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第1章
11. 理不尽な国
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「グレン様はいらっしゃいますか?」
「はい、もちろんです。レイラ様を心待ちにしております」
地面に足をつけてから門番に問いかけると、そんな言葉が返ってきた。
それに少し遅れて、奥に見える玄関から何人もの使用人さんが飛び出してきているところが目に入る。
先頭を走っているのはグレン様で、その少し後ろには公爵夫妻の姿も見える。
私の両親の姿も見えるから、大事になっていたのは間違いなさそうだ。
「レイラ……!」
「無事で良かった。崖から落ちたと聞いていたが、無事で良かった」
本当に心配していたみたいで、私の名前を呼びながら抱きしめてくるお母さま。
お父様は申し訳程度に私の手を握ってくれた。
グレン様は私に触れることはなかったけれど、無事で良かったと言ってくれた。
お母様とお父様は私が魔法で空を飛べることを知っているはずなのに、どうしてこんなに心配しているのかしら?
そんな疑問はグレン様の屋敷に入ってから明かされることになった。
「どうしてこんなに心配されているのでしょうか……?
私が簡単に魔物に負けないことは、お父様もお母様も知っていますよね?」
ダイニングのふかふかの椅子に座らせられてから、そう問いかける私。
すると、言い難そうにしているお父様達に代わって、グレン様が口を開いた。
「騎士団から、レイラが足を滑らせて崖から転落したあと、魔物の群れに襲われて倒れたと告げられたんだ。
翌日の朝に同じ場所を確認したら、魔物の死体の山と血だまりがあって、その血だまりからレイラが食べられたと判断された」
「そんな……。
私、騎士の誰かに突き落とされたのに……」
騎士団までもが嘘の報告をしていた事実に、胸の奥が苦しくなるような気がした。
お父様とお母様は、怒りをにじませながら勢いよく立ち上がって、王都の方向を睨みつけている。
「レイラ、それは本当なのか?
だが、崖から落ちて無事だったとは思えないが、よく覚えていたね?」
「ええ。だから、もう騎士団も信頼したくないですわ」
「そうか。そうなると、レイラが生きていることは秘匿しておいた方が良いだろう。
パメラ嬢の差し金かは知らないが、レイラを消そうとしている人物がいる内は身を隠していた方が良い」
そう告げられて、頷く私。
私もグレン様と同じことを考えていたから、すぐに言いたいことも理解できた。
もしも私が生きていることが知られたら、暗殺者が送られてくることになる。
ここ公爵邸の警備なら私達を守り切ってくれると思うけれど、もしも貴族のように魔法が使える人が乗り込んできたら、魔法が使えない護衛の手に余る。
だから、知られないことが一番私の身を守ることになるのよね。
「……この屋敷に籠っていれば大丈夫ですわよね?」
「ああ。ここの者は皆口が堅い。
髪さえ隠せば領地に出てもらっても構わない。領民達はレイラの顔を知らないからね」
「分かりましたわ」
どうやら、私は最初の予定通り、ここでグレン様の妻として暮らすことになるらしい。
冤罪とはいえ罪人にされている私を使用人さん達が受け入れてくれるか分からないから不安はあるけれど、なんとかなるわよね……?
門の前に降りた時は使用人さん達が総出で出迎えてくれて、いやな顔をする人は一人もいなかったもの。
でも、下手なことをしたら嫌われてしまうと思うから、気を付けなくちゃ。
「レイラの無事が分かったから、私達は王都に戻るわね」
「分かりましたわ。
お母さま達も、どうかお気を付けて」
「ありがとう。でも、私達だって魔法は扱えるから、問題無いわ。
ユリウスと一緒なら、どんな魔法が来ても対処出来るから」
「ふふ、それなら心配無さそうですね」
お母様とお父様は政略結婚では珍しく、すごく仲が良い。
会話はあまり多くないけれど、一緒にいるだけで安心出来るみたい。
「ええ。レイラも大丈夫そうね?
白竜様とグレン様がついてるもの」
「どうして白竜って分かったの!?」
「上手く隠れられてると思ったんだけど、見つかっちゃった」
私が驚きながら声を上げると、髪にうまく隠れていたブランがテーブルの上に飛び移った。
「先代の聖女様のことを私のお母様……レイラから見たらお祖母様だったわね。
お祖母様から聞かされたの。聖女様は白竜と一緒に行動していたことをね。小さい姿の時に脱皮した皮で作った剥製を見せてもらっていたから、すぐに分かったわ」
「剥製……。そんなものが作れますのね」
脱皮した皮を見たことがないから想像出来なかったけれど、お母様は白竜の存在を知っていたらしい。
聖女様に関する資料を見ても白竜の記述は無かったから、驚いてしまう。
でも、もっと驚いている人がいた。
「白竜だって……?」
「はい。この子が居なかったら、私は魔物に食べられていました」
「ちょっと待ってくれ。
五百年前に国の守り神として崇められていた白竜が今も生きていたのか……」
「一度死んでいるよ」
「……はい? 今、なんとおっしゃいましたか?」
なんだかグレン様の様子がおかしい。
こんなに可愛らしい羽毛でもふもふの姿をしているのに、怯えたような恐れているような表情で、ペコペコ頭を下げている。
国王陛下が相手でも頭を下げなかったのに、一体どうしてしまったのかしら?
どこか……頭の具合でも悪くなってしまったのかしら?
「はい、もちろんです。レイラ様を心待ちにしております」
地面に足をつけてから門番に問いかけると、そんな言葉が返ってきた。
それに少し遅れて、奥に見える玄関から何人もの使用人さんが飛び出してきているところが目に入る。
先頭を走っているのはグレン様で、その少し後ろには公爵夫妻の姿も見える。
私の両親の姿も見えるから、大事になっていたのは間違いなさそうだ。
「レイラ……!」
「無事で良かった。崖から落ちたと聞いていたが、無事で良かった」
本当に心配していたみたいで、私の名前を呼びながら抱きしめてくるお母さま。
お父様は申し訳程度に私の手を握ってくれた。
グレン様は私に触れることはなかったけれど、無事で良かったと言ってくれた。
お母様とお父様は私が魔法で空を飛べることを知っているはずなのに、どうしてこんなに心配しているのかしら?
そんな疑問はグレン様の屋敷に入ってから明かされることになった。
「どうしてこんなに心配されているのでしょうか……?
私が簡単に魔物に負けないことは、お父様もお母様も知っていますよね?」
ダイニングのふかふかの椅子に座らせられてから、そう問いかける私。
すると、言い難そうにしているお父様達に代わって、グレン様が口を開いた。
「騎士団から、レイラが足を滑らせて崖から転落したあと、魔物の群れに襲われて倒れたと告げられたんだ。
翌日の朝に同じ場所を確認したら、魔物の死体の山と血だまりがあって、その血だまりからレイラが食べられたと判断された」
「そんな……。
私、騎士の誰かに突き落とされたのに……」
騎士団までもが嘘の報告をしていた事実に、胸の奥が苦しくなるような気がした。
お父様とお母様は、怒りをにじませながら勢いよく立ち上がって、王都の方向を睨みつけている。
「レイラ、それは本当なのか?
だが、崖から落ちて無事だったとは思えないが、よく覚えていたね?」
「ええ。だから、もう騎士団も信頼したくないですわ」
「そうか。そうなると、レイラが生きていることは秘匿しておいた方が良いだろう。
パメラ嬢の差し金かは知らないが、レイラを消そうとしている人物がいる内は身を隠していた方が良い」
そう告げられて、頷く私。
私もグレン様と同じことを考えていたから、すぐに言いたいことも理解できた。
もしも私が生きていることが知られたら、暗殺者が送られてくることになる。
ここ公爵邸の警備なら私達を守り切ってくれると思うけれど、もしも貴族のように魔法が使える人が乗り込んできたら、魔法が使えない護衛の手に余る。
だから、知られないことが一番私の身を守ることになるのよね。
「……この屋敷に籠っていれば大丈夫ですわよね?」
「ああ。ここの者は皆口が堅い。
髪さえ隠せば領地に出てもらっても構わない。領民達はレイラの顔を知らないからね」
「分かりましたわ」
どうやら、私は最初の予定通り、ここでグレン様の妻として暮らすことになるらしい。
冤罪とはいえ罪人にされている私を使用人さん達が受け入れてくれるか分からないから不安はあるけれど、なんとかなるわよね……?
門の前に降りた時は使用人さん達が総出で出迎えてくれて、いやな顔をする人は一人もいなかったもの。
でも、下手なことをしたら嫌われてしまうと思うから、気を付けなくちゃ。
「レイラの無事が分かったから、私達は王都に戻るわね」
「分かりましたわ。
お母さま達も、どうかお気を付けて」
「ありがとう。でも、私達だって魔法は扱えるから、問題無いわ。
ユリウスと一緒なら、どんな魔法が来ても対処出来るから」
「ふふ、それなら心配無さそうですね」
お母様とお父様は政略結婚では珍しく、すごく仲が良い。
会話はあまり多くないけれど、一緒にいるだけで安心出来るみたい。
「ええ。レイラも大丈夫そうね?
白竜様とグレン様がついてるもの」
「どうして白竜って分かったの!?」
「上手く隠れられてると思ったんだけど、見つかっちゃった」
私が驚きながら声を上げると、髪にうまく隠れていたブランがテーブルの上に飛び移った。
「先代の聖女様のことを私のお母様……レイラから見たらお祖母様だったわね。
お祖母様から聞かされたの。聖女様は白竜と一緒に行動していたことをね。小さい姿の時に脱皮した皮で作った剥製を見せてもらっていたから、すぐに分かったわ」
「剥製……。そんなものが作れますのね」
脱皮した皮を見たことがないから想像出来なかったけれど、お母様は白竜の存在を知っていたらしい。
聖女様に関する資料を見ても白竜の記述は無かったから、驚いてしまう。
でも、もっと驚いている人がいた。
「白竜だって……?」
「はい。この子が居なかったら、私は魔物に食べられていました」
「ちょっと待ってくれ。
五百年前に国の守り神として崇められていた白竜が今も生きていたのか……」
「一度死んでいるよ」
「……はい? 今、なんとおっしゃいましたか?」
なんだかグレン様の様子がおかしい。
こんなに可愛らしい羽毛でもふもふの姿をしているのに、怯えたような恐れているような表情で、ペコペコ頭を下げている。
国王陛下が相手でも頭を下げなかったのに、一体どうしてしまったのかしら?
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