断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

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61. 無断訪問はお断り

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 翌日。
 商会の本部で建設計画にういての会議を終えた私達は、馬を使わない車で移動することになった。

 万が一の故障に備えて、馬車に後を追ってもらう形での移動だけれど、性能試験も兼ねているから実際に使う速さで移動している。

「時間は馬車で移動する時のものを伝えているから、少し寄り道しないか?」
「どこに行きたいのですか?」
「まだ秘密。危険な場所ではないから、安心して欲しい」

 私達は今、国境に近いバールフィルの街と帝都の間を移動している。
 国土が広い帝国では街を出ると何も無いから、魔物にもよく遭遇する。

 けれども、今乗っている車の方が魔物の足よりも速いから、戦闘にはなっていない。
 魔物は追い付けないと分かったら諦めて街道から離れていくから、後から来る馬車が巻き込まれる心配も無さそうだ。

 ちなみに、騎乗でもこの車に追いつくことは出来ないから、護衛は二人だけ。
 でも、襲撃する余裕すら与えなければ、戦力不足は問題にはならない。

 そんなわけで、盗賊に狙われることもなく無事にバールフィルの街に着いた私達は、昼食のためにレストランに入った。
 いつも商会の支部で済ませていたから、ここのレストランに入るのは初めてなのよね。

「ここは人気ですのね」
「ああ。予約していなかったら、一時間は待つらしい」
「そんなに……」

 席が少ないわけでは無いけれど、この時間になると人が殺到するみたいね……。
 それにしても、こんな人気なレストランの予約を済ませているだなんて、レオン様はどんな手を使ったのかしら?

「種類は少ないが、どれも美味しいと評判だ」
「安いですわね……」
「どこかの商会のやり方を真似ているそうだ」
「すごく身に覚えがあるのですけど?」

 それからメニューに目を通して、一番大きな写真になっている料理を選んだ。
 ちなみに、全部で三種類しかなかったから、迷うことは無かった。

「決まったかな?」
「ええ。これにしますわ」
「分かった。
 すみません、これを二つお願いします」
「畏まりました」

 恭しく頭を下げたウェイターさんの姿が見えなくなって、雑談を始める私達。
 それから二分ほどで料理が運ばれてきた。

「お待たせしました」
「ありがとう」
「ありがとうございます」

 テーブルの上に料理が並べられて、私達はお礼を言った。

 料理が出来上がるのが早すぎるけれど、きっと先に作り始めているからね。
 三種類しかないから、無駄になることも少ないのよね。

「「いただきます」」

 レオン様に続けて、私も料理を口に運ぶ。

 お肉は柔らかくてスジが無い。野菜を嚙むと、程よい歯ごたえが返ってくる。
 味付けも、貴族お抱えの料理人さんが作る料理と同じくらい美味しいもの。

 食材こそ高級なものではないけれど、美味しくて、すぐに運ばれてきて、しかも安い。
 人気にならないはずが無いわ。

「すごく美味しいですわ」
「満足してもらえて良かったよ。一応、デザートもあるみたいだけど、どうする?」
「この料理を食べきってから決めますわ。私には少し多くて……」
「分かった」

 それから色々なことをお話ししながら食事をすすめて、何とか完食することが出来た。
 でも、デザートを食べる余裕は無かったから、諦めようとしたのだけど……。

「デザートを四人分、持ち帰りで」
「畏まりました」

 レオン様がウェイターさんを呼んだと思ったら、すのままデザートを注文していた。
 食べきれないのに……じゃなくて、馬車に持ち込めるなんて、驚いたわ。

「あの、レオン様……」
「食べたそうにしていたから頼んだのだが、不満だったか?」
「驚いただけですわ。ここで食べなくても大丈夫でしたのね」
「今気付いたんだ。ほら、ここに書いてある」
「本当ですわ。どうして気付かなかったのかしら……」

 気付かなかった自分が少し恨めしい。
 でも、レオン様の気遣いのお陰でデザートを楽しめそうだから、待っている時間が楽しかった。



   ◇



 あれから数時間。
 無事にアルカシエルに着いた私達は、司令部になっている建物──元アルカンシェル商会の支部に入った。

 ……けれども、見覚えのある声が聞こえてきて、固まってしまった。

「……私は聖女候補なのよ!? もっと持て囃してくれないと国が滅びるわ!」
「ですから、事前の連絡が無ければ対応はしかねます」

 来客受付にしているカウンターにいるのは、元聖女候補のリーシャさんね。
 確か私達の国に亡命してきたと聞いていたのだけど……。

 どうしてこんなに偉そうなのかしら?

「信じられない! 聖女の力はどうでもいいのね!?」
「事前に連絡してからお越しください。私から言えるのはそれだけです」

 受付担当の人は嫌そうにしているけれど、咎めようとは思わない。
 こんな態度を取られたら、嫌になるものだから。


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