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52. 信じられない態度
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レオン様の手を借りて摩道具の実験をしてから丸一日。
私は再び庭に出て実験の準備を始めた。
これから実験するのは、髪を乾かすためにと作った摩道具で、今は手元に付いている突起を移動させることで風の量を調整出来るようにしてある。
今まではタオルで拭いてから風魔法を当て続けて乾かしていたけれど、これからはこの魔道具で時間が短縮できるようになるはずだ。
正直に言って、貴族以外からの需要は無いかもしれないけれど、これは庶民向けのレストラン三食分の値段で売る予定だから、物好きな平民も買ってくれると思う。
そうすれば、この魔道具の便利さが広まって、たくさんの人が髪を乾かす手間を小さく出来るようになると思う。
「成功することを祈っているよ」
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、突起を一段分持ち上げる私。
そのまま温かい風が出てくる場所に手を当てると、狙い通りの温かい風が手を包み込んだ。
まだ私の魔力は乱れたままだけれど、今回は魔石で動かしているから問題は無い。
試しに髪に当ててみても、乱れるようなことは無かった。
「滑り出しは順調といったところか。記録出来たよ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってから、もう一段だけ突起を持ち上げた。
手を当ててみると同じくらいの温かさの風に包まれる。
髪の方は少しだけ乱れてしまったけれど、当て方を工夫すれば問題だとは思わなかった。
「よし、これも記録したよ」
「分かりましたわ」
最後にもう一段、一番強い風にする。
温度は変わらなくても、髪に当てると大きく乱されてしまった。
眠る前なら気にならないけれど、朝やお昼には使わない方が良さそうね……。
「髪、痛んだりしないのか?」
「ええ、それは大丈夫なのですけど……」
乱れてしまった髪を直したいけれど、手伝ってくれているレオン様を残すわけにはいかない。
そう思ったから言葉を詰まらせていると、彼からこんな問いかけをされた。
「直しに行きたいのかな?」
「これくらい我慢出来ますから、大丈夫です」
「俺のことは気にしなくていい。商会長の髪がボサボサというのは、色々とまずいと思う」
「そうですわね……。では、少しだけ行ってきますね」
レオン様がそう言ってくれたから、一度本部の中に戻る私。
簡単に髪を直して、少し急ぎ足で庭に戻ると、レオン様がタオルを広げて魔導具の風を当てていた。
「実験の続き、これで合っているかな?」
「ええ、ありがとうございます」
今度の実験は、濡らしたタオルがどれくらいで乾くのかを計るもの。
砂時計を見ると、あと少しで決めていた時間が経ちそうだった。
「最初よりも風に流されやすくなっているから、乾いて軽くなったみたいだね」
「そんなに変わったのですか?」
「ああ。驚いたよ」
そんなことをお話ししながら、魔導具を止めてタオルを手にとってみる。
水が滴らないくらい限界まで濡らしていたはずなのに、今は少し湿っているだけ。
「こんなに乾くとは思いませんでしたわ」
「今日の実験は成功かな?」
「ええ、もちろん。手伝ってくださって、ありがとうございました」
片付けを進めながら、お礼を口にする私。
今回の魔道具は、初めて二つの魔法陣を一つの魔法陣のようにして組み込んでいるから成功するか心配だった。
それでも無事に成功したから、本当に良かったわ。
この技術が出来たから、他の魔道具も今までよりももっと効率よく作れるようになるのだから。
ちなみに、このことを思いついたのは、アルカシエルの防衛戦を終えてすぐのこと。
あの戦いが無かったらこのことを思い付かなかったと考えると……少し複雑な気持ちになってしまった。
それから少しして、本部の会長室に戻った時のこと。
「ルシアナ様、グレール王国からお手紙が届きました」
「ありがとう。嫌な予感がするから、少し待ってて貰えるかしら?」
「畏まりました」
宛名の筆跡はマドネス王子のもの。
だから、中に危険な物が入っていないか心配になってしまう。
追放した相手に送る手紙と言えば、暗殺のために毒を盛っていたり、開けた瞬間に爆発するような儀式魔法を仕組むことが多い。
その相手を処分する目的で。
私の手に届く時には危険が無いか確認しているはずだけれど、それでも嫌な予感は続いている。
だから、毒を見つけるための魔道具と儀式魔法が入っていないかを確認する魔道具を使って中身を確認していく。
「大丈夫でしたか?」
「ええ、ありがとう」
それから、手袋を嵌めてから封を切る私。
中身に目を通すと、こんなことが書かれていた。
『今日から僕が王になった。これからは貴女の商会を優遇する。追放も無かったことにする。
だから王家との取引を再開しなさい』
人にお願い事をする時の文とは思えない態度。
優遇するとは書いたあるけれど、潜入させている人によると王国内では税をさらに重くしている様子。
贅沢をする人はリーシャと国王の二人分だけ減っているけれど、取引したところで資金が底をついているのだから、支払いがされる見込みもない。
それに……一方的に国から追い出しておいて、都合が悪くなったからって戻ってきてほしいですって!?
絶対にお断りしますっ!
私は再び庭に出て実験の準備を始めた。
これから実験するのは、髪を乾かすためにと作った摩道具で、今は手元に付いている突起を移動させることで風の量を調整出来るようにしてある。
今まではタオルで拭いてから風魔法を当て続けて乾かしていたけれど、これからはこの魔道具で時間が短縮できるようになるはずだ。
正直に言って、貴族以外からの需要は無いかもしれないけれど、これは庶民向けのレストラン三食分の値段で売る予定だから、物好きな平民も買ってくれると思う。
そうすれば、この魔道具の便利さが広まって、たくさんの人が髪を乾かす手間を小さく出来るようになると思う。
「成功することを祈っているよ」
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、突起を一段分持ち上げる私。
そのまま温かい風が出てくる場所に手を当てると、狙い通りの温かい風が手を包み込んだ。
まだ私の魔力は乱れたままだけれど、今回は魔石で動かしているから問題は無い。
試しに髪に当ててみても、乱れるようなことは無かった。
「滑り出しは順調といったところか。記録出来たよ」
「ありがとうございます」
お礼を言ってから、もう一段だけ突起を持ち上げた。
手を当ててみると同じくらいの温かさの風に包まれる。
髪の方は少しだけ乱れてしまったけれど、当て方を工夫すれば問題だとは思わなかった。
「よし、これも記録したよ」
「分かりましたわ」
最後にもう一段、一番強い風にする。
温度は変わらなくても、髪に当てると大きく乱されてしまった。
眠る前なら気にならないけれど、朝やお昼には使わない方が良さそうね……。
「髪、痛んだりしないのか?」
「ええ、それは大丈夫なのですけど……」
乱れてしまった髪を直したいけれど、手伝ってくれているレオン様を残すわけにはいかない。
そう思ったから言葉を詰まらせていると、彼からこんな問いかけをされた。
「直しに行きたいのかな?」
「これくらい我慢出来ますから、大丈夫です」
「俺のことは気にしなくていい。商会長の髪がボサボサというのは、色々とまずいと思う」
「そうですわね……。では、少しだけ行ってきますね」
レオン様がそう言ってくれたから、一度本部の中に戻る私。
簡単に髪を直して、少し急ぎ足で庭に戻ると、レオン様がタオルを広げて魔導具の風を当てていた。
「実験の続き、これで合っているかな?」
「ええ、ありがとうございます」
今度の実験は、濡らしたタオルがどれくらいで乾くのかを計るもの。
砂時計を見ると、あと少しで決めていた時間が経ちそうだった。
「最初よりも風に流されやすくなっているから、乾いて軽くなったみたいだね」
「そんなに変わったのですか?」
「ああ。驚いたよ」
そんなことをお話ししながら、魔導具を止めてタオルを手にとってみる。
水が滴らないくらい限界まで濡らしていたはずなのに、今は少し湿っているだけ。
「こんなに乾くとは思いませんでしたわ」
「今日の実験は成功かな?」
「ええ、もちろん。手伝ってくださって、ありがとうございました」
片付けを進めながら、お礼を口にする私。
今回の魔道具は、初めて二つの魔法陣を一つの魔法陣のようにして組み込んでいるから成功するか心配だった。
それでも無事に成功したから、本当に良かったわ。
この技術が出来たから、他の魔道具も今までよりももっと効率よく作れるようになるのだから。
ちなみに、このことを思いついたのは、アルカシエルの防衛戦を終えてすぐのこと。
あの戦いが無かったらこのことを思い付かなかったと考えると……少し複雑な気持ちになってしまった。
それから少しして、本部の会長室に戻った時のこと。
「ルシアナ様、グレール王国からお手紙が届きました」
「ありがとう。嫌な予感がするから、少し待ってて貰えるかしら?」
「畏まりました」
宛名の筆跡はマドネス王子のもの。
だから、中に危険な物が入っていないか心配になってしまう。
追放した相手に送る手紙と言えば、暗殺のために毒を盛っていたり、開けた瞬間に爆発するような儀式魔法を仕組むことが多い。
その相手を処分する目的で。
私の手に届く時には危険が無いか確認しているはずだけれど、それでも嫌な予感は続いている。
だから、毒を見つけるための魔道具と儀式魔法が入っていないかを確認する魔道具を使って中身を確認していく。
「大丈夫でしたか?」
「ええ、ありがとう」
それから、手袋を嵌めてから封を切る私。
中身に目を通すと、こんなことが書かれていた。
『今日から僕が王になった。これからは貴女の商会を優遇する。追放も無かったことにする。
だから王家との取引を再開しなさい』
人にお願い事をする時の文とは思えない態度。
優遇するとは書いたあるけれど、潜入させている人によると王国内では税をさらに重くしている様子。
贅沢をする人はリーシャと国王の二人分だけ減っているけれど、取引したところで資金が底をついているのだから、支払いがされる見込みもない。
それに……一方的に国から追い出しておいて、都合が悪くなったからって戻ってきてほしいですって!?
絶対にお断りしますっ!
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