断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
44 / 70

44. 化け物の皮

しおりを挟む
 みんなで障壁魔法の魔法陣を描いていくこと十五分。
 予定していた分を描き切って、防御陣地の上に見えない壁を作り終えた私は、魔法の起動を阻害する儀式魔法の魔法陣に取り掛かっていた。

 本当ならもっと外側まで広げたいのだけど、援軍からの支援を狙っていて、陣地の少し外側までしか許可をもらえなかった。

「ルシアナ、これで良いかな?」
「ええ、大丈夫ですわ」

 レオン様の手も借りて、必要な分の魔法陣を描いていく。
 ちなみに、儀式魔法は本来なら誰かしらが魔力を注ぎ続ける必要があるけれど、魔法陣の中心に魔石を置いて魔道具と同じ状態にすると離れていても効果を出し続けてくれる。

 だから、時間の許すだけ魔法陣を増やしているのだけど……。

「前方に敵影あり! 真っ直ぐこちらに向かっています!」

 拡声の魔法を通して声が聞こえてきたから、私達は魔法陣を描くのを止めて、作戦通りの陣地に向かった。



「防御魔法は大丈夫か?」
「ええ。レオン様も大丈夫ですか?」
「もちろんだ」

 もう魔法の起動を阻害する儀式魔法は効果があるから、事前に必要な魔法は使ってある。
 それは騎士さん達も同じで、防御魔法の魔力の流れがいくつも感じ取れる。

 でも、それ以上に。
 前の方から迫ってくる見たことのない魔力の流れを感じているから、身構えてしまう。
 まだ距離はあるけれど、このままだと三分ほどで会敵することになりそうだ。

「敵は一人だけだ。だが油断はするな!」
「はい!」

 お父様がそう声をかけると、騎士さん達が揃って返事をする。
 少し緊張した空気になっているけれど、焦りは誰も浮かべていない。

 そんな状況だから、私も少しだけ緊張を解いた。
 でも、油断は絶対に出来ない。

 戦闘の時、後衛は狙われやすいから……。



「来るぞ!」

 隣のレオン様がそう口にした直後、ドーンという大きな音が響いて、前の方で土煙が上がる。
 どうやら地面を殴りつけたらしい。

「裏切者は全員死ねェ!」

 そんな声が聞こえてきたと思ったら、もう一回大きな音が響いた。
 土煙の中、数人の騎士さんが宙を舞っている。

 私のいる場所でも地面が揺れて、空気がピリピリと震えるほどの威力。
 聖女様からの防御魔法の支援があるというのに、私達の真横に落ちた人の腕があり得ない方向に曲がっていて、身体中から血が滲んでいた。

 地面にだって、穴が開いてしまっている。



 こんなの、人が出せる力を超えているわ……。
 身体強化の魔法を使っても、こんな力は出せない。

 でも、魔力の流れを見る限りでは、三十秒に一回くらいの頻度で何かの魔法を使っているみたい。
 上手く阻害魔法の範囲内に引き寄せられれば良いのだけど、その分私の身が危険になってしまう。


 相手は素手だけれど、衝撃だけでも大怪我をしそうな威力があるもの。
 近付けたくはないわ。

「撃て!」

 合図に合わせて詠唱が始まり、一斉に火の攻撃魔法が放たれる。
 けれども、効いている様子は無かった。

 私も上級魔法で攻撃をしているけれど、手応えは感じられない。

「倒せそうか?」
「防御魔法が強力すぎるので、摩道具だけでは無理そうですわ。詠唱の時間があればもっと強い魔法を使えるのですけど……」

 そこまで言って、他の方法を思い付いた。

 どう見ても、敵は攻撃魔法に合わせて、一番効果が高くなる防御魔法を凄まじい速さで使っている。
 だから、同時に二つ以上の魔法で攻撃したら、片方は通る気がする。

 味方の魔法を相殺しないように、詠唱のタイミングで三つの上級魔法を放つ私。
 当然のように、一つは防御魔法で防がれてしまう。

 けれども光の魔法が身体を貫いて、火の魔法が容赦なく吹き飛ばしていた。
 でも、まだ足りないように見える。

 もう一度、属性を変えて攻撃魔法を浴びせる。
 今度も一つは防がれてしまったけれど、風の魔法と氷の魔法は効果を見せていた。

「効いているようだな」
「そうみたいです」

 風魔法で破れた服の下には、さっきの光魔法が貫いていった傷が見える。
 このまま攻撃を続ければ、勝てるかもしれない。

 そう思ったのが良くなかったのかしら……。

「傷が治ってるだと……」
「そんな……」

 ついさっきまで血を流していた傷は綺麗に無くなっていた。

「治癒魔法は使えないはずだ。どうなっている……」
「分かりませんけど、魔力は余裕があるので攻撃を続けますわ」
「頼む。俺は回復している原因を探る」

 そんなことを話しながら、攻撃魔法を放ち続ける。

 そんな時、敵の国王が何かを飲み込むのが見えた。

「グアアアア」
「なんだ……?」
「嫌な予感がしますわ」

 様子を見るために、視界を遮らない魔法で攻撃を続ける。

 そのお陰で、国王の身体が倍以上に大きくなって、肌が黒い鱗で覆われるところが見えた。

「何よこれ……」
「まさか……王家には代々、魔薬が伝わっているという噂があったのだが、事実だったか」

 そんな呟きをする私達の目の前には、魔物によく似ている化け物がいた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...