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第1章

36. 人気になりそうです

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 髪を乾かす魔道具が完成したから、次に作ろうと決めた冷蔵庫と冷凍庫の必要性を調べることに決めた。
 これを実際に使うのは、みんなが湯浴みをする時間だから……それまでの間は暇なのよね。

 だから、これは暇つぶし……いいえ、時間の有効活用。

 冷蔵庫を作る前に、このお屋敷の食材事情を調べなくちゃ。
 そう思ったから、厨房に向かう私。

「料理長さん、少し確認したいことがあるのだけど、良いかしら?」
「何か問題でもございましたか?」

 すぐに料理長さんを見つけたから声をかける。
 彼は食材の仕入れから管理までをこなしているから、今回の調査で彼以上の適任は居ない。

「問題は無いのだけど、食材の保管がどうなっているのか気になったの。
 食材を保存できる魔道具を作ろうと思って……」
「なるほど、そういうことでしたか。
 今は食材の保存は出来ないので、家畜を生きたまま運んできて、この屋敷で仕留めて食材にしています」

 私が質問すると、そんな答えが返ってきた。
 これはアルタイス家でも冷蔵庫を作る前には行われていた事だから、驚きはしない。

「それなら、無駄もかなり出ているのかしら?」
「はい、そうなります。氷魔法で保存出来れば、無駄をかなり減らせますが……魔力の問題があるので厳しいでしょう」
「何とかして見せるわ。野菜の保存はどうしているのかしら?」

 お肉と野菜を同じ温度で保管しておくと、野菜の味が落ちてしまうのよね。
 だから、冷蔵庫はお肉用と野菜用分けて作る必要がある。

 冷凍庫はアイスクリームのような物から、飲み物に入れる氷を作ったりお肉を長期間保存するときに重宝しているらしい。
 ここでもアイスクリームを使ったパフェがデザートに出てきたこともあるから、きっと重宝されると思うのよね。

 調整が少し大変だけれど、魔石を上手く使えば手を加えなくても冷やし続けられる物が出来ると思う。

「野菜はこんな感じで、風通しの良い日陰に保管してます。
 こちらは、さっき収穫されたものです」
「採れたてなのね。
 近くに畑があるのかしら?」

 空から見た限りだと、近くに畑のようなものは見えなかったのだけど……。

「こちらは庭の端にある温室で育てていたものになります」
「公爵家にもなると温室があるのね……羨ましいわ」

 野菜のことはよく分からないけれど、温室があるのはかなり贅沢なことくらいは知っている。
 庭の端にある建物の存在は私も知っているのだけど、広さはこのお屋敷よりも少し小さいくらいだったのよね。

 中を見たことはまだ無いから、今度見てみようかしら?

「他の家にもあると伺っていますが……」
「私の家は貧乏だったから、温室は無かったわ」
「そうでしたか……」

 気まずそうに口にする料理長さん。
 すこし空気が重くなった気がしたから、私は冷蔵庫を置ける場所を探すことにした。

「……厨房に空いてる場所は無いかしら?」
「この辺りと……」

 そう口にしながら、奥に向かう料理長さんの後を追う。
 すると、かなり広い空いている場所が目に入った。

「この辺りが空いてますね。
 食材を保管しておくなら、最初にお伝えした場所よりも、こちらの広い場所の方が都合が良いでしょう」
「分かったわ。ありがとう」
「いえいえ、これくらい大したことではございません。
 そろそろ肉の準備をして参りますので、この辺で失礼しても宜しいでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ。教えてくれてありがとう」

 そんな言葉を交わすと、料理長さんは厨房を後にした。
 残された私は、ここに作る冷蔵庫のことを考えているのだけど……。

 少し見ただけで、アルタイス家に置いているような冷蔵庫ならすぐに一杯になってしまうと想像出来てしまった。
 このお屋敷にはもっと大きな……歩いて中に入れるくらいの大きさがあった方が良さそうだわ。

 だから、まずは冷蔵庫と冷凍庫にするための部屋を作った方が良さそうね。
 部屋を作ることはお屋敷を改造することになるから、グレン様の許可を取らなくちゃ。

 そう思ったのだけど、グレン様は屋敷に居ないから、そのまま部屋に戻った。

「奥様、どうでしたか?」
「場所はあったのだけど……食材の量が思っていたより多かったから、小さい部屋を魔道具にしようと思ったの。
 でも、グレン様が居ないから相談出来ないのよね」
「旦那様が戻られてから相談すればいいと思います。今すぐに必要なものではありませんから」
「そうね……」

 夕食はグレン様と一緒に済ませているから、お話しする時間もたくさんある。
 だから、それまでの間は他のことをして過ごした。



   ◇



 すっかり陽が落ちて外が真っ暗になった頃。
 厨房を改造する許可と協力をグレン様から得られた私は、髪を乾かす魔道具を使用人さん達に紹介しに向かった。

 公爵邸では、半分くらいの使用人さんが泊まり込みで働いている。
 だから、使用人さんが暮らすための部屋が四階に用意されているらしい。

 この存在は知っていたけれど、入るのは今日が初めて。
 だからカチーナに案内してもらっている。

「ここは何の部屋かしら?」

 今通りかかっているのは、赤い布が上から垂れ下がっている入口と青い布が下がっている入口が並んでいる場所なのだけど、これは一体何なのかしら?

「ここは大浴場になります。
 使用人の部屋にはお風呂がありませんから、ここで済ませています。青い方が男性用、赤い方が女性用になっています」
「大浴場なんてものがあったのね」

 お風呂というのは贅沢品だから、普通は大浴場なんて無いのよね。
 私の家にもお風呂はあっても、大浴場は存在しなかった。

 だから、使用人さん達は交代でお風呂を使っていたのだけど、ここの使用人さん達は全員入れるのね。
 少し、家の使用人さん達に申し訳なくなってしまった。

「まとめてお風呂を沸かした方が効率的ですからね」
「すっごく気になるのだけど? 入っても良いかしら?」
「奥様が気にされないのでしたら、構いませんよ」

 お風呂があれば、脱衣所もここにあるはず。
 だから、髪を乾かす魔道具を使いたい人もいる。

 そう考えたから、魔道具を手にしたまま赤い布をくぐる私。
 引き戸を開けて中に入ると、何度か曲がっている通路になっていて……。

 少し進むと、大きな鏡とたくさんの棚が置いてある様子が目に入った。
 着替えている侍女さんは、まだ私に気付いていないみたい。


 静かに鏡の前にある椅子に腰を下ろして、誰かが来るのを待つ私。
 少しすると、鏡越しに侍女さんと目が合った。

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