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第1章

19. 魔物が出ました

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 あの後、料理人さんにも同じ魔道具を渡したのだけど……同じように固まられてしまった。
 遅れて大喜びされるのも、いつもと同じ。

 それだけで、私も嬉しくなった。
 今日はずっと笑顔でいられる気がした。

「奥様、大量のお手紙が届いたので、確認をお願いします
 本来は旦那様が確認すべき内容ですが、領地の視察に行かれてしまいまして……」
「分かったわ」

 グレン様の机の上に置かれている手紙を見た瞬間、私の笑顔はどこかへ消えてしまったけれど。

 手紙の中には私に宛てたものもあるみたい。
 この世から消えている扱いをされているのに、どうして届いているのか謎だわ。

「これって、無視で良いわよね?」
「もちろんでございます」

 手紙は私がまだ生きていると疑っている人達が仕掛けた罠かもしれない。
 そんなことを思ったから、全て無視することに決めた。

 暖炉にでも放り込めば良いかしら?

 家族からの手紙はしっかり目を通してから返事を書いていく。
 差出人はグレン様の名前で。

 筆跡を見れば、他人は分からなくても、家族なら私だって分かるはずだもの。

「グレン様宛の手紙は……しっかりお返事を書いた方が……」

 そう口にしながら手紙に目を通していくと、少しずつ怒りが湧いてきた。
 どれもグレン様に向かって「うちの娘を妻に!」と望む内容ばかり。

 書類上で結婚したばかりとはいえ、公爵家は表向きでは喪に服している。
 そんな状況で縁談を持ち掛けてくるなんて、非常識にも程があるわ。

「……これも無視で良さそうね。執事さんは中身見たのかしら?」
「危険が無いか確認しているだけですので、中身までは見れておりません」
「そうなのね。これ、見ても良いわよ」
「……酷いですね。こちらは奥様の死を喜ぶ文面。
 こんなにも心優しいお方の死を喜ぶとは、バチが当たりますな」

 執事さんにも目を通してもらうと、酷いと思ってくれたみたいで声が少し低くなっている。
 私の声?

 自分でも驚いてしまうほど冷めた声が出ている。
 こんな扱いをされたら、こうなっても仕方無いわよね?

「こうなったら、グレン様には悪いけれど……。
 隣国に逃げた方が良いような気がするわ」
「お気持ちはお察ししますが、隣国には何があっても行かれない方が良いかと思います」

 このお屋敷の人達は、みんな私を守ろうと動いてくれている。
 グレン様との距離は相変わらず縮んでいないけれど、すごく距離が近くなることもあるから、嫌われてはいないと思う。

 もしかしたら、私が自由に動けるように気遣ってくれているのかもしれないわ。
 これが全て私の思い違いだったら……。

 これは考えない方が良いわね

「みんなが守ろうとしてくれているのは分かるけれど、ここまで悪意を向けられたら身の危険を感じてしまうの」
「そう思われて当然でしょう。しかし、隣国は女性差別がかなり深刻です。
 平民なら奴隷のように扱われ、貴族でも欲望のために乱暴されます。奥様はお美しいので奴隷のような目には遭わないかもしれませんが……」
「そういう国だったのね。知らなかったわ。
 忠告してくれてありがとう」

 隣国に渡ったら地獄のような日々になることは間違いなさそうね。
 もし本当に命を狙われそうになったら……。

「必要になったら、森の中で暮らすわ」
「白竜様がいれば、魔物に襲われる心配は無いでしょうから、賢明な判断だと思います」

 今度は引き止められなかった。

「もっとも、そのような事態にはしませんが」
「頼もしいわね。ありがとう」

 そんな言葉を交わしていると、私の胸元で眠っていたブランが顔を出してきた。

「おはよう、ブラン」
「……おはよう」

 もう昼食の時間なのだけど……ブランは夜の間ずっと私を守ってくれているから、仕方ないわよね。

「そういえば、白竜様は食事をされないのですか?」
「しているよ? 僕にとっての食事は魔力だから、レイラと一緒に居れば困らないんだ」
「そうでしたか」

 そんな時だった。
 ブランが私の目の前に飛び出して、翼を広げた。

「魔物の群れがこの街に近付いてる!
 王都を襲った群れよりも大きいみたいだ!」
「何ですと!? すぐに旦那様に報告してきます!」
「お願いするわ」

 ブランがどうして気付いたのは分からない。
 けれども、少しすると魔力の大群がこちらに近付いてきているような感じがした。

 間違いないわ。
 魔物の大群はすぐそこまで迫っている。

 私の魔法で倒せるかは分からないけれど、すぐに行かなくちゃ。
 この街のみんなを、屋敷のみんなを守りたいから。

「ブラン、手を貸して!」
「もちろん。でも、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。
 この街に来るまで、あと二十分かかるから」
「二十分だって!?
 ……絶対に防衛は間に合わない」

 私が覚悟を決めた直後、グレン様の絶望するような声が聞こえてきた。
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