断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
60 / 70

60. 変化するもの

しおりを挟む
 屋敷に戻ってから少しして、夕食のためにと食堂に来た時のこと。
 私が持っている通信の魔道具が震えた。

「ルシアナ、大事な話だ。マドネス王子が牢に入れられ、グレール王国が消えてた。
 全てアスクライ公国の領土になった」
「なんですって……?」

 グレール王国の体制を残して、サリアス王子の指揮の下で経済の立て直しをける予定だったはず。
 けれども、王国が消えたということは他に何かありそうね……。

「サリアス殿下──いや、陛下のの命で南東部の不正していた貴族達は爵位を失った。
 これから経済の立て直しをすることになる。しかし、今の公国にそんな財力は無い。
 そこで相談なのだが、民達に与えられる仕事は無いかな?」

 サリアス王子は聡明だったらしい。
 最初は意図が読めなかったけれど、諸悪の根源の国王を倒して、悪を引き継ごうとしていたマドネス王子を幽閉した。

 血の繋がった家族のはずなのに、こんな風に関係を切ることが出来るなんて……並々ならぬ精神の持ち主に違いない。
 王国が消えたということは、サリアス王子が自ら王位を手放したということにもなる。

 信じられないことだけれど、聡明な人ならその覚悟も決められるのかしら?
 そんな疑問が浮かんできたけれど、気にしたところで事実は変わらない。

「民達に与えられる仕事を作ることは出来ますわ。でも、鉄道を有効に使おうとしたら、帝国に至るように作りたいのです」
「鉄道というのはカーリッツ公国で広まっている新しい輸送手段の事で合っているかな?」
「合っていますわ。これからのアスクライ公国の発展のためには必要だと思いましたの」

 アストライア領の中心部から首都アルカシエルを通ってクライアス領の中心部までの鉄道を作るだけでも馬車で四時間ほどの距離になってしまう。
 その距離に鉄道を作るとなると、人手はいくらあっても足りないのよね。

 良いことではないけれど、多くの人が職を失っている今なら人でも確保しやすい。
 摩道具を駆使すれば力の無い人でも働けるから、事故にさえ気を付ければ大きな問題は起こらないと思う。

「分かった。帝国との交渉は任せてほしい。
 費用はグレールの王家が貯め込んでいた資金から払うことになるが、それで良いかな?」
「大丈夫ですわ。明日中に建設計画を練るので明後日にはアルカシエルに行きますね」
「助かる。測量はしなくても大丈夫か?」
「ええ。馬車専用の道を作ろうとしたときの記録がありますので、大丈夫ですわ」
 
 グレール王国の金貨を少しだけでも配った方が餓死者は減らせるかもしれない。けれども、働かずにお金を得ることが出来たら、それ以降に働くことが難しくなってしまう。
 だから、今は急いで建設の計画を練らないといけないわ。


 けれども今日はもう陽が落ちてしまっているから、向かい側に腰掛けているレオン様と建設計画についてお話ししながら夕食を進めた。

 ちなみに、戦争が終結してからお兄様達は領地に戻ってしまったから、この屋敷にいるのは私達と一部の使用人さんだけ。
 掃除の頻度を下げられる魔道具を殆どの部屋に置いたから、この人数でも問題なく回る。

「レオン様、お待たせしてしまって申し訳ないですわ」
「気にしなくて良い。鉄道の計画を練るんだったな?」
「ええ。まずは、アストライアの領都とクライアスの領都を繋ぐ道を考えていますわ。
 それと、王都からアルカシエルを通って帝国につながる道作ろうと思いますの」

 レオン様が食事を口に運んでいる間に、考えていることを伝える私。
 少し間を置いてから、レオン様が口を開いた」

「なるほど。それなら、アルカシエルに駅を作った方が良さそうだな。
 鉄道というのは人も運べるのか?」
「人が乗るための車両を作れば可能だと思います。でも、床が高くなってしまうので乗り降りが難くなってしまいますわ」
「それなら、荷物用の駅と人が乗るための駅は分けて、乗り降りしやすいように床の高さに合わせた台を置こう。
 そうすれば女性でも利用しやすくなるはずだ」

 絵を描きながら説明するレオン様。

 それからしばらくの間、私達は鉄道の建設計画を話し合った。
 鉄の道が通る場所や駅の場所、それから細かい配置に土地の確保の方法も決めていった。

「細かい部分は工事を進めながら決めよう」
「ええ」
「すぐに完成するものではないが、楽しみだよ」
「私も楽しみですわ。でも、今日はもう遅いので、そろそろ寝た方が良さそうですわね」
「そうだな。夜遅くまでお疲れ様。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」

 軽い抱擁を交わしてから私室に戻る私。
 それから湯浴みを済ませたら、すっかり日付が変わる時間になってしまっていた。

「お嬢様、夜更かしは良くありませんよ。
 忙しいことは存じておりますが、体調を崩されては本末転倒でございます。どうかご自愛くださいませ」
「心配してくれてありがとう。気を付けるわ」

 普段は小言が多い人なのだけど、今日は心配そうにしてくれている。
 なんだか申し訳なくなってしまったから、急いで髪を乾かしてからベッドに入った。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

処理中です...