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42. 作戦会議です
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「これから作戦会議を行う。防衛対象はここアルカシエルの街だ。
防衛戦は騎士団と我々公家の者、聖女様とで戦うつもりだが、異論はあるか? あれば手を挙げてくれ」
通信の摩道具からの声が途切れた直後、ざわめく中でお父様の声が響いた。
この場にいる人達は強者ばかりで、私のように震える人は一人もいなかった。それどころか、戦いを楽しもうとしている人ばかり。
相手は化け物のよう強さなのだけど、この人たちは相手が強ければ強いほど楽しくなってしまうのだと、この場にいる騎士さんから教えてもらった。
「聖女様を前線に出されるのですか?」
「いや、聖女様は後方支援になる」
「分かりました」
今の時点で手を挙げている人は三人。
お父様は順番に指名して、意見を聞いている。
「次は君から聞こう」
「公家ということは、ルシアナ様やセリーナ様も参戦されるのですか?」
「もちろんだ。今回は相手が相手だ。中途半端な戦力で戦えば負けるだろう。
そうなればルシアナ達がどんな目に遭うかは分からないから、多少の危険を冒してでも勝利を掴んだ方が良いという判断だ」
そう説明するお父様。
けれども、この質問をした人は納得しなかったようで、こんな言葉を続けていた。
「そうですか……。ですが、ルシアナ様やセリーナ様が戦えるとは思えません」
「セリーナは後方支援しか出来ないが、ルシアナは前線でも戦える。君と剣を交えたら、ルシアナが勝つだろう」
「いくらアストライア家の血を引いていても、ルシアナ様にそんな力があるとは思えません」
「ならば試してみるか?」
そんなことを口にするお父様。
でも、お父様から護身術と称して剣技も教えられていたけれど、お兄様にもお父様にも一度も勝てなかった。
そんな私が騎士さんと剣を交えて勝てるとは思えないのに……。
「是非お願いします」
「ルシアナも良いかな?」
「構いませんけど、ご期待に添えるかは分かりませんわ」
「それでも良い」
……どういうわけか、騎士さんと模擬戦をすることになった。
この作戦室は広いから、そのまま木剣を持って騎士さんと向かい合う。
合図を出すのは他の騎士さんで、私達が模擬戦をしている間にもお父様は意見を集めていた。
少し気になるけれど、今は模擬戦の最中だから、対戦相手を観察する。
そして……。
「では、始め!」
合図が出された直後、相手の騎士さんが足を踏み込んできた。
でも、これは演技ね……。身体の重心が移動していない。
けれども、次の動きは見えたから、タイミングを合わせて横に避けた。
すぐに真横に突き出された剣私目掛けて迫ってくるけれど、勢いが無いから騎士さんの剣先を私の剣の真ん中辺りで受けながす。
そうして出来た隙を逃さずに剣を振るう私。
普段ならこの攻撃は防がれるのだけど……。
「嘘だろ……」
「ルシアナ様、本当に戦えたのか……」
……今回は防がれずに、剣先が騎士さんの身体を捉えていた。
「満足していただけましたか?」
「ええ。流石はアストライア家のお方だ。隙が無い。
お手合わせして頂きありがとうございました」
騎士の礼をされたから、同じように礼を返す。
それからレオン様の隣に戻ってお父様の方を見ると、黒板には描かれた布陣の内容が目に入った。
「ここに書いた通り、王都方面を重点的に防衛する。
街に入られないように、魔導士隊は障壁魔法の魔法陣の準備を頼む」
「はっ」
「ルシアナ、負担をかけてしまうが、魔導士隊に手を貸してほしい」
「分かりましたわ。ついでに罠も仕掛けておきますわ」
この街を覆えるくらいの儀式魔法なら、魔導士隊の手助けが無くても一時間あれば用意できる。
だから、戦闘に備えて罠も仕掛けようと思っている。
グレールの歴代国王は揃って身体能力が高いけれど、防衛陣地を軽く飛び越えられるほどの力は出せないはず。
厄介だけれど、相手も魔法を使っていることは確実だ。
でも、魔法が相手なら対策もあるのよね……。
「魔法の発動を封じる罠を使おうと思いますわ」
「ルシアナ、正気か? 魔法使いが魔法を封じてどうする?」
「先に発動させておけば問題ありませんわ。あくまでも発動を封じるだけですもの。
魔道具は最初から発動状態ですから、問題なく使えますわ」
私が剣術や護身術を教えられてきた理由は、人攫いがよく使う魔封じに対抗するため。
戦争では魔法がお互いの武器だから魔封じが使われることは殆ど無いのだけど、戦力差を考えたら私達の方から使っても問題無いはずなのよね。
だからお父様に提案してみたのだけど、驚かれてしまった。
「言いたいことはよく分かった。しかし聖女様の魔法を封じる訳にはいかないから、範囲は防衛線の外側だけに限定するように。
それと、万が一のために治癒の魔法薬も用意する」
そう口にするお父様。
治癒の魔法薬とは、薬草と魔石を混ぜて作り出したもので、成分が血に溶けまないと効果が出ないもの。
飲み込んだ直後から効果は出るけれど、理性を失うという欠点があるから、治癒魔法のように大切にはされていない。
ちなみにこの魔法薬は、古代の資料から見つけ出して試作したけれど、副作用が危険すぎてお父様に没収されたのよね……。
でも、保管されていたらしい。
「分かりましたわ」
その時のことを思い出してしまったから、曖昧な表情のまま返事をしてからレオン様と作戦室を出る私。
この後は魔導士部隊に合流して、防衛のための儀式魔法の構築に取り掛かった。
防衛戦は騎士団と我々公家の者、聖女様とで戦うつもりだが、異論はあるか? あれば手を挙げてくれ」
通信の摩道具からの声が途切れた直後、ざわめく中でお父様の声が響いた。
この場にいる人達は強者ばかりで、私のように震える人は一人もいなかった。それどころか、戦いを楽しもうとしている人ばかり。
相手は化け物のよう強さなのだけど、この人たちは相手が強ければ強いほど楽しくなってしまうのだと、この場にいる騎士さんから教えてもらった。
「聖女様を前線に出されるのですか?」
「いや、聖女様は後方支援になる」
「分かりました」
今の時点で手を挙げている人は三人。
お父様は順番に指名して、意見を聞いている。
「次は君から聞こう」
「公家ということは、ルシアナ様やセリーナ様も参戦されるのですか?」
「もちろんだ。今回は相手が相手だ。中途半端な戦力で戦えば負けるだろう。
そうなればルシアナ達がどんな目に遭うかは分からないから、多少の危険を冒してでも勝利を掴んだ方が良いという判断だ」
そう説明するお父様。
けれども、この質問をした人は納得しなかったようで、こんな言葉を続けていた。
「そうですか……。ですが、ルシアナ様やセリーナ様が戦えるとは思えません」
「セリーナは後方支援しか出来ないが、ルシアナは前線でも戦える。君と剣を交えたら、ルシアナが勝つだろう」
「いくらアストライア家の血を引いていても、ルシアナ様にそんな力があるとは思えません」
「ならば試してみるか?」
そんなことを口にするお父様。
でも、お父様から護身術と称して剣技も教えられていたけれど、お兄様にもお父様にも一度も勝てなかった。
そんな私が騎士さんと剣を交えて勝てるとは思えないのに……。
「是非お願いします」
「ルシアナも良いかな?」
「構いませんけど、ご期待に添えるかは分かりませんわ」
「それでも良い」
……どういうわけか、騎士さんと模擬戦をすることになった。
この作戦室は広いから、そのまま木剣を持って騎士さんと向かい合う。
合図を出すのは他の騎士さんで、私達が模擬戦をしている間にもお父様は意見を集めていた。
少し気になるけれど、今は模擬戦の最中だから、対戦相手を観察する。
そして……。
「では、始め!」
合図が出された直後、相手の騎士さんが足を踏み込んできた。
でも、これは演技ね……。身体の重心が移動していない。
けれども、次の動きは見えたから、タイミングを合わせて横に避けた。
すぐに真横に突き出された剣私目掛けて迫ってくるけれど、勢いが無いから騎士さんの剣先を私の剣の真ん中辺りで受けながす。
そうして出来た隙を逃さずに剣を振るう私。
普段ならこの攻撃は防がれるのだけど……。
「嘘だろ……」
「ルシアナ様、本当に戦えたのか……」
……今回は防がれずに、剣先が騎士さんの身体を捉えていた。
「満足していただけましたか?」
「ええ。流石はアストライア家のお方だ。隙が無い。
お手合わせして頂きありがとうございました」
騎士の礼をされたから、同じように礼を返す。
それからレオン様の隣に戻ってお父様の方を見ると、黒板には描かれた布陣の内容が目に入った。
「ここに書いた通り、王都方面を重点的に防衛する。
街に入られないように、魔導士隊は障壁魔法の魔法陣の準備を頼む」
「はっ」
「ルシアナ、負担をかけてしまうが、魔導士隊に手を貸してほしい」
「分かりましたわ。ついでに罠も仕掛けておきますわ」
この街を覆えるくらいの儀式魔法なら、魔導士隊の手助けが無くても一時間あれば用意できる。
だから、戦闘に備えて罠も仕掛けようと思っている。
グレールの歴代国王は揃って身体能力が高いけれど、防衛陣地を軽く飛び越えられるほどの力は出せないはず。
厄介だけれど、相手も魔法を使っていることは確実だ。
でも、魔法が相手なら対策もあるのよね……。
「魔法の発動を封じる罠を使おうと思いますわ」
「ルシアナ、正気か? 魔法使いが魔法を封じてどうする?」
「先に発動させておけば問題ありませんわ。あくまでも発動を封じるだけですもの。
魔道具は最初から発動状態ですから、問題なく使えますわ」
私が剣術や護身術を教えられてきた理由は、人攫いがよく使う魔封じに対抗するため。
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だからお父様に提案してみたのだけど、驚かれてしまった。
「言いたいことはよく分かった。しかし聖女様の魔法を封じる訳にはいかないから、範囲は防衛線の外側だけに限定するように。
それと、万が一のために治癒の魔法薬も用意する」
そう口にするお父様。
治癒の魔法薬とは、薬草と魔石を混ぜて作り出したもので、成分が血に溶けまないと効果が出ないもの。
飲み込んだ直後から効果は出るけれど、理性を失うという欠点があるから、治癒魔法のように大切にはされていない。
ちなみにこの魔法薬は、古代の資料から見つけ出して試作したけれど、副作用が危険すぎてお父様に没収されたのよね……。
でも、保管されていたらしい。
「分かりましたわ」
その時のことを思い出してしまったから、曖昧な表情のまま返事をしてからレオン様と作戦室を出る私。
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