54 / 100
第1章
54. 信じてもらえません
しおりを挟む
「領主様、治してくれてありがとう」
「どういたしまして。他に話したい事はあるかしら?」
子供からでも、情報は集められる。
だから、そんな風に言葉を返してみた。
「前の領主様の酷いこと、聞いてくれる?」
「もちろんよ。何があったのかしら?」
膝をついたまま、目を合わせる私。
それから、子供たちは見てきたことを話してくれた。
前の領主は、女性を一人ずつ、毎日屋敷に連れ込んで何かをしていたらしい。
翌朝には必ず帰ってきたみたいだけど、暴力のせいでひどい怪我を負わされているみたい。
この町では女性が奴隷扱いされていないというのは本当みたいで、領主はこの町の人達の怒りを買って殺されたらしい。
でも、乱暴された人たちの傷はまだ癒えていないから、治して欲しいとお願いされた。
私達が怒りを向けられていたのは、歴代の領主にまともな人が居なかったからみたいだから、領主自体が拒絶されているのだと思う。
黒竜の襲撃の時に、皇帝直属の騎士団が戦う前に撤退したのも理由の内みたいだけど。
「黒竜とはどうやって戦ったの?」
「みんなで防御魔法を張ったんだ。そしたら、騎士団の方に飛んでった」
「黒竜に諦めてもらえたのね」
うん、分かっていたことだけど、この国の貴族も自分のことばかり考えているみたい。
だからと言って、ここの人達を見捨てるのは嫌だから、何とかして信頼を掴んだ方が良いわよね……。
ちなみに、男性の貴族はそれだけで拒絶されていて、私が無害だと伝えても怯えは消えていないから、グレン様とお父様には先に帰るようにお願いした。
手を借りれないと大変だけれど、これは仕方の無いこと。
グレン様は悔しそうにしていたけれど、すぐに受け入れてくれた。
「うん! 母さん達の魔法、すごかったんだよ!」
「そうだったのね。私も見てみたかったわ」
「でも、お姉さん……あっ、領主様の治癒魔法もすごかった!」
治癒魔法をかけてからは、すっかり受け入れてもらえて、子供達からは怯えの色が消えていた。
「領主様が嫌だったら、お姉さんでも良いわよ。前の領主のこと、思い出しちゃうと思うから」
「それじゃあお姉さんで!」
ようやく子供達が笑顔を浮かべてくれたから、私も自然と笑顔になれた。
それから、私は領主の証を身に着けずに街を回ることにした。
子供達から怪我をしている人がたくさん居ると教えてもらったら、行かないなんて選択は出来ない。
私は領民を守ることや助けることも領主の仕事だと思っているけれど、今までの領主は見捨てていたみたいで、私が町に行くと口にしたら驚かれたのよね。
「怪我をしている人達はこっちで良いのかしら?」
「うん! みんな劇場に居るよ!」
そんな言葉を交わしながら歩く私に刺さる視線は殆どないから居心地も悪くない。
代わりに、私が領主だと知らせてからどうなるか怖い。
「ありがとう。
怪我は酷いの?」
「腕が無くなっちゃた人はいるけど、元気そうだった!」
「そう……。みんなのご両親は無事かしら?」
「母さんはまだ治ってないけど、多分大丈夫!」
「お母さんの怪我も心配だから、一緒に治してみるわね」
先に信頼を掴むように動いた方が良いのかもしれないけれど、みんなを助ける方が先だと思う。
今は私のことを受け入れてくれている様子だもの。見捨てるようなことは出来ないわ。
しばらく歩くと、子供達が言っていた劇場の前に着いた。
見張りの人がいるから、声をかけてみる私。
すると、こんな言葉が返ってきた。
「見ない顔だが、貴女はどこから来た?」
「お姉さん、次の領主様なんだよ。優しい人だから、入れてあげて」
私を疑うような視線を向けられた時には、男の子がそんなことを口にしていた。
領主が忌避されている状況だから、もう駄目かもしれないわ……。
そう思ってしまったのに、見張りの人からはこんな言葉が返ってきた。
「女性の領主様、か。現実なら良かったが……君達、嘘は良くないぞ。
皇帝陛下は女性に力が無いと信じているお方だから、間違っても女性が領主になることは有り得ない」
「お姉さん、領主の証は偽物だったの?」
「私、黒竜を倒して領主になりましたの。これで信じて頂けますか?」
この人は女性の領主に期待しているみたいだから、証を見せてみる。
けれども、まだ信じてくれる様子は無かった。
「これでも信じて頂けませんか?」
「証が偽物じゃない証拠は無いからな。それに、領主を騙ろうとする人は定期的に出るんだ。
力に拘る陛下のことだから、いくら強い女性でも男には勝てないと思う。貴女の実力を知らずに話すのは良くないとは分かっているが」
この人が言う通り、領主を騙る人は毎年のように現れる。
だから、領主と関わる人は領主の顔を覚えるようになっていて、そうでない人には証を見せることで対策している。
でも、その証を偽物だと思われたら、証明のしようが無いのよね。
「一応、黒竜は倒せたので、力はあると思っていますの」
「黒竜を、倒した……?」
「ええ。この剣で」
「その細腕で、か?
貴女は面白い冗談を言うのだな」
……口で説明しても分かってもらえそうにないわ。
どうすれば良いのかしら?
「どういたしまして。他に話したい事はあるかしら?」
子供からでも、情報は集められる。
だから、そんな風に言葉を返してみた。
「前の領主様の酷いこと、聞いてくれる?」
「もちろんよ。何があったのかしら?」
膝をついたまま、目を合わせる私。
それから、子供たちは見てきたことを話してくれた。
前の領主は、女性を一人ずつ、毎日屋敷に連れ込んで何かをしていたらしい。
翌朝には必ず帰ってきたみたいだけど、暴力のせいでひどい怪我を負わされているみたい。
この町では女性が奴隷扱いされていないというのは本当みたいで、領主はこの町の人達の怒りを買って殺されたらしい。
でも、乱暴された人たちの傷はまだ癒えていないから、治して欲しいとお願いされた。
私達が怒りを向けられていたのは、歴代の領主にまともな人が居なかったからみたいだから、領主自体が拒絶されているのだと思う。
黒竜の襲撃の時に、皇帝直属の騎士団が戦う前に撤退したのも理由の内みたいだけど。
「黒竜とはどうやって戦ったの?」
「みんなで防御魔法を張ったんだ。そしたら、騎士団の方に飛んでった」
「黒竜に諦めてもらえたのね」
うん、分かっていたことだけど、この国の貴族も自分のことばかり考えているみたい。
だからと言って、ここの人達を見捨てるのは嫌だから、何とかして信頼を掴んだ方が良いわよね……。
ちなみに、男性の貴族はそれだけで拒絶されていて、私が無害だと伝えても怯えは消えていないから、グレン様とお父様には先に帰るようにお願いした。
手を借りれないと大変だけれど、これは仕方の無いこと。
グレン様は悔しそうにしていたけれど、すぐに受け入れてくれた。
「うん! 母さん達の魔法、すごかったんだよ!」
「そうだったのね。私も見てみたかったわ」
「でも、お姉さん……あっ、領主様の治癒魔法もすごかった!」
治癒魔法をかけてからは、すっかり受け入れてもらえて、子供達からは怯えの色が消えていた。
「領主様が嫌だったら、お姉さんでも良いわよ。前の領主のこと、思い出しちゃうと思うから」
「それじゃあお姉さんで!」
ようやく子供達が笑顔を浮かべてくれたから、私も自然と笑顔になれた。
それから、私は領主の証を身に着けずに街を回ることにした。
子供達から怪我をしている人がたくさん居ると教えてもらったら、行かないなんて選択は出来ない。
私は領民を守ることや助けることも領主の仕事だと思っているけれど、今までの領主は見捨てていたみたいで、私が町に行くと口にしたら驚かれたのよね。
「怪我をしている人達はこっちで良いのかしら?」
「うん! みんな劇場に居るよ!」
そんな言葉を交わしながら歩く私に刺さる視線は殆どないから居心地も悪くない。
代わりに、私が領主だと知らせてからどうなるか怖い。
「ありがとう。
怪我は酷いの?」
「腕が無くなっちゃた人はいるけど、元気そうだった!」
「そう……。みんなのご両親は無事かしら?」
「母さんはまだ治ってないけど、多分大丈夫!」
「お母さんの怪我も心配だから、一緒に治してみるわね」
先に信頼を掴むように動いた方が良いのかもしれないけれど、みんなを助ける方が先だと思う。
今は私のことを受け入れてくれている様子だもの。見捨てるようなことは出来ないわ。
しばらく歩くと、子供達が言っていた劇場の前に着いた。
見張りの人がいるから、声をかけてみる私。
すると、こんな言葉が返ってきた。
「見ない顔だが、貴女はどこから来た?」
「お姉さん、次の領主様なんだよ。優しい人だから、入れてあげて」
私を疑うような視線を向けられた時には、男の子がそんなことを口にしていた。
領主が忌避されている状況だから、もう駄目かもしれないわ……。
そう思ってしまったのに、見張りの人からはこんな言葉が返ってきた。
「女性の領主様、か。現実なら良かったが……君達、嘘は良くないぞ。
皇帝陛下は女性に力が無いと信じているお方だから、間違っても女性が領主になることは有り得ない」
「お姉さん、領主の証は偽物だったの?」
「私、黒竜を倒して領主になりましたの。これで信じて頂けますか?」
この人は女性の領主に期待しているみたいだから、証を見せてみる。
けれども、まだ信じてくれる様子は無かった。
「これでも信じて頂けませんか?」
「証が偽物じゃない証拠は無いからな。それに、領主を騙ろうとする人は定期的に出るんだ。
力に拘る陛下のことだから、いくら強い女性でも男には勝てないと思う。貴女の実力を知らずに話すのは良くないとは分かっているが」
この人が言う通り、領主を騙る人は毎年のように現れる。
だから、領主と関わる人は領主の顔を覚えるようになっていて、そうでない人には証を見せることで対策している。
でも、その証を偽物だと思われたら、証明のしようが無いのよね。
「一応、黒竜は倒せたので、力はあると思っていますの」
「黒竜を、倒した……?」
「ええ。この剣で」
「その細腕で、か?
貴女は面白い冗談を言うのだな」
……口で説明しても分かってもらえそうにないわ。
どうすれば良いのかしら?
32
お気に入りに追加
2,348
あなたにおすすめの小説
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる