断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
13 / 70

13. 追放の次は

しおりを挟む
 あの後、新商品開発部の人達やレオン様と何度も試乗した。
 魔力が必要になる欠点はあるけれど、魔力の多いレオン様や私がいる状況では問題にならなかった。

 それに、魔力を持たない人でも魔道具を使えるようにする魔石を使えば、誰でも扱えるようにすることだって出来る。
 ちなみに、魔石というのは魔力を貯めることが出来る石のこと。

 サファイアのような宝石も魔石になっているけれど、高価だから魔物の中から採れる魔物石を使うのが一般的になっている。
 魔道具の核になっている魔法陣と魔石は、魔石を砕いた粉を細長い筒に詰めたものを使って繋ぐ。そうすれば、魔法陣に直接魔力を注がなくても魔道具を使うことが出来る。

 ちなみに、魔物石には最初から魔力が溜まっているから、すぐに使えるという利点もある。

「これはいいな。今は振動を抑えるために敢えて速度を落としているそうだが、それも改善できそうだ」
「……少し試してみますか?」
「いいのか?」
「ええ」

 頷いてから、御者に指示を出す私。
 少しずつ速くなっていって、揺れも増えていく。

 けれども、普通の馬車のようなガタガタという不快な振動は起こっていない。
 揺れは大きくなっているけれど、ゆったりとしたものだから不快には感じられなかった。

 その逆で、心地よさを感じられるくらいだ。
 ずっと揺られていたら、眠ってしまいそうね……。

「これはすごいな……。人や物が今までの半分の時間で移動できるようになったら、世界が変わる。
 しっかりと止まるための魔道具があれば、もっと早く出来るのだろうな」
「この馬車があれば、流行り病や飢饉の時に困っている人達にすぐに支援が出来るようになりますわ」
「魔物の襲撃があった時も、すぐに武器を運べるようになる。今まで救えなかった人を救えるようになるかもしれないな」

 そんな未来を思い描く私達。
 この馬車があれば、今までは行けなかった場所にだって行くことが出来る。

 国外追放された今は無理だけれど、アストライア領から帝都まで一日で行くことだって出来る。
 お父様達もセントリアで暮らすことになるけれど、領地の様子を頻繁に見ることができるからお父様には喜ばれそうね。

 ちなみに、今は商会本部の敷地の中をぐるぐると回っているだけ。
 だから、私に馴染みのある紋章を掲げた馬車の列が近くに止まったところはよく見えていた。


   ☆


「聞いていたよりも早かったから驚きましたわ」

 本部の中にある応接室に向かいながら、そんなことを口にする私。
 するとお母様は、こんな言葉を返してきた。

「ルシアナのことが心配だったから、私だけ一足先に来させてもらったの。
 まさかレオン様がいらっしゃるとは思わなかったわ」
「最初は私も驚きましたわ。でも、レオン様らしいと思ってしまって」

 応接室に入ると、すぐにお湯を出せる魔道具を使ってお茶を淹れる私。
 茶葉は一応高級なものを使っているけれど、侯爵家や公爵家で出されているものには及ばない。

 それでも、お母様もレオン様も美味しそうに口にしてくれた。

「やっぱりルシアナが淹れてくれたお茶は美味しいわ」
「僕も同じ感想です。身体の奥が温まるような、不思議な感じがします」

 変なものは入れていないのだけど……。

 少し不安になっている時のこと。
 お母様が信じられないことを口にした。

「いつ言おうか迷っていたのだけど……。
 私達、国家反逆罪の濡れ衣を着せられたのよ。逃亡の準備をしていなかったら、今頃処刑されていたかもしれないわ」
「国家反逆罪ですって……!?」
「そうよ。あの王子の考えていることは理解できないわ。
 民の不満を晴らすためだけに、私達を公開処刑しようとしているのよ」

 あまりの恐ろしさに、私は何も言えなくなってしまった。
 けれども、レオン様は嘲笑を交えた様子で口を開いた。

「そのような事が許されるはずが無い。王家が滅びるのも時間の問題だな。
 あの愚かさは一度は死なないと治らないかもしれない」

 そう口にする彼は、険しい表情のままグレールの王都の方向を睨みつけていた。

 怒りを口に出来ない私に代わって、レオン様は怒ってくれている。
 そう分かったから、嬉しさと申し訳なさの入り混じった複雑な気分になってしまった。

 けれども、私も怒りを覚えていたから。
 あの王族の愚行を止める方法を探ることに決めた。 

 
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

婚約破棄?とっくにしてますけど笑

蘧饗礪
ファンタジー
ウクリナ王国の公爵令嬢アリア・ラミーリアの婚約者は、見た目完璧、中身最悪の第2王子エディヤ・ウクリナである。彼の10人目の愛人は最近男爵になったマリハス家の令嬢ディアナだ。  さて、そろそろ婚約破棄をしましょうか。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

処理中です...