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閑話

59. side 聖女改め偽聖女①

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「あはは、いい気味だわ」

 下品な笑い声が響いたこの場所は、聖女のためにと新しく用意された部屋だ。
 ここ王宮には、今は王族とパメラ、そして彼女の婚約者であるジャスパーが暮らしている。

 聖女とは、それだけ価値がある立ち位置だ。

「パメラ様、聖女らしからぬ声を出すのはお止めください」
「あら、ごめんなさい」

 侍女に指摘されて、下品な笑い声を止めるパメラ。
 一応聞き分けがあるように思えるが、これは彼女の打算が影響している。

 王宮という場所であるため、武器の類は持ち込み禁止。
 幸いにも治癒魔法と防御魔法、それに多少の攻撃魔法しか扱えないから魔封じこそされていないものの、家から侍女を連れてくることは出来なかった。

 普段のパメラはわがままで聞き分けが無くて自分勝手、と闇鍋の様相なのだが、王家の代理人でもある侍女の前では令嬢の仮面を被っているから露呈はしていない。
 性格の悪さはどう頑張っても隠せそうにないけれど。

(でも、まさかこんなにあっさり死ぬとは思わなかったわ!
 私を差し置いて注目されていた恨み、やっと晴らせたわ! ああ、本当に清々する)

 自分勝手な思想でも、貴族ではこのように考えている人物は少なくない。
 一部では、身分が自分より高い者よりもいい成績を取るのは無礼で面汚しと考えている人が今も居て、パメラはその一人。

 だからレイラによって顔に泥を塗られた、イケメン公爵令息グレンとの縁談がつかめなかったと日々思っている。
 今、ジャスパーと婚約しているのは、グレンに近付くために利用するため。


 もっとも、同じ学年の公爵令息のことは一切気にかけず、目立ちたい一心で成績一位を狙っているのだが、本人はその矛盾に気付かない。

(あとはグレン様に気に入ってもらって、ジャスパーに浮気させれば完璧だわ!)

 そんな妄想をする日々はあっという間に過ぎていき、パメラに最初の天罰が下ることになった。



 事が起きたのは、いつものように大金を対価にして、怪我をした侯爵令息の治療を行っている時だった。
 突然、パメラの背後に現れた。

「パメラ様、避けて!」
「聖女の私に砕けた口調だなんて、不敬罪でアグッ」

 プライドを優先して、助けに入ろうとした護衛を押しのけるパメラ。
 彼女の頭に魔物の逞しい腕が振り下ろされるまで、時間はかからなかった。

 いくら聖女の地位を得ても、紛い物でしかない彼女に防ぐ術はなく、令嬢に似つかわしくない叫びを残して床に口付けをすることになった。

(あれは死んだかもしれないな……)

 この様子を見て、治癒魔法を受けていた侯爵令息は深刻そうな表情を浮かべた。

 気に入らない性格、舐めるような視線、金のことになるとすぐに飛びついてくる強欲。
 友人にしたくないような人物でも、治癒魔法という一点だけで価値は変わってしまう。

 そして悲しいことに、聖女の力を持つ人は同時に一人しか存在しないと言い伝えられている。

(レイラ嬢も治癒魔法を使えたはずだ。
 彼女が聖女ならどんなに良かったことか……)

 そんなことを考えているのは、彼だけではない。
 他の貴族達も、傲慢なパメラを一眼見ただけでレイラの価値を思い直していた。

 婚約破棄の時は揃いも揃ってパメラやジャスパーの味方をしていたのに。

「治癒魔法を使える者はおらぬか!」

 そんな時、パメラを大切に囲っている国王が声を荒げた。
 治癒魔法の使い手は何人か王国内に居るが、数は少ない。

 そして、一番近くに居る治癒魔法の使い手──アルタイス伯爵夫人は断罪したばかりのレイラの母だ。
 国王はすぐに早馬を出すように指示をしたが、帰ってきたのはこんな答えだった。

「娘の罪を無かったことにするのでしたら、力をお貸しします。伯爵夫人はそう言っておりました」
「伯爵夫人の立場で強気だと……。
 アルタイス家は滅ぼしても構わん! 夫人を連れて来い!」

 こめかみに青筋を立てながら怒鳴る国王に、疑うような視線が集まる。

「アルタイス家といえば、前聖女様の血を引く由緒正しき名家。そこを滅ぼそうとは……」
「あの家はカストゥラ家と仲が良い。カストゥラ家を敵に回すのは得策ではないだろう……」

 ヒソヒソと、そんなやり取りを交わす貴族達の会話は国王の耳には届かない。
 そうしてアルタイス家を滅ぼすための部隊が編成された。

 けれど、そんな時に王都が魔物に包囲され、結局はアルタイス伯爵夫人の言い分を受け入れることになっていた。
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