……」
「今のことは内密にお願いしますね?」
「は、はい……」
この人は口が堅そうだから正体を明かしておいた。
取引がある商店の人なら顔が割れるのも時間の問題だもの。
「他に用があるから、これで失礼しますね」
「お邪魔しました」
軽く頭を下げてから、お店を後にする私達。
それからしばらく歩くと、鍛冶屋の看板が見えてきた。
ちなみに、鍛冶屋さんは武器を作るのを本業としているけれど、金属を使った商品も売りに出している。
だから表は金属の輝きで満たされていて、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
そんな入口をくぐって中に入ると、すぐに店員さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。本日は武器をご用命でしょうか?」
「こんな感じの部品を三十個お願いしようと思っていますの。実物もあるので、見て頂けますか?」
「かしこまりました。詳しい話は奥の応接室で伺いますね」
この鍛冶屋はカストゥラ家のお抱えだから、私の顔を見てすぐに誰なのか気付いたみたいで、そのままお店の奥に案内されることになった。
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