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38. 魔道具の力でも
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あれからしばらくして、午後三時を告げる鐘の音が響く。
それから少しだけ遅れて、私は作業の手を止めた。
「これで試作品は完成かな?」
「ええ。しっかり動いてくれると良いのですけど……」
レオン様の言葉にそう返す私。
実際に試してみて、狙い通りの効果が得られたら試作品は完成する。
でも、今は怪我人なんて居ないのよね……。
こうなったら、もう私を実験台にするしか無いわ!
浅い怪我でも狙い通りの効果があるのか分かるから、私は護身用のナイフを取り出した。
「まさかと思うが……」
「少しだけだから問題ありませんわ」
そう口にしたけれど、指にナイフを当てるよりも早く、レオン様に腕を抑えられてしまった。
「問題しなない。ルシアナが痛い思いをするくらいなら、俺が実験台になろう。
ちょうど良い傷跡もあるから、実験台に相応しいだろう?」
そんなことを言いながら、腕にある傷跡を見せてくるレオン様。
前に見た時はこんな傷跡無かったのに、一体何があったのかしら……?
「その傷、いつ出来たのですか?」
心配になって問いかけると、こんな答えが返ってきた。
「先週、父上と鍛錬している時に受け流し損ねてね。
良い感じに切れてしまったんだ。上級の治癒魔法なら傷跡も消せるのだろう?」
「私が言いたいのは、そういうことではありませんの」
「分かっている。だが、ルシアナに痛い思いをさせたくない」
レオン様は一歩も引く気配が無い。
でも、私の腕を抑える力はそれほど強くないから、抜け出そうと思えば抜け出せそう。
でも、レオン様の申し出を断る気にはなれなかったから。
「分かりましたわ。実験台の役目、お願いしても良いでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
私の腕を抑えていた手が離れていったから、ナイフを仕舞う。
同じタイミングで、レオン様はペーパーナイフとハンカチを取り出して、隠しながらナイフを突き立てていた。
ハンカチで傷が隠れているから、血が流れるところも見えていない。
でも、レオン様が治癒の魔道具のボタンを押し込むと、淡く白い光が彼の身体を包み込んだ。
綺麗な光景に目を奪われて、何も言えなくなってしまう私。
レオン様は治癒魔法の効果を確かめているみたいで、腕を動かしたりしていた。
それから数秒。
「これはすごいな……。傷以外の不調も全部治ったみたいだ」
傷跡も綺麗に治った彼は、体を動かしながらそんなことを口にしていた。
「成功ですわ」
「こんなに効果があるものだとは思わなかった。ありがとう。
後で聖女様にもお礼を言わないといけないな」
そんな会話をしながら、聖女様の部屋に向かう私達。
これから量産するのだけど、その前に聖女様にも確認してもらう約束になっているから、魔道具も持っている。
ちなみに、今の私は身体能力強化の魔道具を使っているから、重い治癒魔法の魔道具でも持ち上げられる。
「重くないのか?」
「魔法を使っているので大丈夫ですわ」
「そうか。辛くなったらいつでも言ってくれ」
「その時は頼りますね」
そんなことを口にする私。
それからすぐに聖女様のいる部屋の前に着いたから、扉をノックしてから中に入った。
☆
あの後、無事に魔道具の合格をもらえたから量産に移ることになった。
でも、工房に居るのは私とレオン様だけではない。
レオン様やレイニ達、それに聖女様の姿もある。
手伝いをお願いしてはいないのに、みんな手伝うと言ってくれたから。
レイニもレティシアも、治癒魔法の心得があるからすごく心強い。
レオン様はというと、効率の良い作り方を考え出してくれたから、私が予想していたよりも沢山の魔道具を完成させることが出来ている。
効率以外にも、レオン様はどの作業を任せても、私以外の誰よりも早くこなしているのよね……。
経験の差があるから私の方がまだ早いけれど、半年もあれば抜かれてしまいそう。
そんな危機感を抱く程、レオン様の動きは素晴らしいものだった。
「これで三十個だな。ルシアナ、残りの魔力は大丈夫そうか?」
「ええ」
みんなのお陰で、魔道具は三十個も完成させることが出来た。
でも、魔導具をすぐに使える状態にするために、私が中心になって魔力を込めているのよね……。
私の魔力量は多い方なのだけど、何かあった時の分は残しておきたい。
だから、こんな言葉を付け加えた。
「……まだ十個分は大丈夫そうですわ」
「分かった。それなら、今日はあと五個で終わりにしよう」
レオン様がそう口にした直後のこと。
工房の扉がノックされた。
「何かあったのかしら……?
様子を見てきますわ」
一声かけてから扉を開けに向かう。
悪い知らせでは無いと良いのだけど……。
そんなことを思っていたのに。
「報告いたします! グレールの王都方面から攻撃が始まった模様です!
既に怪我人も出ているものと思われます!」
……扉を開けてから告げられたのは、そんな知らせだった。
それから少しだけ遅れて、私は作業の手を止めた。
「これで試作品は完成かな?」
「ええ。しっかり動いてくれると良いのですけど……」
レオン様の言葉にそう返す私。
実際に試してみて、狙い通りの効果が得られたら試作品は完成する。
でも、今は怪我人なんて居ないのよね……。
こうなったら、もう私を実験台にするしか無いわ!
浅い怪我でも狙い通りの効果があるのか分かるから、私は護身用のナイフを取り出した。
「まさかと思うが……」
「少しだけだから問題ありませんわ」
そう口にしたけれど、指にナイフを当てるよりも早く、レオン様に腕を抑えられてしまった。
「問題しなない。ルシアナが痛い思いをするくらいなら、俺が実験台になろう。
ちょうど良い傷跡もあるから、実験台に相応しいだろう?」
そんなことを言いながら、腕にある傷跡を見せてくるレオン様。
前に見た時はこんな傷跡無かったのに、一体何があったのかしら……?
「その傷、いつ出来たのですか?」
心配になって問いかけると、こんな答えが返ってきた。
「先週、父上と鍛錬している時に受け流し損ねてね。
良い感じに切れてしまったんだ。上級の治癒魔法なら傷跡も消せるのだろう?」
「私が言いたいのは、そういうことではありませんの」
「分かっている。だが、ルシアナに痛い思いをさせたくない」
レオン様は一歩も引く気配が無い。
でも、私の腕を抑える力はそれほど強くないから、抜け出そうと思えば抜け出せそう。
でも、レオン様の申し出を断る気にはなれなかったから。
「分かりましたわ。実験台の役目、お願いしても良いでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
私の腕を抑えていた手が離れていったから、ナイフを仕舞う。
同じタイミングで、レオン様はペーパーナイフとハンカチを取り出して、隠しながらナイフを突き立てていた。
ハンカチで傷が隠れているから、血が流れるところも見えていない。
でも、レオン様が治癒の魔道具のボタンを押し込むと、淡く白い光が彼の身体を包み込んだ。
綺麗な光景に目を奪われて、何も言えなくなってしまう私。
レオン様は治癒魔法の効果を確かめているみたいで、腕を動かしたりしていた。
それから数秒。
「これはすごいな……。傷以外の不調も全部治ったみたいだ」
傷跡も綺麗に治った彼は、体を動かしながらそんなことを口にしていた。
「成功ですわ」
「こんなに効果があるものだとは思わなかった。ありがとう。
後で聖女様にもお礼を言わないといけないな」
そんな会話をしながら、聖女様の部屋に向かう私達。
これから量産するのだけど、その前に聖女様にも確認してもらう約束になっているから、魔道具も持っている。
ちなみに、今の私は身体能力強化の魔道具を使っているから、重い治癒魔法の魔道具でも持ち上げられる。
「重くないのか?」
「魔法を使っているので大丈夫ですわ」
「そうか。辛くなったらいつでも言ってくれ」
「その時は頼りますね」
そんなことを口にする私。
それからすぐに聖女様のいる部屋の前に着いたから、扉をノックしてから中に入った。
☆
あの後、無事に魔道具の合格をもらえたから量産に移ることになった。
でも、工房に居るのは私とレオン様だけではない。
レオン様やレイニ達、それに聖女様の姿もある。
手伝いをお願いしてはいないのに、みんな手伝うと言ってくれたから。
レイニもレティシアも、治癒魔法の心得があるからすごく心強い。
レオン様はというと、効率の良い作り方を考え出してくれたから、私が予想していたよりも沢山の魔道具を完成させることが出来ている。
効率以外にも、レオン様はどの作業を任せても、私以外の誰よりも早くこなしているのよね……。
経験の差があるから私の方がまだ早いけれど、半年もあれば抜かれてしまいそう。
そんな危機感を抱く程、レオン様の動きは素晴らしいものだった。
「これで三十個だな。ルシアナ、残りの魔力は大丈夫そうか?」
「ええ」
みんなのお陰で、魔道具は三十個も完成させることが出来た。
でも、魔導具をすぐに使える状態にするために、私が中心になって魔力を込めているのよね……。
私の魔力量は多い方なのだけど、何かあった時の分は残しておきたい。
だから、こんな言葉を付け加えた。
「……まだ十個分は大丈夫そうですわ」
「分かった。それなら、今日はあと五個で終わりにしよう」
レオン様がそう口にした直後のこと。
工房の扉がノックされた。
「何かあったのかしら……?
様子を見てきますわ」
一声かけてから扉を開けに向かう。
悪い知らせでは無いと良いのだけど……。
そんなことを思っていたのに。
「報告いたします! グレールの王都方面から攻撃が始まった模様です!
既に怪我人も出ているものと思われます!」
……扉を開けてから告げられたのは、そんな知らせだった。
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