断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

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67. 進んだ計画と不安

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 あの日から半年。
 アスクライ公国は大きく発展していた。

 アルカシエルには質素なデザインでも広くて心地の良い庁舎が完成した。
 有事に備えて城の形ではあるけれど、許可を取れば爵位を持たなくても中に入れるようになっている。

 アストライアの領都クライアスの領都クライアンまでを結ぶ鉄道も無事に完成して、今は一時間に三本の列車が運転されている。

 今までは六時間近くかかっていた道のりが二時間ほどに短縮されて、両方の街からの人の行き来が活発になった。
 帝国との国境地帯では、山の地下に穴を掘り進めていて、これが完成したら帝国との往来も活発になると予想している。

 他にも、私達が生み出した動力――蒸気機関を広く売りに出したことで、色々な分野で効率が上がった。
 農業に紡績業、鉱業に工業。どの分野も大きく発展した。

 それでも、アルカンシェル商会は大陸で一番大きい商会のまま。
 色々な商会と取引が出来ても、魔道具の分野では他の追従を許さなかったのよね。

 経済も立ち直るどころか、それ以上にまで回復して、今では多くの商会の店があちこちで見られるほど。
 すっかり馬車の数は減ったけれど、酷使され過ぎた馬が過労死することが無くなったから、馬にとっては幸せだと思っている。

 それに、魔動車が増えても、馬車の方が都合が良い場所もあるのよね。
 だから馬が殺されるなんてことは今もこれからも起きないはずだ。



 色々と変化はあったけれど、今も私とレオン様の関係が大きく変わったりはしていない。
 ただ、一緒に時間が増えたからか、少し距離が縮まった気がするわ。

「もうすぐ着くかな?」
「そろそろですね」

 最近完成した時間を知るための魔道具、時計を見て言葉を返す私。
 ここはクライアンに向かう列車の中。

 窓から入り込む心地よい風を感じながらお話をしていると、前の方から汽笛が聞こえた。
 少し遅れて、ガタンガタンというリズムの良い音の間隔が少しずつ長くなっていく。

「屋敷、見えてきたよ」
「どこですか?」
「あれ。あの青い屋根だ」
「ここからだと小さく見えますわね」

 窓の外に、目的地のレオン様の家の屋敷が見えてきている。
 ここまで来たら、あと数分でクライアン駅に着く。

「そろそろ降りる準備をしよう」
「ええ」

 椅子と椅子の間にあるテーブルに広げていた魔道具の試作品を仕舞わないといけないから、侍女さんから鞄を受け取る私。
 それからレオン様と手分けして片付けていく。

 彼もすっかり魔道具開発に関わるようになっているから、会話も魔道具に関わるものが多くなってしまった。
 でも、お互いに楽しめているから、このままでいいのよね。

「私達も準備をして参ります」
「分かったわ」

 馬車や魔動車と違って広々としているから、侍女さん達もお菓子を広げて談笑しているのよね。
 私達だけが楽しむのは悪い気がするから、自由にしていいと言っている。

「今なら誰も見てないから良いよね?」
「すぐ近くにいますのに……」
「嫌だった?」
「そういうわけでは……」
「じゃあ、失礼するよ」

 でも、その隙に唇を重ねてくる人が出てしまったのよね……。
 すぐ近くにみんながいるから、落ち着かないわ。

「お待たせしました。……ルシアナ様、顔が赤いですが風に当たり過ぎたのでしょうか?」
「気にしないで……」

 そんなやり取りをしている内に、列車は駅に到着した。

「転ばないようにね」
「馬車じゃないから大丈夫ですわ」
「隙間に落ちたら大変だからね」

 降りる時にレオン様が手を貸してくれるのは変わらない。
 足を踏み外しても、落ちるような大きさの隙間ではないのに……。

 過保護な気もするけれど、守ってくれているという感じがして心地良いのよね。


 列車を降りてからは、クライアス邸に向かうための馬車に乗り換える。
 今度は大きな段差があるから、レオン様に手を引いてもらって乗り込んでいく。

 ちなみに、魔動車は動かせるようになるまで少し時間がかかるから、短距離の移動だと馬車の方が便利だったりする。
 見栄えも馬車の方が良いから、今も貴族は馬車を好むらしい。

「出発いたします」

 御者さんの声に続けて、馬車が動き出す。

 それから五分ほどでクライアス邸に入った私達は、侍女さん総出での出迎えを受けた。

「父上は今どこにいる?」
「執務室でございます」
「わかった、ありがとう」

 レオン様と婚約する前から何度も来ているから、勝手の分かっているお屋敷の中をレオン様と並んで進んでいく。

「少し緊張するよ」
「レオン様でも緊張するのですね……」
「当然だよ。こんなこと、自分の親には人生で一度しか言わないのだからね」

 そんなことを話していたのに、レオン様のお父様が居る部屋の前に着いた時には無言になってしまっていた。

「父上、レオンです。入っても宜しいでしょうか?」
「入りなさい」

 レオン様に続けて、私も中に入る。

「父上、ルシアナと結婚してからも帝国で暮らす許可をお願いします」
「身構えていれば、そんな話か。月に一度でも良いから、父さんに顔を見せなさい。
 守れるなら、許可しよう。
 それと、あと十年したら家を継いでもらう。それまでに戻ってきなさい」
「分かりました。必ず守ります」
「ルシアナ嬢もそれでいいかな?」
「はい。ありがとうございます」

 レオン様はクライアス家の長子だから、私と違って自由に動けない。
 だから、結婚してからずっと一緒に暮らしていけるか分からなくて不安だったのよね。

 十年という期間はあるけれど、一緒に魔道具開発をしながら暮らしていける。
 そのことが嬉しかったから、私はレオン様と重ねていた手をぎゅっと握った。
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