断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

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66. 厄介ごとのせいで

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「なんというか、悲しい話だな……」
「ええ。シエル様になんと声をかけていいのか分かりませんわ……」

 涙を堪えながら話していると、シエル様の明るい声が聞こえてきた。

「ルシアナ、服は着たわよ。って、どうして泣いているのよ?」
「こんな手紙を読んだら泣きたくなりますわ」
「それ、読んだのね。恥ずかしいわ……。恋文なんて読まれたくないから隠していたのに」
「ルイス様はもう居ないのですよ?」
「もう別れは済んでいるから、大丈夫よ。悔しいけれど、今はもうこの怒りをぶつける相手もいないから」
「そう、ですよね……」

 何とも言えない気持ちのまま、曖昧な言葉を返す私。
 そんな時、レオン様がこんなことを口にした。

「ルシアナもこれを着て欲しい。目のやり場に困る」
「はい……?」
「ごめんなさい、感覚を止めたままだったわね。これで大丈夫かしら?」
「えっと……」

 無くなっていた感覚が戻って、ようやく気付いた。
 胸の辺りだけ、服の布が無くなってしまっているわ……。

 今更と分かっていても、腕で隠しながらレオン様の服を借りた。



   ◇



 あれから数時間。
 シエル様を連れてアルカシエルに戻った私は、両親と向かい合っていた。

 シエル様の扱いについて話し合うために。

「今年は厄年か? どうしてこう、厄介事ばかり降ってくる」
「良いじゃないですか。初代聖女様ですよ?」
「本来なら生きていない人間が生きているんだぞ? 厄介事でしかない。おまけに禁忌として消し去ったはずの時間停止魔法が出てきてしまったんだ。頭を抱えたくもなるわ!」
「あらあら、そんなに怒ると五十になった時のルイスみたいに禿げるわよ?」
「……。治癒魔法で治らないか?」
「無理よ」

 シエル様は私達のひいひいひいおばあ様くらいになるから、お父様が頭を抱えてしまうのは理解できる。
 それとも、蘇らない毛根のことを嘆いているのかしら?

 お父様、まだまだ髪の毛はあるけれど、つむじの辺りが少し薄く……。

「そうか。で、シエル様。貴女はどうするのが正解だと思うか?」
「私とルシアナちゃんって少し似てるじゃない? 隠されていた妹というのはどうかしら?」
「それだけの治癒魔法の才があるなら、隠していたとしても不思議にはならないわ。
 でも貴女、今何歳なの?」
「十六よ?」
「ルシアナと同い年なのね。それなら、実は双子だったということにしましょう」

 この場にはお父様とお母様、それに私とシエル様がいて、人払いがされている。
 初代聖女様が生きているって分かったら、大騒ぎになってしまうもの。

「ルシアナ、良いかしら?」
「ええ。大丈夫ですわ」
「決まりね。侍女達に伝えておくわ」

 大きな問題だから時間がかかると思っていたのだけど、話し合いは数分で終わった。

「上手くまとまって良かったわ。ルシアナ、私のことは呼び捨てでいいからね? 双子なんだから」
「分かったわ……」

 シエルとの会話で粗が出ないように気を付けないといけないのだけど、慣れるのには時間がかかりそうね。



 ちなみに、本来の目的の霊脈から魔力をくみ上げる方法はここに戻って来てすぐに、写真に収めて複製した。
 時間を止める魔法は「決して形にしてはならない」とお父様から念押しされているから、魔力をくみ上げる魔法式以外は黒く塗りつぶしてある。

 話し合いが終わったから、私はレオン様と約束した場所に向かって、魔動車に乗って商会の支部に向かう。
 シエルは服を仕立てないといけないから、お母様の付き添いで仕立て屋に向かった。

 今は私のドレスを貸して凌いでいるけれど、微妙にサイズが違うのよね……。


 そんなわけで、私は予定通り商会に戻ることが出来た。

「ルシアナ様、どうでしたか?」
「魔力問題、解決出来そうよ」

 シエルに言われて分かったのだけど、霊脈はここの真下にも存在している。
 だから、まずは穴を掘る計画を立てている。

 洞窟は私とシエルの血で大変なことになっているから、使いたくないのよね……。

 ちなみに穴を掘ること自体は、井戸で技術がすでに確立されているから困らない。
 魔道具を入れるために大きさが必要だけれど、土を掘る魔道具は鉄道建設用で用意していたから、それを使えば大丈夫。

 だから……。

「ここの真下にあるわ」
「分かりました。では、掘っていきます」
「お願いするわね」

 ……すぐに穴掘りに取り掛かってもらった。

 穴が完成するまでに私は魔力を汲み上げる魔道具を完成させないといけないから、そのまま支部の工房に入って開発を進めることにした。
 
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