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第1章

14. 暇つぶしに

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 いただきますを言ってから、黙々と食事をこと数十秒。
 この静かな空気に耐えかねた私は、口の中を空にしてから、アンナにこんな質問を投げかけてみた。

「みんなはどこで食べているのかしら?」
「使用人のスペースで交代しながらとっております。
 まかないは奥様のお食事が終わってから作ることになっているので、まだ食べることは出来ません」
「そうなっているのね。
 みんなが嫌じゃなかったら、一緒に食事をとりたいのだけど……」

 多分断られると思うけれど、目をウルウルさせてみながらお願いしてみる。

「流石に無理なお願いでございます。奥様と一緒に食事をするなど、私達の身に余り過ぎます」
「そう……。無理を言ってしまってごめんなさい」

 やっぱり無理だったみたい。
 私が小さくうなだれていると、気に障ってしまったのかカチーナさんが厨房の方に消えてしまった。

 嫌われてしまったのかしら……?
 そんな不安が脳裏をよぎってしまう。

 けれども、彼女は下げられたはずの料理を手にしていて、おまけに他の侍女たちも引き連れて現れた。
 一体何が始まるのかしら?

「奥様、本当に私達が同席しても宜しいのですか?」
「っ……。もちろんよ!」

 アンナは渋い顔をしているけれど、他の侍女たちは目を輝かせている。
 嫌われないか不安だったけれど、今のところ歓迎されているみたいだから嫌われないようにしなくちゃ!

「ありがとうございます!
 アンナさんもご一緒しましょう! せっかく奥様と仲良くなる機会なのですから!」
「わ、分かったわ……」

 我慢できなくなった私が隣の椅子を引くと、渋々といった様子で腰を下ろすアンナ。
 けれども、表情は緩んでいるから、心の中では喜んでいるのね。

 そんな様子が見れたから、すっかり安心しきった私は侍女さん達との昼食を満喫することが出来た。



 昼食が終わると、私に充てられた部屋に戻って、持ってきた荷物の整理をすることにした。
 ……のだけど、荷物が少なくて数分で終わってしまったのよね。

 ちなみに、ブランはお父様達が帰ってからずっと私のドレスのポケットの中で眠っている。
 食事のことが心配だけれど、目を覚ましてからで大丈夫よね?

 きっと夜通しで私を守ってくれていたから、今起こしたら悪いもの。
 けれども、困ったことにやることが無くなってしまった。

 ちなみに、アンナはお屋敷の仕事の指示を出すために席を外していて、今はカチーナが隣に控えてくれている。

「……そうだわ!
 みんなと一緒に掃除でもしてみようかしら?」
「奥様がですか!?」
「私の家では普通のことよ?」
「馬鹿にするつもりはありませんが、そうしているのは恐らくアルタイス家だけです」

 お掃除、楽しいのに……。
 でも、私が加われば使用人達の仕事は楽になって、私は暇つぶしが出来る。

 一石二鳥だから悪い提案では無いと思ったのだけど、カチーナは渋い顔をしている。

「でも、暇なのよ。お願い……!」
「分かりました。では、道具をご用意しますね」
「道具なら屋敷から持ってきているから大丈夫よ。
 ……でも、このドレスを汚すわけにはいかないのよね」

 汚れても大丈夫そうな服がないか衣装部屋の中を覗いてみたけれど、入っているのはいつの間にか用意されていた上質なドレスばかり。
 気軽に汚せる服なんて無かった。

 けれども、諦めて部屋に戻ろうとした時、ようやく目当ての服を見つけられた。

「侍女の制服って余っていたりしないかしら?」
「まさか、それを着られるのですか!?」

 驚いたような声を上げるカチーナ。
 普通の奥様なら使用人の服を着る発想にはならないと思うけれど、私の家では普通のことだったのよね……。

 仕事で動き回る前提のデザインだから動きやすくて、掃除などで汚れても大丈夫なように丈夫でも値段が張らない素材で作られている。
 スカートの丈はドレスよりは短いけれど、それでも膝下丈だからはしたないと思われることも無い。

 問題は……私の身体に合うサイズがあるかなのだけど。

「ええ。汚れれても大丈夫だと思うから、丁度良いと思ったの」
「確かに汚したとしても、予備は沢山あるので問題はありませんが……。
 突然の来客があった時に困られると思います」
「その時は外出中ということにすれば問題無いわ」
「そうですか。では、奥様に合いそうなサイズをお持ちしますね」
「自分で選ぶから、置いてある場所を教えてもらえるかしら?」
「かしこまりました」

 私がお願いすると、すぐに使用人さんが着替えに使っているスペースに案内してもらえた。
 制服はサイズごとに分けて綺麗に並べられていて、すぐに手に取って着られる状況になっていた。

 だから、私はこの場で着替えて、着ていたドレスを部屋に戻してからお屋敷の掃除を始めた。
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