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33. 魔力の移動
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翌朝。
アルカンシェル商会の制服を着た私は、庭に出て馬車製作に参加している。
人手は足りていたはずなのだけど、馬車を持ち上げる魔道具を朝のうちにもう一つ作ったら、一人分足りなくなってしまったのよね……。
でも、作る速さは今までの四倍以上になったのだから、この道具の効果は凄まじい。
ちなみに、レオン様は皇帝陛下に呼び出されているから、朝食を終えたらすぐに屋敷に行ってしまった。
でも、今日はやることが山のようにあるから寂しさを感じる余裕は無いのよね。
「よし、西おろせー!」
「西おろすぞー!」
そんな掛け声が少し離れたところから聞こえてくる。
二つあるとどちらに向けた指示なのか分かりにくいから、必ず方角を付けることに決めているから、今のところミスは起きていない。
ちなみに私は東側で魔道具を動かしている。
でも、みんなとは違って魔力を飛ばして直接動かしているから、組み立てにも手を出している。
「商会長、本当にどうやって魔道具を動かしているんですか?」
「魔法を使う要領で魔力を飛ばすのよ。あの白い箱の中に魔法陣が入っているから、そこに当てれば動くわ」
「いや、ちょっと言っている意味が分からないです。魔力って飛ばせるんですか?」
せっかく説明したのに、そんな言葉が返ってきた。
もしかして、私がおかしいのかしら……?
悪い意味ではないのだけど、少し悲しくなってしまうわ。
「ええ、飛ばせるわ。これが何よりの証拠よ。
東降ろすわよ?」
「はい!」
実際に魔道具を動かして見せる私。
私のいる東側はみんな慣れてしまっているから驚かれないけれど、西側の人達は休憩中にチラチラとこちらを見てきている。
「こんな感じよ」
「なるほど。確かに魔力の気配はしました」
納得してもらえたから、そのまま作業に戻る。
そんなとき、お昼から働く予定の人達が入ってきたから、私達は休憩することになった。
どこかの国の王宮で働く人達は利益と王族の満足を優先していて休憩を貰えないみたいだけど、私は利益よりもみんなの身体の方が大事だと思っているから、適度に休憩を挟めるようにしている。
でも、今みたいに急に人手が必要になった時以外は、人手不足に悩まされたことは無いのよね……。
他所の商会では休憩を取らせられないほど人手不足のところもあるらしい。
「休憩いただくわね」
「お疲れ様です!」
簡単な挨拶を交わして本部の中に戻る私。
そんな時、アストライア家の馬車が前に止まっているのが目に入った。
レオン様が戻ってきたのかしら……?
そう思ってアストライア家の人の姿を探すと、来客受付のところに良く知った人物を見つけた。
「レイニ……?」
「ルシアナ様……ちょうど良かったです。旦那様がお呼びですわ」
そう口にする空色の髪の侍女――レイニは私が十歳の頃に出会った四歳年下の子。専属ではないけれど、よくお話をしている。
出会ったきっかけは、領地にある孤児院を訪れていた時のこと。
あの日。
私はレイニと彼女の妹のレティシアが虐められているところを目撃してしまった。
虐めの理由はレティシアから聞いたことがある。
孤児院をよく訪問していた聖女様に気に入られていることが妬ましかった。聖女様と同じ銀髪だから気に入られるのだと、髪を引っ張られたりしていたのだそう。
今は大丈夫だけれど、出会った時の二人は酷い状態だった。
髪を何度も引っ張られていたせいで、同い年の子よりも髪が少なくて、傷だらけの頭皮が覗いていた。
そんな状況でも孤児院の院長は虐めを止めていなくて。酷いと思ったから、私はお父様に侍女としてでもいいから、迎え入れられないか相談したのよね……。
でも、侍女として働かせるには幼すぎたから保護することになった。
それから私達は家族のように接してきて、二人がそれぞれ十二歳になった頃から侍女として仕えてくれている。
綺麗な銀髪は見れなくなってしまっているけれど、髪色を理由に虐められていたのだから、染めることを止ようとは思えない。
私とは四つも歳が離れているから、あまり仲良くはなれなかったけれど、私と三歳差の妹とは仲が良くて、今でもよくお茶をしているみたい。
そんな関係の私達だけれど、仲が悪いわけではないから、今のようにお互いに笑顔で接している。
「……分かったわ。他に用件はあるのかしら?」
「ええ。完成している馬車を運ぶように言われましたの」
私を呼ぶだけなら通信の魔道具で事足りるはずだから、疑問に思って尋ねると、そんなことを言われた。
「私も手伝った方が良いかしら?」
「お願いしてもいいですか?」
「ええ」
私でも馬を操ることは出来るから、遅れてやって来たレティシアや他の使用人達と一緒に、馬車を運ぶ準備を始めた。
そんな時、後ろからレオン様に声をかけられた。
「グレールからアスクライ公国の中心にに巨大な魔力が移動したそうだ。前線を突破された可能性がある」
「そんな……」
負けそうになっているかもしれない。
淡々と告げられた言葉を聞いて、冷たいものを背中に感じてしまった。
アルカンシェル商会の制服を着た私は、庭に出て馬車製作に参加している。
人手は足りていたはずなのだけど、馬車を持ち上げる魔道具を朝のうちにもう一つ作ったら、一人分足りなくなってしまったのよね……。
でも、作る速さは今までの四倍以上になったのだから、この道具の効果は凄まじい。
ちなみに、レオン様は皇帝陛下に呼び出されているから、朝食を終えたらすぐに屋敷に行ってしまった。
でも、今日はやることが山のようにあるから寂しさを感じる余裕は無いのよね。
「よし、西おろせー!」
「西おろすぞー!」
そんな掛け声が少し離れたところから聞こえてくる。
二つあるとどちらに向けた指示なのか分かりにくいから、必ず方角を付けることに決めているから、今のところミスは起きていない。
ちなみに私は東側で魔道具を動かしている。
でも、みんなとは違って魔力を飛ばして直接動かしているから、組み立てにも手を出している。
「商会長、本当にどうやって魔道具を動かしているんですか?」
「魔法を使う要領で魔力を飛ばすのよ。あの白い箱の中に魔法陣が入っているから、そこに当てれば動くわ」
「いや、ちょっと言っている意味が分からないです。魔力って飛ばせるんですか?」
せっかく説明したのに、そんな言葉が返ってきた。
もしかして、私がおかしいのかしら……?
悪い意味ではないのだけど、少し悲しくなってしまうわ。
「ええ、飛ばせるわ。これが何よりの証拠よ。
東降ろすわよ?」
「はい!」
実際に魔道具を動かして見せる私。
私のいる東側はみんな慣れてしまっているから驚かれないけれど、西側の人達は休憩中にチラチラとこちらを見てきている。
「こんな感じよ」
「なるほど。確かに魔力の気配はしました」
納得してもらえたから、そのまま作業に戻る。
そんなとき、お昼から働く予定の人達が入ってきたから、私達は休憩することになった。
どこかの国の王宮で働く人達は利益と王族の満足を優先していて休憩を貰えないみたいだけど、私は利益よりもみんなの身体の方が大事だと思っているから、適度に休憩を挟めるようにしている。
でも、今みたいに急に人手が必要になった時以外は、人手不足に悩まされたことは無いのよね……。
他所の商会では休憩を取らせられないほど人手不足のところもあるらしい。
「休憩いただくわね」
「お疲れ様です!」
簡単な挨拶を交わして本部の中に戻る私。
そんな時、アストライア家の馬車が前に止まっているのが目に入った。
レオン様が戻ってきたのかしら……?
そう思ってアストライア家の人の姿を探すと、来客受付のところに良く知った人物を見つけた。
「レイニ……?」
「ルシアナ様……ちょうど良かったです。旦那様がお呼びですわ」
そう口にする空色の髪の侍女――レイニは私が十歳の頃に出会った四歳年下の子。専属ではないけれど、よくお話をしている。
出会ったきっかけは、領地にある孤児院を訪れていた時のこと。
あの日。
私はレイニと彼女の妹のレティシアが虐められているところを目撃してしまった。
虐めの理由はレティシアから聞いたことがある。
孤児院をよく訪問していた聖女様に気に入られていることが妬ましかった。聖女様と同じ銀髪だから気に入られるのだと、髪を引っ張られたりしていたのだそう。
今は大丈夫だけれど、出会った時の二人は酷い状態だった。
髪を何度も引っ張られていたせいで、同い年の子よりも髪が少なくて、傷だらけの頭皮が覗いていた。
そんな状況でも孤児院の院長は虐めを止めていなくて。酷いと思ったから、私はお父様に侍女としてでもいいから、迎え入れられないか相談したのよね……。
でも、侍女として働かせるには幼すぎたから保護することになった。
それから私達は家族のように接してきて、二人がそれぞれ十二歳になった頃から侍女として仕えてくれている。
綺麗な銀髪は見れなくなってしまっているけれど、髪色を理由に虐められていたのだから、染めることを止ようとは思えない。
私とは四つも歳が離れているから、あまり仲良くはなれなかったけれど、私と三歳差の妹とは仲が良くて、今でもよくお茶をしているみたい。
そんな関係の私達だけれど、仲が悪いわけではないから、今のようにお互いに笑顔で接している。
「……分かったわ。他に用件はあるのかしら?」
「ええ。完成している馬車を運ぶように言われましたの」
私を呼ぶだけなら通信の魔道具で事足りるはずだから、疑問に思って尋ねると、そんなことを言われた。
「私も手伝った方が良いかしら?」
「お願いしてもいいですか?」
「ええ」
私でも馬を操ることは出来るから、遅れてやって来たレティシアや他の使用人達と一緒に、馬車を運ぶ準備を始めた。
そんな時、後ろからレオン様に声をかけられた。
「グレールからアスクライ公国の中心にに巨大な魔力が移動したそうだ。前線を突破された可能性がある」
「そんな……」
負けそうになっているかもしれない。
淡々と告げられた言葉を聞いて、冷たいものを背中に感じてしまった。
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