18 / 70
18. 完成のお祝い
しおりを挟む
「王子がここに来るって、どういうことかしら?」
「詳しい目的は分かりかねますが、ルシアナ様の悪評を流す意図もあるものかと」
私が問いかけると、そんな答えが返ってきた。
もうグレール王国にも私の立場が知られているはずだから、こうなることは不思議ではない。
念のためにと社交界に出る機会を作っておいて本当に良かったわ。
ここアルバラン帝国の社交界は、基本的には帝国で爵位を授かっている貴族しか参加出来ない。
けれども、それは主催者の裁量によって変わってくる。
たとえばユーラス侯爵家が明日開くパーティーでは、広く交流を深めるという侯爵様の意思によって影響力を持つ平民までが招待されている。
私はレナ様の友人として招かれているけれど、何かの手違いでアルカンシェル商会の長としても招待状を頂いた。
招待されれば、エスコート役を伴うことが出来るけれど、エスコート役の態度次第では招待された人の評価も地に落ちる。
今までも何度かレオン様と参加したことがあるけれど、私達の評価は高かったと聞いている。
だから、帝国内で名が知れてないマドネス王子が悪評を流そうとしたところで、意味が無いとは思っているけれど……。
対策は多ければ多いほど確実になるから、今回も慎重に行動した方が良さそうね。
「念のために王子の噂を流した方が良いかしら?」
「事実を話すくらいは良いけれど、敢えて広める必要は無いわ。馬鹿な人以外は、必ず裏を取ってから噂を広めるから」
私の疑問に、そんな答えを返してくれるレナ様。
王国では簡単に噂を鵜呑みにする人も大勢いたから不安になっていたけれど、帝国は違うらしい。
「そうなのね、ありがとう」
お礼を言って、この場にいる皆に向き直る私。
まだ歓喜の様相は変わっていないから、私達もその輪に混じることにした。
「ちょっと危ないわよ!?」
「大丈夫よ、少し怪我しても治せるから」
ここ帝国では、ちょっとしたお祝い事でもお酒が飛び交ったりする。
少し変わった風習に見えるけれど、宙に投げることで神様に届けるという意味があるらしい。
ここ帝国で祀っている神様はお酒が大好物みたいだから、お酒を使うことにも納得ね。
ちなみに、神様の文を横取りすることになるから、この場で飲むことは許されないらしい。
「ルシアナ様もやりますか?」
「ええ、貰ってもいいかしら?」
「もちろんです」
酒瓶を受け取って、思いっきり振ってみる私。
こうすると勢いよく瓶の口から中身が出るのだけど、そこそこ高級なものだから勿体なくも感じてしまう。
でも、こうして神様にお礼をすれば次も良いことが起こるから、遠慮しないで瓶の蓋を開けた。
☆
みんなで馬車の完成を祝った日の翌朝。
私はレオン様とユーラス侯爵家の屋敷に向かっていた。
今乗っている馬車は、試作品を元に作った馬車だから、今日の移動は快適だ。
普通の馬車ならガタガタという音のせいで声が聞こえないことも大きいけれど、今は小さい声でも問題なく話せている。
「ユーラス家のパーティーに参加するのは久々だな」
「ええ。少し緊張していますわ」
「皆良い人なのだから、多少の失態くらいは問題無いだろう」
「そうですわね。でも、失態は良くありませんから」
そんなことを話している間に、目的のユーラス邸に着いたみたいで、馬車が止まった。
この馬車には、何かあった時にすぐに止まれるような機能もあるから、普段よりも強い減速感に襲われた。
移動にかかる時間が半分になったことの代償ね。
「お待たせしました。到着致しました」
御者さんの声が聞こえてきて、レオン様が先に馬車から飛び降りた。
そのまま彼が踏み台を用意してくれたから、手を借りて降りていく私。
馬車寄せには他の貴族や商家の方々もいるから、似たような光景がいくつもある。
「ありがとうございます」
「ああ。では、行こう」
レオン様のエスコートで敷地の中に入っていく私。
それからすぐに、ユーラス家の使用人さんが会場への案内を始めてくれた。
無事に会場入りが出来た私達は、最初に主催のユーラス侯爵夫妻様に挨拶に向かった。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、娘の招待を受け入れてくれてありがとう。是非楽しんでください」
「私も素晴らしい時間になるように努めさせて頂きますわ」
挨拶を終えたら、他の方々との挨拶にも向かう私達。
その途中で私達が挨拶を受けたりすることもあった。
それから少しして、パーティーのはじまりを告げる曲の演奏が流れ始めた
「詳しい目的は分かりかねますが、ルシアナ様の悪評を流す意図もあるものかと」
私が問いかけると、そんな答えが返ってきた。
もうグレール王国にも私の立場が知られているはずだから、こうなることは不思議ではない。
念のためにと社交界に出る機会を作っておいて本当に良かったわ。
ここアルバラン帝国の社交界は、基本的には帝国で爵位を授かっている貴族しか参加出来ない。
けれども、それは主催者の裁量によって変わってくる。
たとえばユーラス侯爵家が明日開くパーティーでは、広く交流を深めるという侯爵様の意思によって影響力を持つ平民までが招待されている。
私はレナ様の友人として招かれているけれど、何かの手違いでアルカンシェル商会の長としても招待状を頂いた。
招待されれば、エスコート役を伴うことが出来るけれど、エスコート役の態度次第では招待された人の評価も地に落ちる。
今までも何度かレオン様と参加したことがあるけれど、私達の評価は高かったと聞いている。
だから、帝国内で名が知れてないマドネス王子が悪評を流そうとしたところで、意味が無いとは思っているけれど……。
対策は多ければ多いほど確実になるから、今回も慎重に行動した方が良さそうね。
「念のために王子の噂を流した方が良いかしら?」
「事実を話すくらいは良いけれど、敢えて広める必要は無いわ。馬鹿な人以外は、必ず裏を取ってから噂を広めるから」
私の疑問に、そんな答えを返してくれるレナ様。
王国では簡単に噂を鵜呑みにする人も大勢いたから不安になっていたけれど、帝国は違うらしい。
「そうなのね、ありがとう」
お礼を言って、この場にいる皆に向き直る私。
まだ歓喜の様相は変わっていないから、私達もその輪に混じることにした。
「ちょっと危ないわよ!?」
「大丈夫よ、少し怪我しても治せるから」
ここ帝国では、ちょっとしたお祝い事でもお酒が飛び交ったりする。
少し変わった風習に見えるけれど、宙に投げることで神様に届けるという意味があるらしい。
ここ帝国で祀っている神様はお酒が大好物みたいだから、お酒を使うことにも納得ね。
ちなみに、神様の文を横取りすることになるから、この場で飲むことは許されないらしい。
「ルシアナ様もやりますか?」
「ええ、貰ってもいいかしら?」
「もちろんです」
酒瓶を受け取って、思いっきり振ってみる私。
こうすると勢いよく瓶の口から中身が出るのだけど、そこそこ高級なものだから勿体なくも感じてしまう。
でも、こうして神様にお礼をすれば次も良いことが起こるから、遠慮しないで瓶の蓋を開けた。
☆
みんなで馬車の完成を祝った日の翌朝。
私はレオン様とユーラス侯爵家の屋敷に向かっていた。
今乗っている馬車は、試作品を元に作った馬車だから、今日の移動は快適だ。
普通の馬車ならガタガタという音のせいで声が聞こえないことも大きいけれど、今は小さい声でも問題なく話せている。
「ユーラス家のパーティーに参加するのは久々だな」
「ええ。少し緊張していますわ」
「皆良い人なのだから、多少の失態くらいは問題無いだろう」
「そうですわね。でも、失態は良くありませんから」
そんなことを話している間に、目的のユーラス邸に着いたみたいで、馬車が止まった。
この馬車には、何かあった時にすぐに止まれるような機能もあるから、普段よりも強い減速感に襲われた。
移動にかかる時間が半分になったことの代償ね。
「お待たせしました。到着致しました」
御者さんの声が聞こえてきて、レオン様が先に馬車から飛び降りた。
そのまま彼が踏み台を用意してくれたから、手を借りて降りていく私。
馬車寄せには他の貴族や商家の方々もいるから、似たような光景がいくつもある。
「ありがとうございます」
「ああ。では、行こう」
レオン様のエスコートで敷地の中に入っていく私。
それからすぐに、ユーラス家の使用人さんが会場への案内を始めてくれた。
無事に会場入りが出来た私達は、最初に主催のユーラス侯爵夫妻様に挨拶に向かった。
「本日はお招き頂きありがとうございます」
「こちらこそ、娘の招待を受け入れてくれてありがとう。是非楽しんでください」
「私も素晴らしい時間になるように努めさせて頂きますわ」
挨拶を終えたら、他の方々との挨拶にも向かう私達。
その途中で私達が挨拶を受けたりすることもあった。
それから少しして、パーティーのはじまりを告げる曲の演奏が流れ始めた
29
お気に入りに追加
3,315
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる