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47. 勝利のお祝い
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あの後、グレールの第二王子は騎士さん達によって拘束されることになった。
敗れた国の長が拘束されるのは普通のことだから、誰も疑問には思っていない。
けれども、第二王子は公国寄りの立場をとっているから、処刑されることは無いらしい。
お父様からは、グレールの国王を裏切ることは示し合わせていたと戦いの後に聞かされたのよね……。
私達に伝えられていなかったのは、油断させないようにするためだったそうで、最初から勝利は確信していたとのこと。
だからミスを誘わないように緊張を和らげて、犠牲者が出ないように尽力していたらしい。
そのことだけが理由では無いと思うけれど……。
今回の戦闘でアスクライ公国側に死者が出ることは無かったから、騎士さん達の張りつめた空気も無くなって、笑顔もちらほらと見られるようになっていた。
私はというと……。
「なんとかなったな」
レオン様に抱きしめられて、そんな声を聞いていた。
「ええ、危なかったですけれど、お互いに無事で良かったですわ」
彼のことを抱き返す。
その時、張りつめていた何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちたような気がした。
「本当に、レオン様が生きていて良かったです……」
「心配かけてすまなかった。だが、ああしなかったらルシアナと二度と会えなくなってしまうと思ったんだ。
そうなったら、俺は生きていけない」
「私だって、貴方に会えなくなったら……っ」
これ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。
涙がぼろぼろと溢れてしまって、声を我慢できなくなってしまうと思ったから。
「結果論になってしまうが、お互いに生きているんだ。
今はそのことを喜びたいが、だから泣きたかったら泣いていい。
落ち着いたら、無事を祝おう」
「これは嬉し泣きです……」
今の言葉は半分本当、半分嘘だ。
でも、レオン様に嫌な思いはさせたくなかったから、嘘をついてしまった。
魔法が無かったら命がいくつあっても足りない状況だったのだから、お互いに生きていられることが嬉しいくて笑顔は浮かべられた。
けれど、涙が止まる気配は無い。
それなのに彼がどんな表情をしているのか気になってしまったから、顔を上げた。
「無理に笑っていることくらい分かる。今は満足するだけ泣いてくれ」
「生きていることは嬉しいのです……」
悲しい気持ちは全くないのに、どうして涙が止まらないの……?
自分のことなのに、よく分からない。
自分で顔を上げてしまったけれど、やっぱり泣き顔は見られたくないから、そっと抱きしめてくれているレオン様の胸に顔を埋めた。
それからしばらくの間、私は涙を流し続けた。
「……落ち着いたか?」
「ええ。おかげさまで」
あれからどれくらい時間が過ぎたのか分からないけれど、ようやく涙が止まったから顔を上げる。
すると、レオン様の心配そうな顔が目に入った。
なんだか申し訳なくなってしまったけれど、今は笑っていた方が良いと思ったから、微笑んでみる。
彼も同じように微笑んでから、こう口にした。
「そろそろ戻ろう。後方支援の皆に心配をかけてしまう」
「はい」
頷きながら、差し出された手をとる私。
それから、レオン様と並んで足を踏み出した。
◇
「皆、よく戦ってくれた。感謝する。
そして、我々に勝利を授けてくれた神々にも感謝を!」
そんな言葉と共に、お酒の入った瓶の蓋を開けるレオン様のお父様と私のお父様。
それに続いて、騎士さん達も蓋を開ける。
私とレオン様も同じタイミングで蓋を開ける。
これから行われるのは、勝利を祝う宴。
お酒を空へと上げることは帝国で良く行われているけれど、この大陸を守っている神様は帝国でも公国でも同じ。
だから、今回の勝利のお礼として、大量のお酒が用意された。
ちなみに、戦いの勝利を祝う時は酒樽を中心にして、綺麗な輪を何重にも描く形で並ぶらしく、勝利に多く貢献した人は中心側に立つことになっている。
そういうわけで、私もレオン様も一番中心に近い輪にいる。
「目に入らないように気を付けてね」
「ええ」
そんな言葉を交わしている間に、お父様達が酒瓶を振って、中身を空高く打ち上げた。
それに続いて、騎士さん達も酒瓶を振る。
私達も同じように振っていって、蓋を塞いでいた手を離した。
「ルシアナ様すごかったです!」
「レオン様、ルシアナ様を守って下さってありがとうございます!」
そんな声が聞こえてきて、お礼の意味で酒瓶を高く掲げる私。
騎士さん達の背丈が高いからあまり目立たないかもしれない。
そう思っていたら、レオン様に身体を持ち上げられてしまった。
「ひゃあっ……!? レオン様、一体何を!?」
突然のことに驚いて、変な声を漏らしてしまう。
幸いにも他の人の耳には入らなかったみたいだけど、少し恥ずかしくなってしまう。
「俺の肩に座ると良い。その方が目立つだろう。
率役者が目立たなかったら、バチが当たりそうだからな」
「そんな言い伝えはありませんわ!」
そう口にしながら周りを見てみると、笑顔ばかりが目に入った。
私だけの成果とは思わないけれど、みんなが笑っていられる状況を作れて良かった。
「ルシアナ様、これもどうぞ!」
「ありがとう!」
そんな風に思いながら、手渡された二本目の酒瓶を振った。
敗れた国の長が拘束されるのは普通のことだから、誰も疑問には思っていない。
けれども、第二王子は公国寄りの立場をとっているから、処刑されることは無いらしい。
お父様からは、グレールの国王を裏切ることは示し合わせていたと戦いの後に聞かされたのよね……。
私達に伝えられていなかったのは、油断させないようにするためだったそうで、最初から勝利は確信していたとのこと。
だからミスを誘わないように緊張を和らげて、犠牲者が出ないように尽力していたらしい。
そのことだけが理由では無いと思うけれど……。
今回の戦闘でアスクライ公国側に死者が出ることは無かったから、騎士さん達の張りつめた空気も無くなって、笑顔もちらほらと見られるようになっていた。
私はというと……。
「なんとかなったな」
レオン様に抱きしめられて、そんな声を聞いていた。
「ええ、危なかったですけれど、お互いに無事で良かったですわ」
彼のことを抱き返す。
その時、張りつめていた何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちたような気がした。
「本当に、レオン様が生きていて良かったです……」
「心配かけてすまなかった。だが、ああしなかったらルシアナと二度と会えなくなってしまうと思ったんだ。
そうなったら、俺は生きていけない」
「私だって、貴方に会えなくなったら……っ」
これ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。
涙がぼろぼろと溢れてしまって、声を我慢できなくなってしまうと思ったから。
「結果論になってしまうが、お互いに生きているんだ。
今はそのことを喜びたいが、だから泣きたかったら泣いていい。
落ち着いたら、無事を祝おう」
「これは嬉し泣きです……」
今の言葉は半分本当、半分嘘だ。
でも、レオン様に嫌な思いはさせたくなかったから、嘘をついてしまった。
魔法が無かったら命がいくつあっても足りない状況だったのだから、お互いに生きていられることが嬉しいくて笑顔は浮かべられた。
けれど、涙が止まる気配は無い。
それなのに彼がどんな表情をしているのか気になってしまったから、顔を上げた。
「無理に笑っていることくらい分かる。今は満足するだけ泣いてくれ」
「生きていることは嬉しいのです……」
悲しい気持ちは全くないのに、どうして涙が止まらないの……?
自分のことなのに、よく分からない。
自分で顔を上げてしまったけれど、やっぱり泣き顔は見られたくないから、そっと抱きしめてくれているレオン様の胸に顔を埋めた。
それからしばらくの間、私は涙を流し続けた。
「……落ち着いたか?」
「ええ。おかげさまで」
あれからどれくらい時間が過ぎたのか分からないけれど、ようやく涙が止まったから顔を上げる。
すると、レオン様の心配そうな顔が目に入った。
なんだか申し訳なくなってしまったけれど、今は笑っていた方が良いと思ったから、微笑んでみる。
彼も同じように微笑んでから、こう口にした。
「そろそろ戻ろう。後方支援の皆に心配をかけてしまう」
「はい」
頷きながら、差し出された手をとる私。
それから、レオン様と並んで足を踏み出した。
◇
「皆、よく戦ってくれた。感謝する。
そして、我々に勝利を授けてくれた神々にも感謝を!」
そんな言葉と共に、お酒の入った瓶の蓋を開けるレオン様のお父様と私のお父様。
それに続いて、騎士さん達も蓋を開ける。
私とレオン様も同じタイミングで蓋を開ける。
これから行われるのは、勝利を祝う宴。
お酒を空へと上げることは帝国で良く行われているけれど、この大陸を守っている神様は帝国でも公国でも同じ。
だから、今回の勝利のお礼として、大量のお酒が用意された。
ちなみに、戦いの勝利を祝う時は酒樽を中心にして、綺麗な輪を何重にも描く形で並ぶらしく、勝利に多く貢献した人は中心側に立つことになっている。
そういうわけで、私もレオン様も一番中心に近い輪にいる。
「目に入らないように気を付けてね」
「ええ」
そんな言葉を交わしている間に、お父様達が酒瓶を振って、中身を空高く打ち上げた。
それに続いて、騎士さん達も酒瓶を振る。
私達も同じように振っていって、蓋を塞いでいた手を離した。
「ルシアナ様すごかったです!」
「レオン様、ルシアナ様を守って下さってありがとうございます!」
そんな声が聞こえてきて、お礼の意味で酒瓶を高く掲げる私。
騎士さん達の背丈が高いからあまり目立たないかもしれない。
そう思っていたら、レオン様に身体を持ち上げられてしまった。
「ひゃあっ……!? レオン様、一体何を!?」
突然のことに驚いて、変な声を漏らしてしまう。
幸いにも他の人の耳には入らなかったみたいだけど、少し恥ずかしくなってしまう。
「俺の肩に座ると良い。その方が目立つだろう。
率役者が目立たなかったら、バチが当たりそうだからな」
「そんな言い伝えはありませんわ!」
そう口にしながら周りを見てみると、笑顔ばかりが目に入った。
私だけの成果とは思わないけれど、みんなが笑っていられる状況を作れて良かった。
「ルシアナ様、これもどうぞ!」
「ありがとう!」
そんな風に思いながら、手渡された二本目の酒瓶を振った。
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