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45. 力の代償

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「オオオォォォ……!」

 化け物の雄たけびで空気が震える。
 それから少し間を置いて、化け物と目が合ってしまった。

 狙われてる。
 そう思って身構えた時には、化け物の身体が視界から消えていた。

「ぐっ……」

 代わりに、レオン様の背中が視界を覆った。

 少し遅れて、衝撃と痛みが襲ってくる。
 レオン様が盾になってくれたけれど、防ぎきれなかったのね……。

 少し首をを捻ると、遠くにある地面にさっきまでは無かった大きな穴が目に入る。
 私達は空高く吹き飛ばされたらしい。

 それでも、レオン様も私も生きている。
 あの化け物の力よりも、私達の魔法が上回ったのね。

 身体はあまり痛まなかったけれど、口の中に血の味が広がっていく。
 魔道具は無事。

 だから、私は治癒魔法を使ってレオン様の傷を癒そうとした。

「ごほっ。
 肋骨が折れたかもしれない。治癒魔法を頼む……」
「もう使っていますわ。無理に喋らないで」

 ……傷が一瞬で治る訳ではないから、レオン様の表情は苦しそう。
 それでも数秒が経てば、彼の表情から苦しそうなものが消えていた。

「追撃はしてこないようだな」
「大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと痛かったが、大丈夫だ
 治癒魔法、ありがとう」
「私の方こそ、庇って下さってありがとうございます」
「約束を守っているだけだから気にするな」

 地面が近付いているから、私にも治癒魔法をかける。
 それから、風の魔法を使って地面に叩きつけられないようにしながら、ゆっくり地面に降りていく私達。

「こっちだ!」
「おーい、俺のことは良いのか? 間抜け!」
「俺を最初に倒した方が良いぞ?」
「俺に勝てないと悟って怖がってるのかな? 可愛いね?」
「ほらほら、こっちも隙だらけですよ、と」
「阿保、間抜け、おおまぬけ~」
「姿は立派でも、度胸は無いんでちゅねー?」

 下から、どう考えても化け物を煽っているような声が聞こえ来たから、皆殺しという最悪の光景が脳裏に浮かんでしまう。
 でも、化け物は攻撃に移っていなかった。

「グア? グググ……?」

 それどころか、攻撃する相手を決め損ねている様子。
 声がする方向を見ては、次の声に興味を奪われて標的を変えていく。

 でも、こちらから決め手になる攻撃は放てていない。
 そんな状況になっていた。

「なんだあれは? 煽ったら普通は逆効果なのだが……」
「でも、惑わすことには成功しているみたいですわ」
「あれは知能の低い魔物にしか通用しない技だ。仮にも人間だった相手に通用するわけが無いのだが……」

 タイミング良く囮を変えることで的を絞らせない方法は、知能が低い魔物との戦いでよく使われている。
 けれども、相手は人間だった化け物だから、知能はあるはずなのに……。

「もしかしたら、魔薬の効果で馬鹿になっているのかもしれません」
「あれは禁忌の魔薬だろう。王家でさえ、使うことが禁止されている。
 だが、今の馬鹿になっている状態なら危険を察知できないから、ルシアナが攻撃しても標的になることは無さそうだ。何かあっても俺が盾になれば問題無いだろう」
「次も耐えきれるという保証はありませんわ」
「だが、ルシアナだけでは耐えられないだろう?
 俺なら骨が折れる程度で済むから、すぐに治癒魔法をかけて貰えれば死にはしない」
「……分かりましたわ」

 彼が苦しむところなんて見たくないけれど、あの化け物と戦う方法はこれしかない。
 だから、私に頷く以外の選択は出来なかった。

「フハハハハハ! 効かぬ、効かぬぞ!」
「頭脳は戻ったようだが、今度は油断しているな」

 私達が地面に降りてから少しして、こんどは高笑いが聞こえてきた。
 さっきからずっと中級くらいの攻撃魔法の雨に晒されているというのに、化け物は全て全身で受け止めていた。

 言葉の通り、効いている気配は全く無い。

 でも、私が放った魔法が当たった時、黒い液体が噴き出すところが目に入った。

「無駄無駄無駄無駄、いくら穴が開こうと、いくら血が流れようと、全て回復するのだ!
 貴様らの魔力が尽きて絶望に染まる様子を見るのが楽しみだ! フハハハハハ!」

 私の魔法は効いていたけれど、数秒もすれば傷は塞がっていた。
 魔薬の効果は、私が試作した物でも丸一日は続いていたから、あの化け物も丸一日は無敵のような状態だと思ってしまう。

 ……このままだと私の方が魔力切れを起こしてしまうわ。

「ルシアナ、このまま攻撃を続けてくれ。勝機はある」

 そう思っていたのに、レオン様は攻撃を求めてきた。
 彼のことは信じているから頷いたけれど、狙いが分からない。

「分かりましたわ。でも、どうやって倒すのですか?」
「このまま血を抜いていけば、魔薬の成分も抜けるはずだ。続けていれば効果は消えるだろう」
 
 問いかけてみると、そんな答えが返ってきた。
 確かに、魔薬の成分は血に乗って抜けるから、攻撃していればそのうち……。

「試してみますわ」
「任せきりで済まない」
「ここは阻害魔法の範囲内ですから、仕方ないですわ」

 心配しないで欲しかったから、微笑みを向ける私。
 それから、何度も何度も攻撃魔法を使った。
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