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第1章

43. 目が回りました

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「ここは順調そうね」
「はい、予定通り進めば、明後日には完成します」

 冷蔵庫を作るための部屋の工事は順調ね。
 次は――。


「魔道具は上手く使っているかしら?」
「はい。穴が開いてるパイプを通してみたら、さらに楽になったんです!」

 庭の水やり事情は、私の魔道具が進化していた。
 一切移動しないくても、適切な量の雨を降らせられるようになっているなんて……庭師さんの発想力はすごいわ。

 ここも問題無さそうだから、次は洗い場を確認しなくちゃ。
 ……そう思ったのだけど。

「奥様、王都方面から魔物の大群が押し寄せてきています。
 前線で指揮をお願いします」

 タイミング悪く魔物の襲撃の知らせが入ってしまった。
 ちなみに、この指揮を執るというのは私が望んだことだ。だから、今もいつでも前線に出れるように衛兵さんと同じ服装で動いている。

 この服が侍女の制服よりも便利だから気に入っているというのが本音だけれど。
 嘘がバレたら、着れなくなってしまうから、これは内緒だ。

 欠点を挙げると、男性用しか無かったから胸周りが少し窮屈なのよね……。

「分かったわ。
 今の状況は?」
「報告の時点で、魔物の大群はアイスレーンの街に到達しています。
 今は衛兵が防いでいますが、どれほど持ちこたえられるかは分かりません」
「すぐに行くわ。
 ブラン、お願い!」

 服のことは置いておいて、ブランに合図を出すと、一気に空へと上がる私。
 アイスレーンの街はあまり離れていないから、ここからでも状況が分かった。

 魔物の大群は、谷に沿うようにして押し寄せているみたいで、両側の崖の上から攻撃することで凌いでいるみたい。
 ちなみに、公爵領にある街は地形を生かしているところが多くて、魔物が襲ってきても少ない戦力で持ちこたえられるらしい。

 毎週のように魔力を補充しないといけない巨大な魔物除けで魔物を防いでいる私の家と違って、よく考えられていると思う。
 今のままなら、私が手を出さなくても大丈夫な気がした。


 けれど、前線に入って直接見てみたら、大丈夫な気配なんて無かった。
 
「貴女は何者ですか?」
「領主代理のレイラよ。今の状況を説明してもらえるかしら?」

 グレン様から託されている領主の証を示して、そう口にする。
 すると、周りの人達から歓声が上がった。

「聖女様が来たぞ!」
「これなら勝てる! お前ら、もっと矢を放て!」

 私が来ただけで士気が上がるなんて……。

「今の状況ですが、もうすぐ矢が尽きそうです。
 魔物から回収することが出来れば良いですが、今の状況では厳しいです」
「それなら、私が一番前で戦うから、みんなは討ち漏らしをお願い」
「レイラ様が最前線に立たれるんですか!? 流石に危険です!」
「大丈夫よ。見てれば分かるわ」

 これくらいの魔物が相手なら、魔力を纏わせて剣を振っていれば容易に凌げる。
 終わりが見えないから、温存しないと後が大変になるのよね。

「分かりました。
 何かあったらすぐに助けます!」

 そんな声を背中に受けながら、剣を鞘から抜いて魔物の群れに飛び込む私。
 今回の魔物もあまり強くないから、あっという間に街から離れていく。

 いつの間にか魔物の狙いが私になっていて囲まれているけれど、剣の間合いより内側には入られていない。
 剣技の心得もあるけれど、今はただ剣を持ってくるくる回っているだけなのよね……。

 目が回らないように、何回か回ったら向きを変えて……。
 それだけなのに、一時間も経たないうちに魔物の群れを倒すことが出来た。

「目が回ったわ……」
「レイラ様、大丈夫ですか!?」

 対策はしたつもりだったけれど、すっかり目が回ってしまって、ふらふらと地面に倒れそうになってしまう。
 手をついて身体を支えているから大丈夫なのだけど、気分は良くないわ。

「お怪我はされていませんか?」
「もし宜しければ、肩をお貸ししますが……」
「目が回っただけだから大丈夫よ。
 少し待てば治るわ」

 私を心配して、周りの人達が集まってくる。
 中には肩を貸してくれると言ってくれた人もいるけれど、しっかりお断りした。

 契約とはいえ、私はグレン様と結婚している身だから、他の男性と接するわけにはいかない。
 本当に歩けなくなったら手を借りるけれど……今はそこまで酷くないから大丈夫だ。

「……私のことは気にしなくて良いから、矢の回収を済ませてもらえるかしら?」
「我々は護衛として集まっていますので、お気になさらず」
「そうなのね。
 でも、もう屋敷に戻るから大丈夫よ」

 周りが回っている感覚も無くなったから、立ち上がってそう口にする私。
 それからすぐ、揃って敬礼をされた。

「分かりました。
 助太刀、ありがとうございました」

 その言葉に、軍式の敬礼を返す。
 私はただの貴族令嬢に見られることが多いけれど、家に居る時は私兵の指揮なんかも学んだのよね。

 アルタイス家は女性でも家を継ぐことが認められてるから、婚約するまでの間は領主にもなれるように勉強していたから。


 それから、私は衛兵さん達に敬礼で見送られながら空へと舞った。
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