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65. 隠されていたもの
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どれくらいの攻撃魔法を撃ち込んだのかしら……?
霊脈の魔力を使っていなかったら、魔力切れを起こしているくらいは魔力を使った。
そこまでして、ようやく。
魔薬が抜けた化け物の姿に変化が起きた。
「あれが初代聖女様……なのか?」
「肖像画と全然違いますわ……」
「ああ。しかしあの治癒魔法の力は初代聖女様の記録と同じだった。
肖像画が間違っていることになる」
同性の私ですら目を奪われるほど美しい女性の姿。
初代聖女様の肖像画とは違うけれれど、佇まいから聖女様と分かるほど。
歳は私よりも少し上かしら?
生きている時間は二百年ほど違うけれど、その長い時間ずっと時が止まっていたのよね……。
だから、歳が近いと言っても問題は無いはず。
「なんとか、効果が切れましたわ……」
「薬の効果が切れたから、自我を奪われることも無いはずだ」
レオン様の狙い通りの結果になったから、初代聖女様に目を向ける私。
ただ、初代聖女様は服を着ていなかったから、さっきからずっとレオン様の目を塞いでいる。
そんな状況なのに、彼女は落ち着いた様子で何度も身体を見ていた。
「傷、治しましょうか……?」
「また薬の効果が出たりしないわよね……?」
「一度抜けてしまえば、戻りませんわ」
試したことは無いけれど、安心させようと思って口にした。
その直後、聖女様の身体が治癒魔法の光に包まれて、痛々しい傷が消えていく。
この傷を付けたのは私達なのだけど、頼まれたことだから仕方ないわよね……?
「ルシアナ、そろそろ手を離してくれないか? 何も見えない」
「駄目ですわ。あれはレオン様見せられるものではありませんの」
「状況が分からないから困るんだが? 危なくはないんだな?」
「ええ。私が保証します!」
とりあえず、レオン様には壁の方を向いていてもらうことで解決した。
ちなみに、初代聖女様の名前は、王家が残している記録によるとユーリア・アルグレア。
アルグレア家と言えば、初代聖女様の生家で、グレール王国だった頃は公爵家として大きな力を持っていた。
私の家、アストライア家にもアルグレア家から嫁いできた人が居たらしい。確か、初代聖女様の妹なのよね。
その人の名前はシエル。男の子を一人産んでから病死したという記録がある。
その男の子は無事に成長してアストライア家を継いだから、異母兄弟は分家としてアストライア家から離れた。
私の血筋はそんな感じだから、細かく言えば初代聖女様の血は通っていない。初代聖女様の妹の血が通っているから、勘違いしたのね……。
「聖女様。お名前をお聞きしても?」
「まだ言っていなかったのね……。私はシエルよ」
「えっ……? 歴史書には初代聖女様の名前はユーリア様となっているのですけど……」
困惑しながら問い返すと、シエル様はこんな言葉を返してきた。
「それはお姉様の名前よ。お姉様も癒しの力を持っていたから、私が化け物になった後で慌ててお姉様を聖女にしたのよ、きっと。
よく見たら、そのレオン君にはお姉様の血も流れているのね。なんてこと、お姉様はあの王家と結婚する羽目になっていたのね……」
「二百年も昔のことだから詳しくは分からないが、そもそもどうして魔薬を飲まされたんだ?」
壁を向いたまま問いかけてくるレオン様。
何かを察したのか、上着を脱いで私の方に出してくれている。
その上着をシエル様に着てもらおうと受け取っていると、こんな言葉が聞こえてきた。
「迫ってくる王子を断り続けていたら、無理やり飲まされたのよ。あの人は興奮する薬と言っていたけれど、中身は見ての通りよ」
「なによそれ……。その王子は生きているのね……?」
「処分されていなければ生きていたはずよ。私がしてしまったのは、アストライア家のお屋敷を跡形もなく壊しただけだから……。
ルイス様が私の時間を止めてくれなかったら、人殺しになっていたわ」
どうやら、化け物になってしまったシエル様をこの洞窟に封印したのは、アストライア家の人達だったらしい。
ルイス様というのは、私のご先祖様で儀式魔法の天才だった人。
色々な伝説を残しているルイス様なら、時間を止めるような術式を作り出せていても不思議ではない。
「ルイス様は……貴女の旦那様ですわよね?」
「ええ。良く知っているわね?」
「自分の家のことは勉強していますもの」
答えながら、上着を渡す私。
そんな時だった。
「ルシアナ、こんな紙が挟まっていた。どうやら、この魔法陣の効果は一昨日切れているらしい」
「具体的ですわね?」
「ここに書いてある。書いたのはルイス・アストライア様で間違いないだろう。
初代聖女様への謝罪も書かれている」
私が駆け寄ると、レオン様がそんな説明をしてくれた。
手紙の中身は、儀式魔法が限界を迎えた時に動けるようになったシエル様に宛てたものだった。
ルイス様はシエル様が変わり果てた姿になっても愛していたのね。
そして、私達子孫に希望を託したらしい。
魔法陣の直し方、シエル様を元に戻す方法が見つかっていないこと、魔法陣が限界を迎えても目で見ただけでは分からないこと。
ほとんどはシエル様に宛てた恋文だったけれど、私達に向けた警告も書かれていた。
この手紙を読んでいると、目頭が熱くなってしまった。
霊脈の魔力を使っていなかったら、魔力切れを起こしているくらいは魔力を使った。
そこまでして、ようやく。
魔薬が抜けた化け物の姿に変化が起きた。
「あれが初代聖女様……なのか?」
「肖像画と全然違いますわ……」
「ああ。しかしあの治癒魔法の力は初代聖女様の記録と同じだった。
肖像画が間違っていることになる」
同性の私ですら目を奪われるほど美しい女性の姿。
初代聖女様の肖像画とは違うけれれど、佇まいから聖女様と分かるほど。
歳は私よりも少し上かしら?
生きている時間は二百年ほど違うけれど、その長い時間ずっと時が止まっていたのよね……。
だから、歳が近いと言っても問題は無いはず。
「なんとか、効果が切れましたわ……」
「薬の効果が切れたから、自我を奪われることも無いはずだ」
レオン様の狙い通りの結果になったから、初代聖女様に目を向ける私。
ただ、初代聖女様は服を着ていなかったから、さっきからずっとレオン様の目を塞いでいる。
そんな状況なのに、彼女は落ち着いた様子で何度も身体を見ていた。
「傷、治しましょうか……?」
「また薬の効果が出たりしないわよね……?」
「一度抜けてしまえば、戻りませんわ」
試したことは無いけれど、安心させようと思って口にした。
その直後、聖女様の身体が治癒魔法の光に包まれて、痛々しい傷が消えていく。
この傷を付けたのは私達なのだけど、頼まれたことだから仕方ないわよね……?
「ルシアナ、そろそろ手を離してくれないか? 何も見えない」
「駄目ですわ。あれはレオン様見せられるものではありませんの」
「状況が分からないから困るんだが? 危なくはないんだな?」
「ええ。私が保証します!」
とりあえず、レオン様には壁の方を向いていてもらうことで解決した。
ちなみに、初代聖女様の名前は、王家が残している記録によるとユーリア・アルグレア。
アルグレア家と言えば、初代聖女様の生家で、グレール王国だった頃は公爵家として大きな力を持っていた。
私の家、アストライア家にもアルグレア家から嫁いできた人が居たらしい。確か、初代聖女様の妹なのよね。
その人の名前はシエル。男の子を一人産んでから病死したという記録がある。
その男の子は無事に成長してアストライア家を継いだから、異母兄弟は分家としてアストライア家から離れた。
私の血筋はそんな感じだから、細かく言えば初代聖女様の血は通っていない。初代聖女様の妹の血が通っているから、勘違いしたのね……。
「聖女様。お名前をお聞きしても?」
「まだ言っていなかったのね……。私はシエルよ」
「えっ……? 歴史書には初代聖女様の名前はユーリア様となっているのですけど……」
困惑しながら問い返すと、シエル様はこんな言葉を返してきた。
「それはお姉様の名前よ。お姉様も癒しの力を持っていたから、私が化け物になった後で慌ててお姉様を聖女にしたのよ、きっと。
よく見たら、そのレオン君にはお姉様の血も流れているのね。なんてこと、お姉様はあの王家と結婚する羽目になっていたのね……」
「二百年も昔のことだから詳しくは分からないが、そもそもどうして魔薬を飲まされたんだ?」
壁を向いたまま問いかけてくるレオン様。
何かを察したのか、上着を脱いで私の方に出してくれている。
その上着をシエル様に着てもらおうと受け取っていると、こんな言葉が聞こえてきた。
「迫ってくる王子を断り続けていたら、無理やり飲まされたのよ。あの人は興奮する薬と言っていたけれど、中身は見ての通りよ」
「なによそれ……。その王子は生きているのね……?」
「処分されていなければ生きていたはずよ。私がしてしまったのは、アストライア家のお屋敷を跡形もなく壊しただけだから……。
ルイス様が私の時間を止めてくれなかったら、人殺しになっていたわ」
どうやら、化け物になってしまったシエル様をこの洞窟に封印したのは、アストライア家の人達だったらしい。
ルイス様というのは、私のご先祖様で儀式魔法の天才だった人。
色々な伝説を残しているルイス様なら、時間を止めるような術式を作り出せていても不思議ではない。
「ルイス様は……貴女の旦那様ですわよね?」
「ええ。良く知っているわね?」
「自分の家のことは勉強していますもの」
答えながら、上着を渡す私。
そんな時だった。
「ルシアナ、こんな紙が挟まっていた。どうやら、この魔法陣の効果は一昨日切れているらしい」
「具体的ですわね?」
「ここに書いてある。書いたのはルイス・アストライア様で間違いないだろう。
初代聖女様への謝罪も書かれている」
私が駆け寄ると、レオン様がそんな説明をしてくれた。
手紙の中身は、儀式魔法が限界を迎えた時に動けるようになったシエル様に宛てたものだった。
ルイス様はシエル様が変わり果てた姿になっても愛していたのね。
そして、私達子孫に希望を託したらしい。
魔法陣の直し方、シエル様を元に戻す方法が見つかっていないこと、魔法陣が限界を迎えても目で見ただけでは分からないこと。
ほとんどはシエル様に宛てた恋文だったけれど、私達に向けた警告も書かれていた。
この手紙を読んでいると、目頭が熱くなってしまった。
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