上 下
12 / 100
第1章

12. 自分の事なのに

しおりを挟む
 グレン様の態度の変化に、ブランの「一度死んでいる」という発言を聞いて、固まってしまう私。
 魔物でも人でも、一度死んだら生き返ることは無いから、心配になってしまう。

 もし、ブランが幽霊だったら……私は卒倒してしまうわ。 

「一度死んでいるって……大丈夫だったの?」
「うん、大丈夫だよ。白竜は卵を産んでから、記憶を子に託して死ぬんだ。
 だから……十年前に生まれ僕にも、先代の聖女と一緒に過ごした記憶もあるよ」
「そういうことでしたか。もし宜しければ、レイラ様と白竜様が出会った理由を教えて頂けないでしょうか?」

 幽霊ではないみたいで安心したけれど、やっぱりグレン様の様子がおかしい。

 どうして私はグレン様に様付けで呼ばれているのかしら?
 やっぱり、彼の頭の具合が良くないのかしら?

「僕が怪我をして死にそうになっているところを助けられたからね。
 それに、レイラが僕の名前を付けてくれたから、レイラが負った怪我は僕が負うようになっている」
「つまり、レイラが致死の怪我を負った時は、白竜様が命を落とされるということですか?」
「レイラの生命力は高いけど、僕の生命力はもっと高いから、レイラが十回死ぬくらいの怪我を負えば僕が死ぬことになるね。
 グレンだっけ? 貴方は僕の存在意義を知っているみたいだから、僕が死ぬことの意味は分かるよね?」

 この茶番に我慢出来なくなったから、グレン様の頭に治癒魔法をかける。
 けれども、効果は出てくれなかった。

「もちろんでございます。レイラ様は命を懸けてでも守ります」

 どうしてこうなるのよ!?

「白竜の存在意義って何なのですか?」
「僕が居ることで、魔物の発生が抑えられているんだよ。
 この国の王家と公爵家しか知らないみたいだよ?」

 ブランが嘘を言っているようには思えない。
 きっと、ブランが居なくなったら王国は魔物が溢れて、私達が安心して暮らすことは出来なくなってしまう。

「そうだったのね……。
 そんなに大事なことなら、もっと広く知られていても良いと思うのに……」
「それだと、国を滅ぼそうとしている者に目を付けられてしまう。
 だから秘匿されているんだ」

 もしかしたら、過去にそういう例があったのかもしれないわ。
 でも、公爵家が知っているということは、あのパメラ様も知っているということ。

 もしも私がブランと行動していることがパメラに知られたら……。
 想像もしたく無いわ。

「そういうことでしたのね」

 少し難しかったけれど、なんとなく理解できたからこの話は終わりにして、お父様達を見送りに向かう私。
 来週もここに来るみたいだから、挨拶は手短に済ませた。



 お父様達が帰ってからは、この屋敷の案内をされることになった。
 グレン様は領地の視察に行ってしまったから、侍女長のアンナさんが案内してくれるらしい。

 ちなみに、書類上で私達が結婚した日のうちにグレン様は家督を譲られたみたいで、義両親は王都に構えている屋敷で社交会を満喫しているらしい。

「奥様はここの女主人となられるのですから、しっかり覚えて下さいね」
「分かりましたわ」
「それと、私達のような使用人に対して敬語はお止めください。
 奥様は公爵夫人なのです。頭が低いと舐められてしまいます」

 アンナさんは柔らかな笑みが素敵な人なのだけど、言葉に少しだけ棘があるような気がする。
 そして私に対して遠慮しないでグサグサと問題点を指摘してくるような性格をしている。

 優しい人なのは分かるけれど、少し厳しすぎないかしら?

「……分かったわ。
 アンナさん、あの青い髪の侍女の名前を教えてもらえるかしら?」
「アンナとお呼びください」

 圧が……圧が凄いわ。
 下手をしたらグレン様を超えている気がする。

 アンナに命令されたら逆らえないかもしれない気がするわ。
 ううん、侍女に命令される公爵夫人なんて示しがつかないから、私も強気にならなくちゃ。

「アンナ、彼女の名前を教えてもらえるかしら?」
「彼女はカチーナと言います。今日から奥様専属になる予定です。
 もし気に入られなかったら交代させますので、いつでもお申し付けください」
「分かったわ」

 髪色が青ということは、水の魔法に長けているのね。
 魔法のお話で盛り上がれるかもしれないから、これからの暮らしが楽しみになってきた。

「こちらがレイラ様のお部屋になります」
「随分と広いのね……。掃除が大変そうだわ」
「その分使用人の人数もおりますので、問題にはなりません」

 見せられた部屋は私が今まで使っていた伯爵邸の部屋の三倍は広くて、少し落ち着かない。
 それに、天蓋付きのベッドなんて、本当に存在していたのね……!

 物語の中だけの存在だと思っていたわ。
 これじゃあ、イイトトコのお嬢様ね! ……じゃなくて、イイトコの奥様だったわ。

「グレン様のお部屋はどこにあるのかしら?」
「旦那様は白い扉のお部屋になります」

 一度廊下に出て、指をさすアンナ。
 どうやら部屋同士も離れているみたい。

 この結婚はグレン様が私に同情してくれたから実現しただけで、好意なんて向けられていないのね……。
 分かり切っていたことだけど、こうして実感すると少し悲しくなってしまった。

 恋愛なんて諦めたはずなのに、心の奥底では愛されたかったのよね……。
 自分のことなのに、よく分からないわ。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...