断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
37 / 70

37. 聖女の人気

しおりを挟む
 あれから少しして、私達の来訪を知ったお父様がこの部屋に来ていた。

「念のために確認するが、聖女様の存在は他言していないな?」
「ええ、もちろんですわ」

 お父様からの問いかけに頷く私。
 聖女様が来ていることを他言してはいけないということは、状況を考えれば分かること。

 本来なら警護対象になるのだから、通信の魔道具を通して連絡があってもおかしくない。
 それをしなかったのは、情報を隠しておきたかったからに違いない。

 でも……連絡無しにここに来た私達が簡単に聖女様に会えてしまったことは不思議なのよね……。

「魔力を探る魔法で居場所は分かりますのに、どうして聖女様の所在を明かさないのですか?」
「民がここに群がらないようにするためだ。
 だから、秘密を守れる使用人や騎士達にも教えているが、出入りの商人には教えていない。
 通信の魔道具で教えることも考えたが、ルシアナがずっと商会に居ると思って避けていたのだ」

 疑問を解決しようと思って問いかけると、お父様はそんな風に説明してくれた。

 確かに私は商会に入り浸っていたし、周りには聖女様に会いたいと発言していた人もいる。
 秘密を広めたりする人達では無いけれど、万が一にも取引先の商人に聞かれていたら……。

 王国と違って権力を振りかざしていないアスクライ公国なら、この周りに聖女様を一目見ようという人達が集まってもおかしくない。
 私の行動を完全に読まれていたことは悔しかったけれど、流石はお父様だと思った。

「そういうことでしたのね」
「納得してくれたかな?」
「ええ」

 頷いて、錬金術のための魔法陣を描く作業に戻る私。

 お父様は、レオン様と防衛について話し合いを始めていた。
 そんな時。

「描き終わりましたわ。上級の治癒魔法になってしまうけれど、瀕死になっても必ず治せるものよ」

 聖女様の声が聞こえてきた。

 後ろを見てみると、すごく大きな魔法陣が床に描かれている。
 ちなみに、魔法陣は金属を使わないと描けないから、床に描く時は水銀を使っているのだけど、絨毯の上に描くことは出来ない。

 だから、聖女様は絨毯を剥がしてから描いたみたい。
 でも、そんなことよりも。

「大きいですわね……」

 魔法陣の大きさに驚いて、ついそんな言葉を漏らしてしまった。

 見やすいように敢えて大きく描かれているみたいだけど、どんなに小さくしても直径がレオン様の背丈の倍くらいになってしまう。
 だから、魔法陣を九つに分けることにした。


 中級以上の魔法の魔法陣は、いくつかに分割して重ね合わせることで一つの魔法陣として機能する。
 中心に細長い魔石を通してから、魔法陣を魔道鉄で繋ぎ合わせる必要があるから手間はかかってしまう。

 でも、今から作る魔道具を使う場所は戦場。
 簡単に怪我人の近くに運べなかったら、意味が無いのよね……。

「魔道具に出来ないですか……?」
「いえ、出来ますわ。ただ、このままでは使えないので、分けて使いますわ」

 錬金術の魔法陣を描いていき、完成したら魔法を発動させて金属の板を二十七枚作り出した。

「俺に手伝えることはあるか?」
「これを一階にある工房までお願いしますわ。案内しますね」

 軽々しく十八枚の板を持ち上げたレオン様よりも先に部屋を出て、工房まで歩いていく。
 あの板は私一人だと持ち上げられなかったのだけど、レオン様は身体強化の魔法を使わなくても持ち上げられるらしい。

 彼の腕はそれほど太くはないのだけど、本当にどこからあんな力が出てくるのかしら……?
 それほど太くないとは言っても、騎士団の中でのお話で、私と比べたら一目で分かるくらいの差がある。

 私にももう少し力があれば、出来ることが増えるのに……。
 そんなことを考えながら歩くこと十数秒。

 工房の前に着いた私は、鍵穴に魔力を通してから鍵を開けた。
 この鍵穴は魔道具になっていて、私が魔力を通すと開けられる。普通の鍵でも開けられるけれど、鍵を持ち歩く手間が無くせるから見た目の地味さに反してかなり便利なもの。

 中を見てみると、この一週間ほどで少し埃が溜まっていたけれど、それ以外は綺麗な状態だった。
 貴重な道具はここに残っていないけれど、念の為にと馬車に載せてあったから問題にはならない。

 でも、ここに運ぶ必要があるから、レオン様の手を借りながら準備を進めていく。

「これはここに置けばいいかな?」
「ええ、お願いしますわ」
「これは……ここだな」

 どういうわけか、レオン様は私の思い描いている配置通りに置いてくれているのだけど……。
 彼には私の頭の中が丸見えなのかしら?

 もしそうなら、少し恥ずかしい。

 でも、他人の考えていることを見る魔法は存在しないから、杞憂よね……。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...