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60. 変化するもの
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屋敷に戻ってから少しして、夕食のためにと食堂に来た時のこと。
私が持っている通信の魔道具が震えた。
「ルシアナ、大事な話だ。マドネス王子が牢に入れられ、グレール王国が消えてた。
全てアスクライ公国の領土になった」
「なんですって……?」
グレール王国の体制を残して、サリアス王子の指揮の下で経済の立て直しをける予定だったはず。
けれども、王国が消えたということは他に何かありそうね……。
「サリアス殿下──いや、陛下のの命で南東部の不正していた貴族達は爵位を失った。
これから経済の立て直しをすることになる。しかし、今の公国にそんな財力は無い。
そこで相談なのだが、民達に与えられる仕事は無いかな?」
サリアス王子は聡明だったらしい。
最初は意図が読めなかったけれど、諸悪の根源の国王を倒して、悪を引き継ごうとしていたマドネス王子を幽閉した。
血の繋がった家族のはずなのに、こんな風に関係を切ることが出来るなんて……並々ならぬ精神の持ち主に違いない。
王国が消えたということは、サリアス王子が自ら王位を手放したということにもなる。
信じられないことだけれど、聡明な人ならその覚悟も決められるのかしら?
そんな疑問が浮かんできたけれど、気にしたところで事実は変わらない。
「民達に与えられる仕事を作ることは出来ますわ。でも、鉄道を有効に使おうとしたら、帝国に至るように作りたいのです」
「鉄道というのはカーリッツ公国で広まっている新しい輸送手段の事で合っているかな?」
「合っていますわ。これからのアスクライ公国の発展のためには必要だと思いましたの」
アストライア領の中心部から首都アルカシエルを通ってクライアス領の中心部までの鉄道を作るだけでも馬車で四時間ほどの距離になってしまう。
その距離に鉄道を作るとなると、人手はいくらあっても足りないのよね。
良いことではないけれど、多くの人が職を失っている今なら人でも確保しやすい。
摩道具を駆使すれば力の無い人でも働けるから、事故にさえ気を付ければ大きな問題は起こらないと思う。
「分かった。帝国との交渉は任せてほしい。
費用はグレールの王家が貯め込んでいた資金から払うことになるが、それで良いかな?」
「大丈夫ですわ。明日中に建設計画を練るので明後日にはアルカシエルに行きますね」
「助かる。測量はしなくても大丈夫か?」
「ええ。馬車専用の道を作ろうとしたときの記録がありますので、大丈夫ですわ」
グレール王国の金貨を少しだけでも配った方が餓死者は減らせるかもしれない。けれども、働かずにお金を得ることが出来たら、それ以降に働くことが難しくなってしまう。
だから、今は急いで建設の計画を練らないといけないわ。
けれども今日はもう陽が落ちてしまっているから、向かい側に腰掛けているレオン様と建設計画についてお話ししながら夕食を進めた。
ちなみに、戦争が終結してからお兄様達は領地に戻ってしまったから、この屋敷にいるのは私達と一部の使用人さんだけ。
掃除の頻度を下げられる魔道具を殆どの部屋に置いたから、この人数でも問題なく回る。
「レオン様、お待たせしてしまって申し訳ないですわ」
「気にしなくて良い。鉄道の計画を練るんだったな?」
「ええ。まずは、アストライアの領都とクライアスの領都を繋ぐ道を考えていますわ。
それと、王都からアルカシエルを通って帝国につながる道作ろうと思いますの」
レオン様が食事を口に運んでいる間に、考えていることを伝える私。
少し間を置いてから、レオン様が口を開いた」
「なるほど。それなら、アルカシエルに駅を作った方が良さそうだな。
鉄道というのは人も運べるのか?」
「人が乗るための車両を作れば可能だと思います。でも、床が高くなってしまうので乗り降りが難くなってしまいますわ」
「それなら、荷物用の駅と人が乗るための駅は分けて、乗り降りしやすいように床の高さに合わせた台を置こう。
そうすれば女性でも利用しやすくなるはずだ」
絵を描きながら説明するレオン様。
それからしばらくの間、私達は鉄道の建設計画を話し合った。
鉄の道が通る場所や駅の場所、それから細かい配置に土地の確保の方法も決めていった。
「細かい部分は工事を進めながら決めよう」
「ええ」
「すぐに完成するものではないが、楽しみだよ」
「私も楽しみですわ。でも、今日はもう遅いので、そろそろ寝た方が良さそうですわね」
「そうだな。夜遅くまでお疲れ様。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
軽い抱擁を交わしてから私室に戻る私。
それから湯浴みを済ませたら、すっかり日付が変わる時間になってしまっていた。
「お嬢様、夜更かしは良くありませんよ。
忙しいことは存じておりますが、体調を崩されては本末転倒でございます。どうかご自愛くださいませ」
「心配してくれてありがとう。気を付けるわ」
普段は小言が多い人なのだけど、今日は心配そうにしてくれている。
なんだか申し訳なくなってしまったから、急いで髪を乾かしてからベッドに入った。
私が持っている通信の魔道具が震えた。
「ルシアナ、大事な話だ。マドネス王子が牢に入れられ、グレール王国が消えてた。
全てアスクライ公国の領土になった」
「なんですって……?」
グレール王国の体制を残して、サリアス王子の指揮の下で経済の立て直しをける予定だったはず。
けれども、王国が消えたということは他に何かありそうね……。
「サリアス殿下──いや、陛下のの命で南東部の不正していた貴族達は爵位を失った。
これから経済の立て直しをすることになる。しかし、今の公国にそんな財力は無い。
そこで相談なのだが、民達に与えられる仕事は無いかな?」
サリアス王子は聡明だったらしい。
最初は意図が読めなかったけれど、諸悪の根源の国王を倒して、悪を引き継ごうとしていたマドネス王子を幽閉した。
血の繋がった家族のはずなのに、こんな風に関係を切ることが出来るなんて……並々ならぬ精神の持ち主に違いない。
王国が消えたということは、サリアス王子が自ら王位を手放したということにもなる。
信じられないことだけれど、聡明な人ならその覚悟も決められるのかしら?
そんな疑問が浮かんできたけれど、気にしたところで事実は変わらない。
「民達に与えられる仕事を作ることは出来ますわ。でも、鉄道を有効に使おうとしたら、帝国に至るように作りたいのです」
「鉄道というのはカーリッツ公国で広まっている新しい輸送手段の事で合っているかな?」
「合っていますわ。これからのアスクライ公国の発展のためには必要だと思いましたの」
アストライア領の中心部から首都アルカシエルを通ってクライアス領の中心部までの鉄道を作るだけでも馬車で四時間ほどの距離になってしまう。
その距離に鉄道を作るとなると、人手はいくらあっても足りないのよね。
良いことではないけれど、多くの人が職を失っている今なら人でも確保しやすい。
摩道具を駆使すれば力の無い人でも働けるから、事故にさえ気を付ければ大きな問題は起こらないと思う。
「分かった。帝国との交渉は任せてほしい。
費用はグレールの王家が貯め込んでいた資金から払うことになるが、それで良いかな?」
「大丈夫ですわ。明日中に建設計画を練るので明後日にはアルカシエルに行きますね」
「助かる。測量はしなくても大丈夫か?」
「ええ。馬車専用の道を作ろうとしたときの記録がありますので、大丈夫ですわ」
グレール王国の金貨を少しだけでも配った方が餓死者は減らせるかもしれない。けれども、働かずにお金を得ることが出来たら、それ以降に働くことが難しくなってしまう。
だから、今は急いで建設の計画を練らないといけないわ。
けれども今日はもう陽が落ちてしまっているから、向かい側に腰掛けているレオン様と建設計画についてお話ししながら夕食を進めた。
ちなみに、戦争が終結してからお兄様達は領地に戻ってしまったから、この屋敷にいるのは私達と一部の使用人さんだけ。
掃除の頻度を下げられる魔道具を殆どの部屋に置いたから、この人数でも問題なく回る。
「レオン様、お待たせしてしまって申し訳ないですわ」
「気にしなくて良い。鉄道の計画を練るんだったな?」
「ええ。まずは、アストライアの領都とクライアスの領都を繋ぐ道を考えていますわ。
それと、王都からアルカシエルを通って帝国につながる道作ろうと思いますの」
レオン様が食事を口に運んでいる間に、考えていることを伝える私。
少し間を置いてから、レオン様が口を開いた」
「なるほど。それなら、アルカシエルに駅を作った方が良さそうだな。
鉄道というのは人も運べるのか?」
「人が乗るための車両を作れば可能だと思います。でも、床が高くなってしまうので乗り降りが難くなってしまいますわ」
「それなら、荷物用の駅と人が乗るための駅は分けて、乗り降りしやすいように床の高さに合わせた台を置こう。
そうすれば女性でも利用しやすくなるはずだ」
絵を描きながら説明するレオン様。
それからしばらくの間、私達は鉄道の建設計画を話し合った。
鉄の道が通る場所や駅の場所、それから細かい配置に土地の確保の方法も決めていった。
「細かい部分は工事を進めながら決めよう」
「ええ」
「すぐに完成するものではないが、楽しみだよ」
「私も楽しみですわ。でも、今日はもう遅いので、そろそろ寝た方が良さそうですわね」
「そうだな。夜遅くまでお疲れ様。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
軽い抱擁を交わしてから私室に戻る私。
それから湯浴みを済ませたら、すっかり日付が変わる時間になってしまっていた。
「お嬢様、夜更かしは良くありませんよ。
忙しいことは存じておりますが、体調を崩されては本末転倒でございます。どうかご自愛くださいませ」
「心配してくれてありがとう。気を付けるわ」
普段は小言が多い人なのだけど、今日は心配そうにしてくれている。
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