上 下
42 / 70

42. 作戦会議です

しおりを挟む
「これから作戦会議を行う。防衛対象はここアルカシエルの街だ。
 防衛戦は騎士団と我々公家の者、聖女様とで戦うつもりだが、異論はあるか? あれば手を挙げてくれ」

 通信の摩道具からの声が途切れた直後、ざわめく中でお父様の声が響いた。
 この場にいる人達は強者ばかりで、私のように震える人は一人もいなかった。それどころか、戦いを楽しもうとしている人ばかり。

 相手は化け物のよう強さなのだけど、この人たちは相手が強ければ強いほど楽しくなってしまうのだと、この場にいる騎士さんから教えてもらった。

「聖女様を前線に出されるのですか?」
「いや、聖女様は後方支援になる」
「分かりました」

 今の時点で手を挙げている人は三人。
 お父様は順番に指名して、意見を聞いている。

「次は君から聞こう」
「公家ということは、ルシアナ様やセリーナ様も参戦されるのですか?」
「もちろんだ。今回は相手が相手だ。中途半端な戦力で戦えば負けるだろう。
 そうなればルシアナ達がどんな目に遭うかは分からないから、多少の危険を冒してでも勝利を掴んだ方が良いという判断だ」

 そう説明するお父様。
 けれども、この質問をした人は納得しなかったようで、こんな言葉を続けていた。

「そうですか……。ですが、ルシアナ様やセリーナ様が戦えるとは思えません」
「セリーナは後方支援しか出来ないが、ルシアナは前線でも戦える。君と剣を交えたら、ルシアナが勝つだろう」
「いくらアストライア家の血を引いていても、ルシアナ様にそんな力があるとは思えません」
「ならば試してみるか?」

 そんなことを口にするお父様。
 でも、お父様から護身術と称して剣技も教えられていたけれど、お兄様にもお父様にも一度も勝てなかった。

 そんな私が騎士さんと剣を交えて勝てるとは思えないのに……。

「是非お願いします」
「ルシアナも良いかな?」
「構いませんけど、ご期待に添えるかは分かりませんわ」
「それでも良い」

 ……どういうわけか、騎士さんと模擬戦をすることになった。
 この作戦室は広いから、そのまま木剣を持って騎士さんと向かい合う。

 合図を出すのは他の騎士さんで、私達が模擬戦をしている間にもお父様は意見を集めていた。
 少し気になるけれど、今は模擬戦の最中だから、対戦相手を観察する。

 そして……。

「では、始め!」

 合図が出された直後、相手の騎士さんが足を踏み込んできた。
 でも、これは演技ね……。身体の重心が移動していない。

 けれども、次の動きは見えたから、タイミングを合わせて横に避けた。
 すぐに真横に突き出された剣私目掛けて迫ってくるけれど、勢いが無いから騎士さんの剣先を私の剣の真ん中辺りで受けながす。

 そうして出来た隙を逃さずに剣を振るう私。
 普段ならこの攻撃は防がれるのだけど……。

「嘘だろ……」
「ルシアナ様、本当に戦えたのか……」

 ……今回は防がれずに、剣先が騎士さんの身体を捉えていた。

「満足していただけましたか?」
「ええ。流石はアストライア家のお方だ。隙が無い。
 お手合わせして頂きありがとうございました」

 騎士の礼をされたから、同じように礼を返す。
 それからレオン様の隣に戻ってお父様の方を見ると、黒板には描かれた布陣の内容が目に入った。

「ここに書いた通り、王都方面を重点的に防衛する。
 街に入られないように、魔導士隊は障壁魔法の魔法陣の準備を頼む」
「はっ」
「ルシアナ、負担をかけてしまうが、魔導士隊に手を貸してほしい」
「分かりましたわ。ついでに罠も仕掛けておきますわ」

 この街を覆えるくらいの儀式魔法なら、魔導士隊の手助けが無くても一時間あれば用意できる。
 だから、戦闘に備えて罠も仕掛けようと思っている。

 グレールの歴代国王は揃って身体能力が高いけれど、防衛陣地を軽く飛び越えられるほどの力は出せないはず。
 厄介だけれど、相手も魔法を使っていることは確実だ。

 でも、魔法が相手なら対策もあるのよね……。

「魔法の発動を封じる罠を使おうと思いますわ」
「ルシアナ、正気か? 魔法使いが魔法を封じてどうする?」
「先に発動させておけば問題ありませんわ。あくまでも発動を封じるだけですもの。
 魔道具は最初から発動状態ですから、問題なく使えますわ」

 私が剣術や護身術を教えられてきた理由は、人攫いがよく使う魔封じに対抗するため。
 戦争では魔法がお互いの武器だから魔封じが使われることは殆ど無いのだけど、戦力差を考えたら私達の方から使っても問題無いはずなのよね。

 だからお父様に提案してみたのだけど、驚かれてしまった。

「言いたいことはよく分かった。しかし聖女様の魔法を封じる訳にはいかないから、範囲は防衛線の外側だけに限定するように。
 それと、万が一のために治癒の魔法薬も用意する」

 そう口にするお父様。

 治癒の魔法薬とは、薬草と魔石を混ぜて作り出したもので、成分が血に溶けまないと効果が出ないもの。
 飲み込んだ直後から効果は出るけれど、理性を失うという欠点があるから、治癒魔法のように大切にはされていない。

 ちなみにこの魔法薬は、古代の資料から見つけ出して試作したけれど、副作用が危険すぎてお父様に没収されたのよね……。
 でも、保管されていたらしい。

「分かりましたわ」

 その時のことを思い出してしまったから、曖昧な表情のまま返事をしてからレオン様と作戦室を出る私。

 この後は魔導士部隊に合流して、防衛のための儀式魔法の構築に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

転生令嬢シルヴィアはシナリオを知らない

恋愛
片想い相手を卑怯な手段で同僚に奪われた、その日に転生していたらしい。――幼いある日、令嬢シルヴィア・ブランシャールは前世の傷心を思い出す。もともと営業職で男勝りな性格だったこともあり、シルヴィアは「ブランシャール家の奇娘」などと悪名を轟かせつつ、恋をしないで生きてきた。 そんなある日、王子の婚約者の座をシルヴィアと争ったアントワネットが相談にやってきた……「私、この世界では婚約破棄されて悪役令嬢として破滅を迎える危機にあるの」。さらに話を聞くと、アントワネットは前世の恋敵だと判明。 そんなアントワネットは破滅エンドを回避するため周囲も驚くほど心優しい令嬢になった――が、彼女の“推し”の隣国王子の出現を機に、その様子に変化が現れる。二世に渡る恋愛バトル勃発。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」  こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!  そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。  うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」  これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!  18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。 小説家になろうにも掲載しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...