断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
47 / 70

47. 勝利のお祝い

しおりを挟む
 あの後、グレールの第二王子は騎士さん達によって拘束されることになった。
 敗れた国の長が拘束されるのは普通のことだから、誰も疑問には思っていない。

 けれども、第二王子は公国寄りの立場をとっているから、処刑されることは無いらしい。
 お父様からは、グレールの国王を裏切ることは示し合わせていたと戦いの後に聞かされたのよね……。

 私達に伝えられていなかったのは、油断させないようにするためだったそうで、最初から勝利は確信していたとのこと。
 だからミスを誘わないように緊張を和らげて、犠牲者が出ないように尽力していたらしい。


 そのことだけが理由では無いと思うけれど……。
 今回の戦闘でアスクライ公国側に死者が出ることは無かったから、騎士さん達の張りつめた空気も無くなって、笑顔もちらほらと見られるようになっていた。
 
 私はというと……。

「なんとかなったな」

 レオン様に抱きしめられて、そんな声を聞いていた。

「ええ、危なかったですけれど、お互いに無事で良かったですわ」

 彼のことを抱き返す。
 その時、張りつめていた何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちたような気がした。

「本当に、レオン様が生きていて良かったです……」
「心配かけてすまなかった。だが、ああしなかったらルシアナと二度と会えなくなってしまうと思ったんだ。
 そうなったら、俺は生きていけない」
「私だって、貴方に会えなくなったら……っ」

 これ以上言葉を紡ぐことは出来なかった。
 涙がぼろぼろと溢れてしまって、声を我慢できなくなってしまうと思ったから。

「結果論になってしまうが、お互いに生きているんだ。
 今はそのことを喜びたいが、だから泣きたかったら泣いていい。
 落ち着いたら、無事を祝おう」
「これは嬉し泣きです……」

 今の言葉は半分本当、半分嘘だ。
 でも、レオン様に嫌な思いはさせたくなかったから、嘘をついてしまった。

 魔法が無かったら命がいくつあっても足りない状況だったのだから、お互いに生きていられることが嬉しいくて笑顔は浮かべられた。
 けれど、涙が止まる気配は無い。

 それなのに彼がどんな表情をしているのか気になってしまったから、顔を上げた。

「無理に笑っていることくらい分かる。今は満足するだけ泣いてくれ」
「生きていることは嬉しいのです……」

 悲しい気持ちは全くないのに、どうして涙が止まらないの……?
 自分のことなのに、よく分からない。

 自分で顔を上げてしまったけれど、やっぱり泣き顔は見られたくないから、そっと抱きしめてくれているレオン様の胸に顔を埋めた。

 それからしばらくの間、私は涙を流し続けた。



「……落ち着いたか?」
「ええ。おかげさまで」

 あれからどれくらい時間が過ぎたのか分からないけれど、ようやく涙が止まったから顔を上げる。
 すると、レオン様の心配そうな顔が目に入った。

 なんだか申し訳なくなってしまったけれど、今は笑っていた方が良いと思ったから、微笑んでみる。
 彼も同じように微笑んでから、こう口にした。

「そろそろ戻ろう。後方支援の皆に心配をかけてしまう」
「はい」

 頷きながら、差し出された手をとる私。
 それから、レオン様と並んで足を踏み出した。



    ◇



「皆、よく戦ってくれた。感謝する。
 そして、我々に勝利を授けてくれた神々にも感謝を!」

 そんな言葉と共に、お酒の入った瓶の蓋を開けるレオン様のお父様と私のお父様。

 それに続いて、騎士さん達も蓋を開ける。
 私とレオン様も同じタイミングで蓋を開ける。

 これから行われるのは、勝利を祝う宴。
 お酒を空へと上げることは帝国で良く行われているけれど、この大陸を守っている神様は帝国でも公国でも同じ。

 だから、今回の勝利のお礼として、大量のお酒が用意された。

 ちなみに、戦いの勝利を祝う時は酒樽を中心にして、綺麗な輪を何重にも描く形で並ぶらしく、勝利に多く貢献した人は中心側に立つことになっている。
 そういうわけで、私もレオン様も一番中心に近い輪にいる。

「目に入らないように気を付けてね」
「ええ」

 そんな言葉を交わしている間に、お父様達が酒瓶を振って、中身を空高く打ち上げた。
 それに続いて、騎士さん達も酒瓶を振る。

 私達も同じように振っていって、蓋を塞いでいた手を離した。

「ルシアナ様すごかったです!」
「レオン様、ルシアナ様を守って下さってありがとうございます!」

 そんな声が聞こえてきて、お礼の意味で酒瓶を高く掲げる私。
 騎士さん達の背丈が高いからあまり目立たないかもしれない。

 そう思っていたら、レオン様に身体を持ち上げられてしまった。

「ひゃあっ……!? レオン様、一体何を!?」

 突然のことに驚いて、変な声を漏らしてしまう。
 幸いにも他の人の耳には入らなかったみたいだけど、少し恥ずかしくなってしまう。

「俺の肩に座ると良い。その方が目立つだろう。
 率役者が目立たなかったら、バチが当たりそうだからな」
「そんな言い伝えはありませんわ!」

 そう口にしながら周りを見てみると、笑顔ばかりが目に入った。
 私だけの成果とは思わないけれど、みんなが笑っていられる状況を作れて良かった。

「ルシアナ様、これもどうぞ!」
「ありがとう!」

 そんな風に思いながら、手渡された二本目の酒瓶を振った。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...