断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
52 / 70

52. 信じられない態度

しおりを挟む
 レオン様の手を借りて摩道具の実験をしてから丸一日。
 私は再び庭に出て実験の準備を始めた。

 これから実験するのは、髪を乾かすためにと作った摩道具で、今は手元に付いている突起を移動させることで風の量を調整出来るようにしてある。
 今まではタオルで拭いてから風魔法を当て続けて乾かしていたけれど、これからはこの魔道具で時間が短縮できるようになるはずだ。

 正直に言って、貴族以外からの需要は無いかもしれないけれど、これは庶民向けのレストラン三食分の値段で売る予定だから、物好きな平民も買ってくれると思う。
 そうすれば、この魔道具の便利さが広まって、たくさんの人が髪を乾かす手間を小さく出来るようになると思う。

「成功することを祈っているよ」
「ありがとうございます」

 お礼を言いながら、突起を一段分持ち上げる私。
 そのまま温かい風が出てくる場所に手を当てると、狙い通りの温かい風が手を包み込んだ。

 まだ私の魔力は乱れたままだけれど、今回は魔石で動かしているから問題は無い。

 試しに髪に当ててみても、乱れるようなことは無かった。

「滑り出しは順調といったところか。記録出来たよ」
「ありがとうございます」

 お礼を言ってから、もう一段だけ突起を持ち上げた。

 手を当ててみると同じくらいの温かさの風に包まれる。
 髪の方は少しだけ乱れてしまったけれど、当て方を工夫すれば問題だとは思わなかった。

「よし、これも記録したよ」
「分かりましたわ」

 最後にもう一段、一番強い風にする。
 温度は変わらなくても、髪に当てると大きく乱されてしまった。

 眠る前なら気にならないけれど、朝やお昼には使わない方が良さそうね……。
 
「髪、痛んだりしないのか?」
「ええ、それは大丈夫なのですけど……」

 乱れてしまった髪を直したいけれど、手伝ってくれているレオン様を残すわけにはいかない。
 そう思ったから言葉を詰まらせていると、彼からこんな問いかけをされた。

「直しに行きたいのかな?」
「これくらい我慢出来ますから、大丈夫です」
「俺のことは気にしなくていい。商会長の髪がボサボサというのは、色々とまずいと思う」
「そうですわね……。では、少しだけ行ってきますね」

 レオン様がそう言ってくれたから、一度本部の中に戻る私。
 簡単に髪を直して、少し急ぎ足で庭に戻ると、レオン様がタオルを広げて魔導具の風を当てていた。

「実験の続き、これで合っているかな?」
「ええ、ありがとうございます」

 今度の実験は、濡らしたタオルがどれくらいで乾くのかを計るもの。
 砂時計を見ると、あと少しで決めていた時間が経ちそうだった。

「最初よりも風に流されやすくなっているから、乾いて軽くなったみたいだね」
「そんなに変わったのですか?」
「ああ。驚いたよ」

 そんなことをお話ししながら、魔導具を止めてタオルを手にとってみる。
 水が滴らないくらい限界まで濡らしていたはずなのに、今は少し湿っているだけ。

「こんなに乾くとは思いませんでしたわ」
「今日の実験は成功かな?」
「ええ、もちろん。手伝ってくださって、ありがとうございました」

 片付けを進めながら、お礼を口にする私。
 今回の魔道具は、初めて二つの魔法陣を一つの魔法陣のようにして組み込んでいるから成功するか心配だった。

 それでも無事に成功したから、本当に良かったわ。
 この技術が出来たから、他の魔道具も今までよりももっと効率よく作れるようになるのだから。


 ちなみに、このことを思いついたのは、アルカシエルの防衛戦を終えてすぐのこと。
 あの戦いが無かったらこのことを思い付かなかったと考えると……少し複雑な気持ちになってしまった。



 それから少しして、本部の会長室に戻った時のこと。

「ルシアナ様、グレール王国からお手紙が届きました」
「ありがとう。嫌な予感がするから、少し待ってて貰えるかしら?」
「畏まりました」

 宛名の筆跡はマドネス王子のもの。
 だから、中に危険な物が入っていないか心配になってしまう。

 追放した相手に送る手紙と言えば、暗殺のために毒を盛っていたり、開けた瞬間に爆発するような儀式魔法を仕組むことが多い。
 その相手を処分する目的で。

 私の手に届く時には危険が無いか確認しているはずだけれど、それでも嫌な予感は続いている。
 だから、毒を見つけるための魔道具と儀式魔法が入っていないかを確認する魔道具を使って中身を確認していく。

「大丈夫でしたか?」
「ええ、ありがとう」

 それから、手袋を嵌めてから封を切る私。
 中身に目を通すと、こんなことが書かれていた。

『今日から僕が王になった。これからは貴女の商会を優遇する。追放も無かったことにする。
 だから王家との取引を再開しなさい』

 人にお願い事をする時の文とは思えない態度。
 優遇するとは書いたあるけれど、潜入させている人によると王国内では税をさらに重くしている様子。

 贅沢をする人はリーシャと国王の二人分だけ減っているけれど、取引したところで資金が底をついているのだから、支払いがされる見込みもない。

 それに……一方的に国から追い出しておいて、都合が悪くなったからって戻ってきてほしいですって!?
 絶対にお断りしますっ!
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...