断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

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63. 王家の禁忌

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 あれから一ヶ月。
 本格的に始まった鉄道建設のおかげで、アルカンシェル商会は大忙し…‥とまではいかないけれど、普段よりも忙しくなっている。

 今回の計画では生活に困っている人だけでなく、倒産寸前の商会の救済も兼ねているから、忙しくなったのは他の商会も同じ。

 ちなみに、私の商会では線路の建設よりも、実際に走らせる車両や建設に必要な魔道具作りを主に担当している。
 それ以外にも、計画通りに建設されているか確認しているけれど、こちらは考えることが少ないから時間はかからない。

 問題は、実際に走らせる車両なのよね……。

 計画では峠越えもすることになっているから、例の車──魔動車まどうしゃで使っている動力だと力不足になっていた。
 だから、より大きくして力を出せるようにと、上下する力で直接車輪を動かす方法を試そうとしている。

 ただ力強く動かすだけなら、使う魔力の量を増やせば良いのだけど……それだけの量の魔力は確保出来ないから、効率も求めているのよね。
 その結果は、組み立てるだけでも大変な複雑なもの。

 お陰で試作品は五日経っても完成していない。


 私は複数箇所で進められている工事を順番に視察しているから、直接参加は出来ていないのだけど、私が居なくても開発が進むようにしていたから大きな問題は起きていないらしい。


 課題になっている魔力の確保を解決出来そうな方法も見つかった。
 その方法は、今私達が潜っている洞窟の奥深くにあるのだと魔導書に書いてあったのよね。

「確かに魔力の気配が近付いているな……」
「ええ。魔物が居ないといいのですけど……」

 魔物の発生原因はよく分かっていないのだけど、もしかしたら今回目指している霊脈レイラインから生み出されているのかもしれない。
 だから、私達は防御魔法を使った状態でここに来ている。

 今のところ魔物に遭遇したりはしていないのだけど……。

「光が見えてきたな」
「記述通りなら、あの光が霊脈ですわね」
「待て、何かいる」

 ……慎重に足を進めてみると、見覚えのある異形がそこにいた。

「これは……」
「ええ、間違いありませんわ。グレールの国王が化けていたものと同じです」
「動きは無いが、嫌な空気だな」

 この異形は記憶にあるものの十倍くらいの大きさで、目は閉じている。
 霊脈以外の魔力は感じられないけれど、言葉にはしにくい空気が漂っていた。悪寒を感じるほどだから、あまり長い時間ここにいない方が良さそうね……。

 そんな化け物の足元には光り輝く魔法陣があって、今も霊脈から魔力を吸っている

「儀式魔法で封じているみたいですわ。見た感じだと、霊脈から魔力を汲み上げて、その力で拘束しているのだと思います。
 でも、こんな魔法は見たことがありませんわ」
「この化け物の存在を抹消したい王家が意図的に記録を消したのだろう。魔法式の記述を切り取った理由もそれだろう」

 私の予想もレオン様の言葉と同じだけれど、他にも何かある気がするのよね……。
 それに、この化け物から感じる魔力は、私の魔力に少し似ている。

 私のご先祖様は二代目の聖女様なのだけど……まさか、聖女様が化け物になっているなんてあり得ないわよね。
 うん、きっと偶々魔力が似ていただけ。

「どんな理由でも、この化け物が私達の知らないところで生きていただなんて、恐ろしいですわね」
「ああ。王家は昔から腐っていたのだろう」

 レオン様と推測し合いながら、念の為に魔法陣から魔法式を読み取って記録していく。
 そんな時だった。

「誰かいるのね……?」
「ひっ……」
「動けるのか!?」

 化け物が女性の声を発したから、恐怖のあまり変な声が出てしまった。
 それだけなら良かったのに、その化け物は私のことを凝視している。

「貴女には、私の血が……通っているのね。
 私が、封印されてから、何年経ったのかしら?」
「貴方は一体、何者なのですか?」
「聖女、よ。グレールで最初の」

 初代聖女様は歴代の聖女様の中で一番力があって、グレール王国だけでなく帝国の人々からも愛されていたと言われている。
 そんなお方がどうして、魔薬を飲んでいるのかしら?

「初代聖女様……? どうしてこんな姿になってしまったのですか?」
「私は嵌められたのよ。三代目の国王、ダーラスに。その時に飲まされた魔薬のせいで、こんな姿になってしまったわ。
 ずっと自我が消えていたけれど、貴女が近くに来てくれたお陰で取り戻せたわ。ありがとう、私の子孫さん」

 私が問いかけると、そんな答えが返ってきた。
 何があったのかは分からないけれど、初代聖女様の意志では無かったらしい。

「今は、私が生まれてから、どれくらい……経っているのかしら?」
「……貴女が初代聖女様なら、二百年経っていますわ」
「そんなに経っているのね。私の血が薄い理由も分かったわ。
 貴女にあの憎い王の血が殆ど入っていなくて良かったわ」

 その時、少しだけ空気が変わった気がした。
 視線も私からレオン様に移った。

「それに比べて、そこの男はあの王の血が濃いのね。忌まわしい血は、処分……しなくちゃ」

 その直後、物凄い殺意を感じた。
 このままだと、レオン様が……!

 そう思ったから、私はレオン様の前に飛び込んだ。
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