断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

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46. 油断した愚王の運命

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「魔力切れになったら、どんな絶望顔を見せてくれるんだ? 楽しみだ!」

 すっかり知性が戻ったらしい化け物が、私の方に気持ちの悪い視線を送ってくる。
 でも、攻撃を止めたりはしない。

「見ろ! どんな傷でも治っていく!
 絶望しろ!」
「あーはいはい、すごいすごい」

 化け物の言葉を軽くあしらうレオン様。
 これで怒りを買ったらどうするのかしら……?

 それとも、囮になるために敢えて煽っているの?
 彼の行動を見ていると、少し不安になってしまう。

 けれども、私の心配は杞憂だったみたいで、化け物はこんなことを言い始めた。

「貴様もそう思うか! ならば負けを認めてその女を差し出せ!」
「目的はなんだ?」
「貴様らの目を見れば分かる。その女がこの群れのボスなのだとな!
 ボスを目の前で嬲り殺せば貴様らも負けを認めるだろう!」

 それからも、攻撃魔法を浴び続ける化け物の言葉に、質問を返して時間稼ぎをするレオン様。
 騎士団の人達も順番に煽っては逃げるということを繰り返している。

 そしてついに……。

「この通り、傷はすぐに塞がる! 何をしても無駄……。
 ……何故だ、何故塞がらない!?」

 最初の頃よりも、傷が治るまで時間がかかるようになっていた。
 そして、少しずつ姿が元に戻っていく。

「血は戻っても、その薬の成分は戻らなかったようだな?」
「だが薬はまだこれだけある!」

 そんなことを言って、小瓶を見せてくる化け物。
 でも、その魔薬が飲み込まれることは無かった。

「父上、そこまでです」

 誰かの剣によって、化け物の腕が切り落とされたから。

「ぐっ……。
 ……サリアス、邪魔をするな!」
「そんな攻撃当たりませんよ。魔物のような単調な攻撃くらい、僕にでも避けれます。
 ああ、魔物化する魔薬だから魔物なんでしたね」

 化け物の腕は元に戻らない。
 それに、私の攻撃魔法で出来た傷からは今も血が流れ続けている。

「禁忌の魔薬を使うような愚者は国王には相応しくない。死んでください、父上」
「親に剣を向けるとは何様のつもりだ!」
「大罪人を裁くのは王家の務め。お父様に言われたことを守っているだけです。
 まだ強がるんですか? 足元、ふらついてますよ?」

 貧血になって、真っすぐ歩くことも出来なくなったグレールの国王に剣を突き立てている人は、状況から察して第二王子のサリアス殿下ね……。
 病弱と聞いていたけれど、今は国王よりも彼の方が恐ろしく感じてしまう。

 それに、王都からここまで来た方法も見当が付かないわ。
 目を盗むことだって簡単じゃないのに……。

 それとも、初めからこうするつもりで国境を越えさせていたのかしら?

 あまり認めたくは無いけれど、私達でも声が聞こえるまで気付けていなかったから、目を盗んで入り込まれたのかもしれないわ。

「さようなら。何人殺したのか知りませんが……」
「まだ誰も死んでいない」
「嘘ですね。貴方たちの贅沢のせいでで、何人餓死したか知っていますか? 三千人ですよ?
 これで誰も殺していないとよく言えましたね?」
「それは、偶然だろう」
「言い訳は要りません。どうぞ地獄で罪を償ってください」

 そんな声が聞こえた直後、レオン様に視界を塞がれてしまった。
 直後に、今まで聞いたことの無いような叫び声が聞こえてきて、小さく跳ね上がってしまう私。

「安心してくれ。危険は何もない。
 ただ、あれは見ない方が良いだけだ」

 でも、そっと抱きしめられてからは、嫌なくらい煩かった胸の鼓動が少し落ち着いてくれた。

「一体何があったのですか?」
「国王が第二王子に首をねられた。それだけだ」
「もう瀕死のところを見ていますから、それくらいでは動じませんわ
 敵を殺す覚悟もしていましたから、大丈夫です」
「そうか。本当に良いのだな?」
「ええ」

 そう返事をすると、視界を覆っていた手が離れていった。
 すぐに第二王子の姿と、地面に捨てられた血濡れの剣が視界に入ってくる。地面に倒れる国王の姿も。

 酷い状況だけれど、不思議なことに同情の気持ちは全く湧いてこなかった。
 あの人はこうなって当然のことをしていたのだから。

 それに、レオン様やみんなに痛い思いをさせられた恨みだってある。

「決着は付いたのですね……?」
「ああ。サリアス王子に戦闘の意志も無いようだ」

 レオン様がそう説明してくれた直後、こんな声が響き渡った。

「グレールの国王はこの世を去った! たった今より、民より支持を得ているこの私、第二王子サリアス・グレールが国王となる!
 王として、貴殿らにお願いしたいことがある。我々の降伏を受け入れて欲しい」

 そんな言葉と共に、地面に手をついて深々と頭を下げる第二王子。
 予想していなかった状況に、騎士さん達から動揺が伝わってきた。

 けれども、たった一人。
 お父様だけはこのことを知っていたかのように、余裕の表情で前に出ていた。
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