上 下
9 / 100
第1章

9. 空の旅をしています

しおりを挟む
「地図を覚えてるから、空から見れば分かるかもしれないわ」

 貴族の令嬢に必要な教養とされている地図の暗記は私もこなしているから、大きな道の形を覚えていたりする。
 町があれば、そこに行って道を尋ねた方が確実なのだけど、この山奥からだと現実的ではないのよね。

「空から見れば分かるなら、僕が連れて行ってあげるよ。
 レイラはどこに行きたいの?」
「カストゥラ公爵家の領地に行きたいの。もしかして、私が背中に乗っても大丈夫なの?」
「もちろん! 僕は竜だから、馬車くらいなら運べるよ!」

 白竜さんがそう言って背中に乗りやすいようにしてくれたから、慎重に背中に登っていく。
 この白竜さんも竜だから、硬い鱗に覆われていて乗り心地はあまり良く無さそうね。

 そう思っていたのだけど、背中の一部分だけ柔らかい羽毛に覆われてふわふわしていたから、私はそこに座ることにした。
 少し前に持ちやすそうな棘も生えているから、振り落とされずに済みそうね。

「じゃあ、行くよ!」
「ええ」

 私が頷くと、ものすごい魔力が翼に集まって、羽ばたくことなくそらに上がっていった。
 竜が魔法で飛んでいるというのは本当だったのね……!

 物語で得た知識が本当だったことに驚きながら、離れていく地面を眺める私。
 この白竜を信用していいのかまだ分からないけれど、竜は恩を一生忘れないらしいから大丈夫よね?

 裏切ったら、一生恨まれる相手でもあるけれど、これは人が相手でも同じこと。
 大きな相手だから少し怖いけれど、危険は無さそうね。

「ねえ、この姿を見られたら攻撃されると思うのだけど、大丈夫かしら?」
「攻撃されても、僕は硬いから問題ないよ。それに、魔法で見えないようにしているから、そもそも気付かれないと思うよ」

 私が問いかけると、そんな答えが返ってきた。
 でも、この姿で地面に降りたら……大騒ぎになるわよね。

 最初は小鳥みたいな大きさだったから、自由に体の大きさを変えられるのかもしれないけれど、その大きさだと私が乗れないのよね……。

「レイラ、場所は分かった?」
「道があるところまで飛んでもらえるかしら?」
「とりあえず、北に向かって飛んでみるよ」

 そう言って、軽く翼を羽ばたかせて移動を始める白竜さん。
 流れていくは少し冷たいけれど、防御魔法を使ってくれているみたいで、ちょうどいい感じになっている。

 でも、日の光は防いでくれていないみたいだから、私は闇の防御魔法を使って日差しを遮っている。

「そういえば、白竜さんの名前はなんていうの?」
「名前? 考えたこともないや」
「そうなのね。それなら、私がつけてもいいかしら?」

 一緒に空の旅をするのに名前がないと不便だから、そんな提案をしてみた。
 正直、ネーミングセンスに自信は無いのだけど、無いよりは良いと思うのよね。

「うん、レイラがつけてくれる名前なら何でも歓迎するよ!」
「それなら、シロというのはどうかしら?」
「うーん、なんか安直すぎない?」
「そうよね……。それなら……」

 やっぱり私のネーミングセンスは壊滅的で、白竜さんにも渋い顔をされてしまった。
 竜の表情なんて見れないけれど、そこは想像で補っている。

「……ブランっていうのはどうかしら?」
「ブラン……。いい名前だね! 今日から僕はブランって名乗るよ」

 今度は喜んでくれたみたいで、声も少し高くなっていた。
 そういえば、竜ってどうして人の言葉を話せるのかしら?

「ねえブラン、あの時どうしてボロボロになっていたの?」
「脱皮中は弱点だらけになるし、無防備になるんだけど……そこをあの群れに襲われたんだ。
 小さくなって美味しくなさそうに見せたら興味を無くしてくれたんだけど、怪我が中々治らなくて……」

 竜って脱皮するのね……。
 昔の資料からしか分からなかった竜のことを知れるのは嬉しいけれど、少し複雑な気分になってしまった。

「……もうダメだと思ったとき、レイラが現れたんだ。
 あの時助けてもらえなかったら、僕は死んでいた。改めて、ありがとう」
「それを言ったら、ブランが居なかったら私も死んでいたわ。
 魔物だらけの森に一人で放り出されても生きていられるのは、ブランが守ってくれたからだもの」
「それなら、お互い様だね」

 そんな言葉が返ってきて、思わず笑顔を浮かべる私。

「そうね。
 ……あの街道まで近付いてもらえるかしら?」
「分かったよ」

 返事をしながら、飛ぶ方向を変えるブラン。
 飛んでいるから街道はあっという間に近付いてきて、一分もすれば街道の真上に入ることが出来た。

 遠くには町も見える。
 ここは王都の南西に伸びている街道みたいね……。

 グレン様の家の領地は王都から見て北東だから、移動するのには苦労しそうだわ。

「この街道を辿ってもらえるかしら? でも、壁に囲まれてる街には絶対に入らないでね」
「壁? そこは危険なんだね」

 私のお願いに疑問を持ったみたいだけど、それ以上問いかけてくることはなくて、街道に沿うようにして翼を羽ばたかせた。
 ちなみに、街道は王都から放射状に延びている。それぞれを繋ぐ道は存在しないから、魔物を避けて移動しようとしたら必ず王都を通ることになっている。

 だから、王都を追放された私は必然的に街道を外れないとグレン様には会えない。
 きっと私が魔物に襲われて死ねばいいと思っているのね。

 ……どこまで私を追い詰めれば気が済むのかしら?
 誰の命令か分からないのに、やり場のない怒りが溜まっていっているような気がした。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

処理中です...