23 / 70
23. 跳ね返るもの
しおりを挟む
「ルシアナって女知っているかしら? あの女はね、聖女候補で癒しの力を持っていて可愛くてみんなに愛されている私が妬ましかったみたいなの。嫉妬心からドレスを切り裂いたり、三階の窓から投げ飛ばされたりしたの。酷いわよね?」
間延びしたリーシャ様の不快な声に耳を覆いたくなってしまう。
彼女の声だけなら我慢できたけれど、そこにマドネス王子の声も加わってしまった。
「ルシアナ嬢は僕に執着していたそうでね、リーシャに嫉妬して酷いことを沢山していたんだ。
だから僕がこの手で国外追放に処したんだ。今はこの国にいるはずだから、あの痴女に男達が誘惑される前に追放した方が良いですよ」
「マドの言う通りですわ。陛下、ルシアナを国外追放にしてください」
誰が痴女ですって!? それは貴方の隣にいる聖女候補のことです!
ここ帝国では露出の多いドレスは好まれない。
王国では好みが分かれていたけれど、帝国のパーティーで背中と胸元が大きく開いたドレスを着ていたら白い目で見られることになる。
そのことは王国内でも知られていることなのに、リーシャ様は露出が多いドレスを身に纏っている。
私はというと、主役ではないのだから装飾品は最低限にしたシンプルなデザインのドレスを纏っている。もちろん露出は最低限。
そのことに周囲の方々は気付いたみたいで、露骨に嫌そうな顔をしていた。
けれども私への根も葉もない悪口は止まらなくて。
「レオン様、断罪の時の音を流しても良いでしょうか? それと、王宮に潜入していた人から貰った嫌がらせの証拠も」
「構わない。王国の信用は地に落ちるが、国交が切られるくらいで済むだろう」
……怒りを覚えた私は、マドネス王子達が私に嫉妬したことを理由に嫌がらせをして、断罪までした証拠が詰まった魔道具を取り出した。
「では、いきますわね」
魔力を流してから、そのまま床に置く。
素知らぬ顔でその場を離れると、リーシャ様の声が魔道具から放たれた。
「マドぉ、ルシアナって女なんとかならない? 大した力もないのに、みんなから気に入られているから腹立たしいのよ。
あの女のせいで私は聖女候補なのに見向きもされないの。だから王国から追い出してちょうだい」
「分かったよ。国外追放に処そう」
この会話の内容を知ったのは帝国に渡ってからのことだったから、あの時は何も対策出来ていなかったのよね。
でも、私が知らなかったお陰で、無事に証拠として残すことが出来た。
もしも事前に知っていたら、この声が入った魔道具を持ち歩いていたはずで、無実を証明するためにマドネス王子達もいる場所で声を流していたかもしれない。
そんなことをしたら壊されてしまうことは確実だけれど、そんな状況で冷静でいられるとは思えないのよね……。
そんな私の予想は間違っていなかったみたいで、声に気付いたマドネス王子は魔道具を床に投げつけて壊していた。
「誰だ、リーシャと俺の声を真似て流した奴は!」
「私ですわ。何かご不満でしたか?」
「ルシアナ、お前……」
腕をプルプルと震わせて、そんなことを口にするマドネス王子。
その隙に、私はもう一つ魔道具を取り出して全く同じ音を流し始めた。
ちなみに、この魔道具も壊された魔道具も、一度蓄えた音を流して複製したものだから、いくら壊されても証拠が消えることはない。
ただ、二つ持ってくるとなると荷物になってしまうから、レオン様も私も大きなカバンを近くに置いている。
「声を捏造して俺達を陥れるつもりか!?」
「事実を捏造しようとしていた人に言われたくないですわ。それに、この魔道具は実際の音しか蓄えられませんの。
ここにいらっしゃる皆様でしたら、ご存じだと思いますけれど……捏造は不可能ですわ」
畜音の魔道具は、主に約束事の時に証拠を残す目的で使われているから、その信頼性は広く知られている。
だからマドネス王子の言い分は全く聞き入れられていなかった。
そのことに腹を立てたのかしら?
マドネス王子は銀色に煌めく何かを取り出して、私に投げつけてきた。
この形は……ブーメランね。
でも、勢いがなかったことと距離を取っていたことが幸いして、簡単に避けることが出来た。
「チッ……」
舌打ちをするマドネス王子。
ブーメランは護身具にもよく使われているけれど、こんな場所で投げたら無関係な人達を巻き込んでしまうのに……。
不安になって後ろを見てみると、そこには誰もいなかった。
だから、躊躇なく投げてきたのね……。
「あのブーメラン、毒が塗ってある。色は麻痺毒だ」
「あんなに遅かったら当たりませんわ」
私の方に戻ってくるブーメランが目に入ってきたから、言葉に続けて躱してみせる私。
飛び道具を避ける練習は、護身術の一つだから散々練習させられたから、これくらいのことは難しくない。
練習させられていた十歳くらいの頃は、練習が辛くてお父様に「大嫌い」だなんて言ってしまったけれど、今では感謝している。
ちなみに、練習相手はレオン様だったから、私が泣きながら逃げるところも見られているのよね……。
思い出したら恥ずかしくなってきたわ……。
でも、直後に誰かの呻き声が聞こえたから、顔の熱が引いていった。
間延びしたリーシャ様の不快な声に耳を覆いたくなってしまう。
彼女の声だけなら我慢できたけれど、そこにマドネス王子の声も加わってしまった。
「ルシアナ嬢は僕に執着していたそうでね、リーシャに嫉妬して酷いことを沢山していたんだ。
だから僕がこの手で国外追放に処したんだ。今はこの国にいるはずだから、あの痴女に男達が誘惑される前に追放した方が良いですよ」
「マドの言う通りですわ。陛下、ルシアナを国外追放にしてください」
誰が痴女ですって!? それは貴方の隣にいる聖女候補のことです!
ここ帝国では露出の多いドレスは好まれない。
王国では好みが分かれていたけれど、帝国のパーティーで背中と胸元が大きく開いたドレスを着ていたら白い目で見られることになる。
そのことは王国内でも知られていることなのに、リーシャ様は露出が多いドレスを身に纏っている。
私はというと、主役ではないのだから装飾品は最低限にしたシンプルなデザインのドレスを纏っている。もちろん露出は最低限。
そのことに周囲の方々は気付いたみたいで、露骨に嫌そうな顔をしていた。
けれども私への根も葉もない悪口は止まらなくて。
「レオン様、断罪の時の音を流しても良いでしょうか? それと、王宮に潜入していた人から貰った嫌がらせの証拠も」
「構わない。王国の信用は地に落ちるが、国交が切られるくらいで済むだろう」
……怒りを覚えた私は、マドネス王子達が私に嫉妬したことを理由に嫌がらせをして、断罪までした証拠が詰まった魔道具を取り出した。
「では、いきますわね」
魔力を流してから、そのまま床に置く。
素知らぬ顔でその場を離れると、リーシャ様の声が魔道具から放たれた。
「マドぉ、ルシアナって女なんとかならない? 大した力もないのに、みんなから気に入られているから腹立たしいのよ。
あの女のせいで私は聖女候補なのに見向きもされないの。だから王国から追い出してちょうだい」
「分かったよ。国外追放に処そう」
この会話の内容を知ったのは帝国に渡ってからのことだったから、あの時は何も対策出来ていなかったのよね。
でも、私が知らなかったお陰で、無事に証拠として残すことが出来た。
もしも事前に知っていたら、この声が入った魔道具を持ち歩いていたはずで、無実を証明するためにマドネス王子達もいる場所で声を流していたかもしれない。
そんなことをしたら壊されてしまうことは確実だけれど、そんな状況で冷静でいられるとは思えないのよね……。
そんな私の予想は間違っていなかったみたいで、声に気付いたマドネス王子は魔道具を床に投げつけて壊していた。
「誰だ、リーシャと俺の声を真似て流した奴は!」
「私ですわ。何かご不満でしたか?」
「ルシアナ、お前……」
腕をプルプルと震わせて、そんなことを口にするマドネス王子。
その隙に、私はもう一つ魔道具を取り出して全く同じ音を流し始めた。
ちなみに、この魔道具も壊された魔道具も、一度蓄えた音を流して複製したものだから、いくら壊されても証拠が消えることはない。
ただ、二つ持ってくるとなると荷物になってしまうから、レオン様も私も大きなカバンを近くに置いている。
「声を捏造して俺達を陥れるつもりか!?」
「事実を捏造しようとしていた人に言われたくないですわ。それに、この魔道具は実際の音しか蓄えられませんの。
ここにいらっしゃる皆様でしたら、ご存じだと思いますけれど……捏造は不可能ですわ」
畜音の魔道具は、主に約束事の時に証拠を残す目的で使われているから、その信頼性は広く知られている。
だからマドネス王子の言い分は全く聞き入れられていなかった。
そのことに腹を立てたのかしら?
マドネス王子は銀色に煌めく何かを取り出して、私に投げつけてきた。
この形は……ブーメランね。
でも、勢いがなかったことと距離を取っていたことが幸いして、簡単に避けることが出来た。
「チッ……」
舌打ちをするマドネス王子。
ブーメランは護身具にもよく使われているけれど、こんな場所で投げたら無関係な人達を巻き込んでしまうのに……。
不安になって後ろを見てみると、そこには誰もいなかった。
だから、躊躇なく投げてきたのね……。
「あのブーメラン、毒が塗ってある。色は麻痺毒だ」
「あんなに遅かったら当たりませんわ」
私の方に戻ってくるブーメランが目に入ってきたから、言葉に続けて躱してみせる私。
飛び道具を避ける練習は、護身術の一つだから散々練習させられたから、これくらいのことは難しくない。
練習させられていた十歳くらいの頃は、練習が辛くてお父様に「大嫌い」だなんて言ってしまったけれど、今では感謝している。
ちなみに、練習相手はレオン様だったから、私が泣きながら逃げるところも見られているのよね……。
思い出したら恥ずかしくなってきたわ……。
でも、直後に誰かの呻き声が聞こえたから、顔の熱が引いていった。
24
お気に入りに追加
3,315
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる