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第1章

48. 無事のお祝いです

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 あれから少しして、私達は普段よりも豪華な夕食を楽しむことになった。

 誰も失わずに危機を乗り越えられたことのお祝いということで、みんなで広間に集まっている。
 一言でいうと戦勝パーティーだから、雰囲気も凄く明るい。

 壁に穴が空いていることなんて、この明るい雰囲気のお陰で全く気にならないらしい。
 私は修理の手配で忙しくなるから気になってしまうのだけど……。

「奥様、こちらへお願いします!」
「分かったわ」
「今日の立役者なのですから、もっと目立つ場所に来てください!」

 視線を壁に向けていたら、侍女達に手を引かれて、広間の中心に促された。
 みんなに囲まれていると気恥ずかしさを感じてしまうのだけど……。

 でも、私が真ん中に居た方が喜んでもらえる気がするから、大きな姿のまま眠っているブランを避けて歩いていく。
 私としてはブランが一番の立役者だと思っているけれど、お腹がいっぱいになったら眠くなったみたいで、声をかけても起きてくれない。

「ブラン? まだ起きないの?」
「すー、すー……」

 もう一回声をかけてみたけど、返ってきたのは寝息だけ。
 諦めてブランはそのままに、真ん中に移動した。

「白竜様、なんだか赤ちゃんみたいですね」
「そうね……」
「あんなに強いのに、今はすごく可愛いです」

 侍女達に撫でられてもピクリとも動かないブランの様子に、苦笑いしてしまう。

 そんな時、入口の方から義両親の声が聞こえてきた。

「これは何の騒ぎかな?」
「楽しそうね?」

 なんとも言えない笑みを浮かべながら近付いてくる義両親を見て、表情を消す私。
 怒っている様子は無いけれど、何を言われるのか分からないから少し怖い。

 中には使用人と親しくすることを嫌う貴族も居るから、もし義両親がそうだと大変だわ……。

「使用人を巻き込んでパーティーを開くなんて、驚いたよ。
 この短期間で、ここまで仲を深めたのだな」
「ええ。みんな優しいので、すごく過ごしやすいですわ」
「私の時は距離を近づけることなんて出来なかったのだがな。
 近くで様子を見ていてもいいだろうか?」

 身構えていたけれど、向けられたのは羨ましがるような声だったから、少し拍子抜けしてしまった。
 でも、そのことは表情には出さないで、笑顔の仮面を被ったままで口を開いた。

「私が使用人と親しくしていても大丈夫なら、構いませんわ」
「今のこの屋敷の主人はレイラさん、貴女だ。
 私達が文句を言うことは無い」
「楽しそうだから混ぜて欲しいみたい。ここだけのお話よ。
 それと、私達のことは気にしなくて良いわ」

 お義父様もお義母様も、パーティーの類には敏感だから、気になってしまったみたい。
 使用人さん達は少し緊張しているし、私も気を遣うから……本音を言えば追い出したいけれど、そうしたら関係が悪くなるのよね……。

「分かりましたわ。本当に気にかけませんからね?」
「ああ、そうしてくれると助かる」

 だから、念押しだけしてから使用人さん達に混じって食事を楽しむことにした。



 それから、私達は雑談しながら料理と戦勝パーティーを楽しんだ。
 いつ魔物が現れるか分からないから、お酒の類は出ていないけれど、雰囲気はずっと明るいままで楽しかった。

 義両親は気を遣ってくれたのか、すぐに壁際に移動していたから本当に気にかけずに済んだのよね。
 侍女長のマリアや衛兵長さんは義両親と楽しそうにお話していたけれど、余計な緊張はだれもしていなかったと思う。

「カチーナは楽しめたかしら?」
「はい! 奥様とのお話も楽しかったですし、他の皆との会話も楽しかったので。
 奥様が男性パートを踊れるのは意外でした」

 今回のパーティーは貴族の社交界で開かれるものに似た雰囲気だったから、当然のようにダンスの時間もあった。
 そこで問題になったのが私の組み合わせなのだけど……男性パートを試してみたら、普通に出来てしまったのよね。

 それからは少し休憩したら侍女からダンスの誘いを受けて、また休みながらお話をするの繰り返しだった。
 ダンスは社交辞令と同じだから男性と踊っても問題は無いのだけど、男性の使用人さんから声をかけられるより先に侍女達に捕まっていたのよね……。

 男性陣は少し悔しそうだったけれど、すぐに誘いに来ない方が悪いと思うことにした。

「殿方と一緒に練習していたから、覚えてしまったのよね。
 相手は自分のダンスも上手くなかったけれど」
「前の婚約者様はダンスがお下手だったのですね。
 奥様もダンスが下手という噂が流れていましたが、すごくお上手だったので驚きました」
「ありがとう。
 毎回足を踏まれないように避けていたから、大変だったのよ」

 そういえば、グレン様とダンスをしたことは、まだ無かったわね……。
 グレン様が帰ってきたら、すぐに練習しようかしら?

 そんなことを思いながら、私は目を閉じた。
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