11 / 70
11. 一番の楽しみ
しおりを挟む
一時間かけて別荘の中の埃をかき集めた私達は、本来は応接室に使う部屋でお話をすることになった。
「これで落ち着いて話が出来る」
「こんなことをさせてしまって、本当に申し訳ないですわ」
「いや、なんか楽しかったから気にしなくていい。またさせて欲しいくらいだ」
ええ、確かにレオン様は楽しんでいる様子でしたよ?
でも、彼に掃除をさせていることが発覚したら、クライアス侯爵家からお叱りを頂いてしまう。
だから遠慮したいのだけど、彼のお願い事は断りきれなかった。
「私が怒られてしまうので、遠慮してほしいですわ……」
「怒られないように、前もって父上に報告しておくよ」
「そういう問題ではないのですけど……」
曖昧に返すことしか出来ない私。
彼さえ良ければ大きな問題は無いのだけど、外聞はあまり良くない状況なのよね……。
「使用人の苦労を知っていないと、上に立つことは出来ても恨まれるような人になってしまう。どこかの国の王族のように。 俺はそんな人間になりたくないから、こうして使用人の苦労も学ぼうとしているんだ。父上も同じ考えだ」
彼の言っていることは正しい。
私だって、使用人の手が足りないときは洗濯や掃除に料理を手伝っていたこともある。
上に立つ者は、下に立つ者の苦労を知っていなければならない。お父様のそんな考えがあったから、手伝っていても何も言われなかったのだけど……。
レオン様の家も似たような考えを持っているのね。
このことを知って、ようやくレオン様の行動の意味が分かった気がした。
☆
あれから少しして、私は商会の本部に戻った。
新しい馬車を早めに完成させたい気持ちもあるけれど、今回の一番の目的はレオン様に私が商会長になっていると伝えること。
「もう察しているかもしれませんけど……私、この商会を営んでいますの」
「この商会って、アルカンシェル商会のことだよね? 何かの冗談か?」
彼は冗談のような口調で問い返してきた。
婚約者が力のある商会の長だなんて、簡単には受け入れられないわよね……。
「冗談の方が良かったですか?」
「いや、現実のものと思えないだけだ。そうか、ルシアナがアルカンシェルの長か。
ということは、グレールからは撤退するのか?」
「ええ。長が立ち入ることが出来なければ商談も円滑に進みませんから」
重税から逃げるためという理由もあるけれど、一番の理由は私が支部に足を運べなくなってしまうと支障が出てしまうから。
代役は立てられても、信頼を得るためには私が直接出向いた方が良い。
この方針はアルカンシェル商会になる前、お父様が営んでいる頃から変えていない。
でも、そのお陰で帝国内で信頼を得ることが出来た。
「なるほど、それは面白いことになりそうだな」
「面白いことですか?」
「ルシアナを裁いた馬鹿王子に限らず、王族が愛用している商会はアルカンシェルのはずだ。
その商会から取引を打ち切られたら、王家は混乱に陥るのではないか?」
笑みを浮かべながら、そんなことを口にするレオン様。
そんなこと、全く考えていなかったわ……。
お世話になっているご貴族様は重税のせいで物を買えない状況だったから、私達が撤退しても大きな問題にはならない。
王族は影響が出るけれど、気に掛けることはしなかったのよね……。
「……まさか、王家への仕返しとは考えていなかったのか?」
「ええ、そのまさかですわ。
怒りを感じていたから、迷惑をかけることになっても気にならなかったのです」
「怒ってはいるのだな。安心したよ」
「安心ですか?」
他人に怒りを感じていると知られてしまったら、仲の良い婚約者でも引かれてしまうと思っていたから、思わず問い返してしまう。
でも、彼は私に惹かれたみたいで、こんな言葉が返ってきた。
「ああ。怒らない人というのは、不満を貯め込み過ぎて壊れてしまうことがある。だから心配していた」
「私だって怒るときは怒りますわ。でも、恨みを晴らそうとは考えていませんでした」
「商会経営の方が楽しいのか」
「経営もですけど、新しい魔道具を作ることが一番が楽しいですわ」
私が作った魔道具を使っている人の笑顔を見ることなのだけど、使っている本人に言うのは恥ずかしくて、言葉には出来なかった。
「これで落ち着いて話が出来る」
「こんなことをさせてしまって、本当に申し訳ないですわ」
「いや、なんか楽しかったから気にしなくていい。またさせて欲しいくらいだ」
ええ、確かにレオン様は楽しんでいる様子でしたよ?
でも、彼に掃除をさせていることが発覚したら、クライアス侯爵家からお叱りを頂いてしまう。
だから遠慮したいのだけど、彼のお願い事は断りきれなかった。
「私が怒られてしまうので、遠慮してほしいですわ……」
「怒られないように、前もって父上に報告しておくよ」
「そういう問題ではないのですけど……」
曖昧に返すことしか出来ない私。
彼さえ良ければ大きな問題は無いのだけど、外聞はあまり良くない状況なのよね……。
「使用人の苦労を知っていないと、上に立つことは出来ても恨まれるような人になってしまう。どこかの国の王族のように。 俺はそんな人間になりたくないから、こうして使用人の苦労も学ぼうとしているんだ。父上も同じ考えだ」
彼の言っていることは正しい。
私だって、使用人の手が足りないときは洗濯や掃除に料理を手伝っていたこともある。
上に立つ者は、下に立つ者の苦労を知っていなければならない。お父様のそんな考えがあったから、手伝っていても何も言われなかったのだけど……。
レオン様の家も似たような考えを持っているのね。
このことを知って、ようやくレオン様の行動の意味が分かった気がした。
☆
あれから少しして、私は商会の本部に戻った。
新しい馬車を早めに完成させたい気持ちもあるけれど、今回の一番の目的はレオン様に私が商会長になっていると伝えること。
「もう察しているかもしれませんけど……私、この商会を営んでいますの」
「この商会って、アルカンシェル商会のことだよね? 何かの冗談か?」
彼は冗談のような口調で問い返してきた。
婚約者が力のある商会の長だなんて、簡単には受け入れられないわよね……。
「冗談の方が良かったですか?」
「いや、現実のものと思えないだけだ。そうか、ルシアナがアルカンシェルの長か。
ということは、グレールからは撤退するのか?」
「ええ。長が立ち入ることが出来なければ商談も円滑に進みませんから」
重税から逃げるためという理由もあるけれど、一番の理由は私が支部に足を運べなくなってしまうと支障が出てしまうから。
代役は立てられても、信頼を得るためには私が直接出向いた方が良い。
この方針はアルカンシェル商会になる前、お父様が営んでいる頃から変えていない。
でも、そのお陰で帝国内で信頼を得ることが出来た。
「なるほど、それは面白いことになりそうだな」
「面白いことですか?」
「ルシアナを裁いた馬鹿王子に限らず、王族が愛用している商会はアルカンシェルのはずだ。
その商会から取引を打ち切られたら、王家は混乱に陥るのではないか?」
笑みを浮かべながら、そんなことを口にするレオン様。
そんなこと、全く考えていなかったわ……。
お世話になっているご貴族様は重税のせいで物を買えない状況だったから、私達が撤退しても大きな問題にはならない。
王族は影響が出るけれど、気に掛けることはしなかったのよね……。
「……まさか、王家への仕返しとは考えていなかったのか?」
「ええ、そのまさかですわ。
怒りを感じていたから、迷惑をかけることになっても気にならなかったのです」
「怒ってはいるのだな。安心したよ」
「安心ですか?」
他人に怒りを感じていると知られてしまったら、仲の良い婚約者でも引かれてしまうと思っていたから、思わず問い返してしまう。
でも、彼は私に惹かれたみたいで、こんな言葉が返ってきた。
「ああ。怒らない人というのは、不満を貯め込み過ぎて壊れてしまうことがある。だから心配していた」
「私だって怒るときは怒りますわ。でも、恨みを晴らそうとは考えていませんでした」
「商会経営の方が楽しいのか」
「経営もですけど、新しい魔道具を作ることが一番が楽しいですわ」
私が作った魔道具を使っている人の笑顔を見ることなのだけど、使っている本人に言うのは恥ずかしくて、言葉には出来なかった。
53
お気に入りに追加
3,315
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします
宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。
しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。
そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。
彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか?
中世ヨーロッパ風のお話です。
HOTにランクインしました。ありがとうございます!
ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです!
ありがとうございます!
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる