断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
68 / 70

68. 幸せの忙しさ

しおりを挟む
 あれから更に半年が過ぎたある日のこと。

 私はレオン様と一緒に列車の先頭――機関車に乗り込んでいた。
 今乗っているのは、これから帝都に向けて走らせる試験車両。

 最初に開通したアストリアとクライアンの間を結ぶ路線の試験の時も緊張したけれど、今回も同じように緊張している。
 今日試験を行うのは、王都から名前を改めたグレルブからアルカシエルを経由して、帝都までを結ぶ線路。

 車輪だけを転がして確認はしてあるけれど、実際に車両を走らせるのは今日が初めてだ。
 この機関車を操作するのは、商会のみんなの多数決の結果、今回も私に決まった。

 往復分となると疲れるから、私の担当は片道だけだけれど。

「そろそろ大丈夫そうね。みんな、準備はいいかしら?」
「もちろんです!」
「いつでも!」

 この機関車の開発に関わってくれた五人の返事を待ってから、加速させるレバーを引いていく。
 商会やアスクライ公国の貴族達、それから王都で暮らしている国民たちに見送られながら、私達は王都を出発した。

 それからの試験走行中は、誰も言葉を発しないで、ずっと線路の先を見つめていた。
 何かあっても怪我をしないように、全員に防御魔法をかけているけれど、無事に成功してほしいから緊張したままだ。

 実際に走らせる時を想定しているから、一時間に百キロメートルを超えるくらいの距離を進む速さを維持したまま、アルカシエルの街に差し掛かる。
 この辺りは道をまたぐために線路が高い位置に作られているから、景色が良かったりする。

 けれども、そんな景色を楽しむ余裕なんて無かった。


 ここまではグレルブを出てから三十分ほど。
 今のところ不具合は出ていないから、予定通り試験を続ける。

 それから一時間ほどで国境地帯に広がる山を貫くトンネルに入って、そこから更に二時間。

「成功ね」
「ああ。次は復路だな」

 順番に降りていって、後ろ側に繋いでいた機関車に乗り移る私達。
 今度はレオン様がレバーを握って、商会のみんなや帝都で暮らす人々に見送られながら帝都を発った。



 それから六時間。

「試験、無事に成功しましたわ」

 無事にアルカシエルに戻った私達は、大公陛下――レオン様のお父様に報告に来ていた。
 ここは新しく出来た庁舎にある大公の間。

 公家と許可された人以外は立ち入ることが出来ない場所だから、私達以外でここに居る人は居ない。

「そうか、よくやってくれた。あとは、予定通り運行を始めるだけかな?」
「ええ」
「その時には、私も乗ってみたいものだ」
「分かりました、準備しておきますわ」

 大公陛下は鉄道を楽しみにしているみたいで、目を輝かせていた。

 ちなみに、この鉄道建設によって仕事を失っていた人が殆ど居なくなって、治安が良くなった。
 帝国に移転していた商会も殆どがアスクライ公国に戻ってきて、仕事が以前よりも増えている。

 そんな状況になったから、建設が終わっても仕事を失う人は出なかった。
 
 帝国との結びつきも強くなったから、アスクライ公国の将来は安泰ね。



 ちなみに、レオン様は無事に帝国の学院を卒業して、どういうわけか帝国で伯爵位を授かったらしい。
 理由は魔物除けを開発したから。

 それのお陰で、魔物に襲われる人が大きく減ったらしく、その功績を讃えられたのだとか。

 私も産業の発展に貢献したという理由で伯爵位を授かったりしたのだけど、正直に言って嬉しいとは思わなかった。
 帝国の社交界に参加しやすくはなったのだけど、それ以上に注目されてしまうのよね……。

 今では帝国の貴族からも大量の招待状が届くようになってしまった。
 行っている余裕が無いから、全てお断りしているけれど。


 忙しい理由は、鉄道の計画だけが原因じゃない。
 レオン様が学院を卒業したから、私達は結婚に向けて動き出している。

 ドレスを仕立てるための採寸をしたり、会場にするアルカシエルの大聖堂を綺麗に整備し直したり、私達に好意的な貴族――公国の全ての貴族と帝国の殆どの貴族に招待状を送る準備をしたり。
 とにかく忙しい日々を送っている。


 今日は試作されたドレスを試着する日。
 だから、庁舎を後にした私達は、そのまま公邸に向かった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」 「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」  新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。  わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。  こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。  イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。  ですが――。  やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。 「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」  わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。  …………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。  なにか、裏がありますね。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...