断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
57 / 70

57. 馬車ではありません

しおりを挟む
 あの後、試作品の音を防ぐ方法を探すことになった。
 防音魔法という便利な物はあるけれど、魔力消費を抑えたいから、魔法を使わない方法を試した。

 この研究の成果はすぐに出て、ゴムレドンの皮から作った板を内側に貼った金属の板で覆うことで解決した。
 馬車の車輪を回す方法もすぐに決まったから、夕方には試作品の馬車が出来上がった、

「緊張するな」
「ええ。こんなに緊張するのは久々ですわ……」

 今は試作品の馬車を動かそうとしているところ。
 まだ水が温まっていないから動かないけれど、あと一分も待てば動かせるようになるはず。

 ちなみに、動力源になっている魔道具の中の圧力を時計の針のような物で確認できるようにしてあるから、そこを見ればすぐに分かる。

「そろそろ良さそうですわ」
「分かった」

 レオン様が手元の棒を少しだけ手前に倒すと、ゆっくりと馬車が動き出した。
 いえ、馬の力は使っていないから、これはただの車ね。

「曲がる機能も問題無さそうだ。減速も大丈夫だな」
「成功、ですわね」
「馬より速かったら、だろう?」
「そうでしたわ……」

 そんなことを話していたら、レオン様が加速のための棒を一気に手前まで倒していた。
 すぐに馬車の時は感じなかった加速感が訪れる。

 けれども……。

「おお、これはすごいな」
「ぶつかりますわ!」
「大丈夫だ。ここで曲がれば……」

 どういうわけか、視界が……いえ、車体が傾いていて……。
 直後に衝撃が私達を襲った。

「申し訳ない、怪我は無いか?」
「ええ、防御魔法を使っておいて良かったですわ」

 万が一何かにぶつかっても大丈夫なようにと防御魔法を使っていたから、怪我は無い。
 速度が出ても壊れないようにと、車体も金属を使って頑丈に作っていたから、傷は付いていても壊れては無かった。

 ガラスを付けていなくて良かったわ……。

「曲がる時はゆっくりにしないといけないな……」
「私も気を付けますわ」

 けれども、物凄い音が響いていたから、本部の建物から何人か飛び出してきていた。

「ルシアナ様、レオン様。大丈夫ですか!?」
「ええ、大丈夫よ」
「俺の方も問題は無い。ルシアナ、一旦外に出よう」
「この高さは無理ですわ……」

 脱出しようとしても、出入り口はレオン様の肩の高さ。
 私の目線の高さでもあるけれど、この高さを乗り越えることなんて私には出来ない。
 
「分かった。少し失礼する」

 でも、レオン様にかかればこれくらいのこと、問題にすらならないみたいで、あっという間に彼の肩と腕に座る形にさせられていた。
 本当に、レオン様の力がどうなっているのか不思議だわ……。

「出られそうか?」
「ええ。ありがとうございます」

 無事に外に出られたから、お礼を言う。
 続けてレオンは自力で外に出て来ていた。

「降りられる?」
「降りるだけなら大丈夫ですわ」

 普段はあまりしないけれど、護身術で窓から飛び降りる練習もさせられていたから、私の背の高さから飛び降りるくらいなら大丈夫なのよね。
 だから、そのまま飛び降りた。

 レオン様も飛び降りてきたと思ったら、今度は車体に手をかけて、そのまま元の状態に起こしていた。

「よし、実験を再開しよう」
「もうですか?」
「何も壊れていないんだから、問題無いだろう。
 今すぐにでも長い直線で性能を調べたい」
「分かりましたわ」

 レオン様に言われるまま、馬車に乗り込む私。
 それから程度の外に試作品の馬車で移動して、少し道から外れた場所に来てしまった。

「土の上でも問題無いかな?」
「速すぎると跳ねてしまうと思いますわ」
「分かった」

 返事をしたと思ったら、そのまま棒を手前に倒すレオン様。
 すぐに目に見えて馬車──いえ、車が加速していって、騎乗でも感じたことの無い速さになった。

 流石にこの速さだと揺れるけれど、ガタガタという不快なものは少なくて、ふわふわとした揺れがほとんど。
 でも、石を踏んだ時に時折ガタッと大きく揺れる。

 後ろを見てみると、土煙が立ち上っていた。

「馬の倍くらいの速さかな?
 しかし、これ以上は速くならなさそうだな」
「少し怖いですわね……」
「ああ。だが、この速さなら四時間くらいでアルカシエルに着きそうだ」
「山越えは大きく曲ったりもするので、難しいですよ……」
「この馬車で──いや、車か。車で半日くらいだな」

 そんな話をしながら、倒していた棒を元の位置に戻すレオン様。
 今度は減速用の棒が手前に倒されて、減速感が訪れた。

 ちなみに、減速用の棒を倒すと、風魔法で貯められた空気の力で車輪を押さえつけるようになっている。
 そのせいで、金属同士が擦れ合う高い音が響いてしまうけれど、この音は魔物が嫌う音だからそのままにしてある。

 私達にとっても「キイィィィ」という音は不快だけれど、これは我慢よ……。

「減速もら曲がるのも問題無さそうだな」
「大成功、ですわ……!」
「ああ。これは世界が変わるだろう。
 ルシアナも動かすか?」
「良いのですか? 楽しんでいるのですよね?」
「俺だけが楽しんでも意味無いだろう」

 そんなわけで交代したから、今度は私が程度に向けて車を動かしていく。
 街道に戻ったから馬車より少し速いくらいにしているけれど、これでも楽しいかもしれないわ。
 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?【第5回ツギクル小説大賞 AIタイトル賞】

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。 2025/2/28 第5回ツギクル小説大賞 AIタイトル賞をいただきました

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

処理中です...