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48. 良くない影響
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あれから一週間。
戦争の後処理はお父様達がすることになっているから、出番の無い私達は帝国に戻っていた。
今は、商会本部の工房で新しい魔道具を作っている。
戦争のことですっかり忘れていたけれど、一昨日からレオン様の留学も始まる予定だったけれども、あんな戦いがあったから留学は延期することになった。
そんな理由で、お昼前の今もレオン様はすぐ側にいてくれている。
ちなみに、レオン様はより強力な防御魔法の開発に勤しんでいるみたい。
「今のままでは、次に何かあってもルシアナを守りきれないからね。もっと強い力は必要だと思っている」
理由は一昨日聞いたこの言葉が全てらしく、研究をするために大陸最高峰と言われている帝国の学院に入学するつもりらしい。
私は商会のことがあるから学院に入るつもりは無いのだけど、半日もレオン様と会えなくなってしまうのは寂しい。
だから、今はこうして彼と一緒に居られる時間を大切にしていこうと決めている。
「レオン様、進捗はどうですか?」
「良さそうな資料は見つけたから、これから実験していく予定だ。
ルシアナの方はどうかな?」
「一応形にはなりましたわ。ただ……」
試しに魔道具に魔力を通して動かしてから、反対の手に持っていた捨てる予定の紙切れを近付けてみる。
すぐにゴオォォという音が響いて、直後には紙切れが魔道具に吸い込まれていった。
少し遅れて、木っ端微塵になった紙切れが魔道具から出てくると、レオン様は引き攣った表情を浮かべていた。
「これ、危なくないのか?」
「危ないですわよ」
「そうだよな。なるほど、威力の調整が課題なのか」
「ええ。前まではこんな威力にはならなかったのですけど……」
この魔道具は、部屋の空気を漂う埃を吸い取ろうと思って作ったもの。
でも、こんな風に部屋に置いておくには危険すぎる物が出来上がってしまったのよね……。
今は私の魔力で動かしているから私には影響無いけれど、服は吸い込まれそうになってしまう。
「ちょっと借りて良いか?」
「はい。……原因が分かりましたの?」
「確証は持てないが」
そう口にしたレオン様が魔道具に魔力を流していく。
すると、穏やかな風が私の髪を揺らした。
「問題は無さそうだな」
「ええ、そうみたいですわね」
そう言葉を返しながら、受け取った魔道具にもう一回魔力を流す。
すると、やっぱりゴオォという音が響いてしまった。
「騎士団の中では有名なのだが、普段使わない量の魔力を一気に使った後は、上手く扱えなくなることがあるそうだ。
一週間もすれば治るが、これでは不便そうだな」
「どうしましょう……。このままだと開発に支障が出てしまいますわ」
魔石に貯めた魔力があるから生活に支障は出ないけれど、私の魔道具製作では自分の魔力を使って試験をしているから、今のままでは開発出来ないのよね。
効率は下がってしまうけれど、しばらくは魔石を使って実験しようと思ったのだけど……。
「魔力を通すくらいなら手伝える。
また実験するときになったら声をかけてくれ」
「ありがとうございます。では、これとこれとこれと、あとこれもお願いしてもいいですか?」
レオン様からの提案を聞いて、廃棄しようと思っていた魔道具達を取り出す私。
一つ目は髪を洗う時に楽になると思って作った、お湯を雨のように出す魔道具。
二つ目は髪を乾かすために作った暖かい風を出す魔道具。
三つ目は掃除をする時に箒の代わりにゴミを吸うための魔道具。
四つ目は夜に起きてしまった時に壁に足の小指をぶつけないように、足元を淡く照らしてくれる魔道具。
上手く出来ていたら便利なはずなのに、どれも危険な物になってしまっている。
「どんな感じか見せてもらえないかな?」
「良いですけど、ここでは危険ですわ……」
真っ黒に焦げてしまっている壁から目を逸らしながら、そう口にする私。
そのまま庭に出ると、順番に魔力を流していく。
「順番に行きますわね」
お湯を出す魔道具に魔力を注ぐと、勢い良く熱湯が出てきて泡を立てた。
髪を乾かす目的で作った魔道具からは、本部の建物を超える高さの炎が吹き出して、近くの草を焦がした。
「新しい武器か?
これは対魔物で使えそうだな」
「違いますっ!」
危険だけれど武器ではないから、咄嗟に否定する私。
それなのに……。
掃除のために作った魔導具は、近くにあった空の植木鉢を吸い込んだ。
反対側を突き破って、粉々になった破片が飛び出してくるところを見ると、とても部屋に置ける物ではない。
足元を照らす目的で作った魔道具は、光る部分を空に向けていてもレオン様が慌てて目を塞ぐほどのもの。
「これは目眩しに、これは硬いものを捨てる時に使えそうだが……
まさか、これは夜に部屋を照らすものなのか?」
「いえ、足元だけを照らす目的で作りましたの……」
普段はよく当たるレオン様の予想が外れてしまっている。
それだけ失敗が酷すぎるのね。
少しだけ、泣きたくなってしまったわ……。
戦争の後処理はお父様達がすることになっているから、出番の無い私達は帝国に戻っていた。
今は、商会本部の工房で新しい魔道具を作っている。
戦争のことですっかり忘れていたけれど、一昨日からレオン様の留学も始まる予定だったけれども、あんな戦いがあったから留学は延期することになった。
そんな理由で、お昼前の今もレオン様はすぐ側にいてくれている。
ちなみに、レオン様はより強力な防御魔法の開発に勤しんでいるみたい。
「今のままでは、次に何かあってもルシアナを守りきれないからね。もっと強い力は必要だと思っている」
理由は一昨日聞いたこの言葉が全てらしく、研究をするために大陸最高峰と言われている帝国の学院に入学するつもりらしい。
私は商会のことがあるから学院に入るつもりは無いのだけど、半日もレオン様と会えなくなってしまうのは寂しい。
だから、今はこうして彼と一緒に居られる時間を大切にしていこうと決めている。
「レオン様、進捗はどうですか?」
「良さそうな資料は見つけたから、これから実験していく予定だ。
ルシアナの方はどうかな?」
「一応形にはなりましたわ。ただ……」
試しに魔道具に魔力を通して動かしてから、反対の手に持っていた捨てる予定の紙切れを近付けてみる。
すぐにゴオォォという音が響いて、直後には紙切れが魔道具に吸い込まれていった。
少し遅れて、木っ端微塵になった紙切れが魔道具から出てくると、レオン様は引き攣った表情を浮かべていた。
「これ、危なくないのか?」
「危ないですわよ」
「そうだよな。なるほど、威力の調整が課題なのか」
「ええ。前まではこんな威力にはならなかったのですけど……」
この魔道具は、部屋の空気を漂う埃を吸い取ろうと思って作ったもの。
でも、こんな風に部屋に置いておくには危険すぎる物が出来上がってしまったのよね……。
今は私の魔力で動かしているから私には影響無いけれど、服は吸い込まれそうになってしまう。
「ちょっと借りて良いか?」
「はい。……原因が分かりましたの?」
「確証は持てないが」
そう口にしたレオン様が魔道具に魔力を流していく。
すると、穏やかな風が私の髪を揺らした。
「問題は無さそうだな」
「ええ、そうみたいですわね」
そう言葉を返しながら、受け取った魔道具にもう一回魔力を流す。
すると、やっぱりゴオォという音が響いてしまった。
「騎士団の中では有名なのだが、普段使わない量の魔力を一気に使った後は、上手く扱えなくなることがあるそうだ。
一週間もすれば治るが、これでは不便そうだな」
「どうしましょう……。このままだと開発に支障が出てしまいますわ」
魔石に貯めた魔力があるから生活に支障は出ないけれど、私の魔道具製作では自分の魔力を使って試験をしているから、今のままでは開発出来ないのよね。
効率は下がってしまうけれど、しばらくは魔石を使って実験しようと思ったのだけど……。
「魔力を通すくらいなら手伝える。
また実験するときになったら声をかけてくれ」
「ありがとうございます。では、これとこれとこれと、あとこれもお願いしてもいいですか?」
レオン様からの提案を聞いて、廃棄しようと思っていた魔道具達を取り出す私。
一つ目は髪を洗う時に楽になると思って作った、お湯を雨のように出す魔道具。
二つ目は髪を乾かすために作った暖かい風を出す魔道具。
三つ目は掃除をする時に箒の代わりにゴミを吸うための魔道具。
四つ目は夜に起きてしまった時に壁に足の小指をぶつけないように、足元を淡く照らしてくれる魔道具。
上手く出来ていたら便利なはずなのに、どれも危険な物になってしまっている。
「どんな感じか見せてもらえないかな?」
「良いですけど、ここでは危険ですわ……」
真っ黒に焦げてしまっている壁から目を逸らしながら、そう口にする私。
そのまま庭に出ると、順番に魔力を流していく。
「順番に行きますわね」
お湯を出す魔道具に魔力を注ぐと、勢い良く熱湯が出てきて泡を立てた。
髪を乾かす目的で作った魔道具からは、本部の建物を超える高さの炎が吹き出して、近くの草を焦がした。
「新しい武器か?
これは対魔物で使えそうだな」
「違いますっ!」
危険だけれど武器ではないから、咄嗟に否定する私。
それなのに……。
掃除のために作った魔導具は、近くにあった空の植木鉢を吸い込んだ。
反対側を突き破って、粉々になった破片が飛び出してくるところを見ると、とても部屋に置ける物ではない。
足元を照らす目的で作った魔道具は、光る部分を空に向けていてもレオン様が慌てて目を塞ぐほどのもの。
「これは目眩しに、これは硬いものを捨てる時に使えそうだが……
まさか、これは夜に部屋を照らすものなのか?」
「いえ、足元だけを照らす目的で作りましたの……」
普段はよく当たるレオン様の予想が外れてしまっている。
それだけ失敗が酷すぎるのね。
少しだけ、泣きたくなってしまったわ……。
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