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10. side 婚約者の奮闘
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ルシアナがグレール王国の王都を発った頃。
彼女と婚約しているレオン・クライアスは自身の父の執務室を訪れていた。
ルシアナが断罪される一部始終を見ていた彼は、その場で介入することも考えていた。
しかし侯爵家の嫡男とは言っても、王族の命令に背くことは出来ない。
また、周囲がルシアナを擁護する発言をしていたことを見て、介入を避けていた。
この状況で断罪するような王子が相手なら、介入しても結果は変わらない。
だから、下手に動いて王子の目につくよりも、断罪後にルシアナを助けられるようにと行動した。
そして、目論見通りにルシアナの望みを叶えることに成功したのだが、レオンはそれで満足しなかった。
「父上、話があります。アルバランへの留学を許可してください」
「嫡男であるお前を国外に出すことは簡単には出来ない。それは分かっているな?」
「もちろんです。ですが、家を継げなくなるとしても、ルシアナとの約束は反故にしたくありません」
ルシアナが国外追放に処されたことを知らない侯爵は目を瞬かせた。
その様子を見て、過ちに気付いたレオンはこう続ける。
「ルシアナが不当に国外追放に処されました。原因は王子の我儘です」
「そうか。家よりも彼女が大切なのだな?」
「はい。何があっても側にいると約束しているから、反故にしたく無い。我儘かもしれませんが、許可を頂きたいです」
クライアス侯爵家は子宝に恵まれており、レオンが家を離れたとしても後継に困ることはない。
しかし三人兄弟の中で一番優秀なレオンを嫡子から外すことは避けたいというのが、侯爵の考えだった。
「お前がルシアナ嬢を愛していることは知っていたが、そこまでのものだったか」
「どこかの誰かにそっくりね。貴方も、流刑に処された私を追いかけて来てくれたのよね。別荘まで建てたと聞いた時は驚いたわ」
今まで沈黙を貫いていた夫人が茶化すように口を挟む。
夫人が冤罪により流刑に処された時の話に、渋い顔をする侯爵。
彼はただ寄り添うだけでなく、冤罪の証拠をかき集めて、無実を証明していたのだが……。
「レオンの前でその話はするな」
「あらあら、照れてるのね」
すごく居心地が悪そうにしている。
一方、この会話を聞いていたレオンは不安が消えて、こんなことを口にした。
「留学は許可して頂けますか?」
「良いだろう。留学を許可する。
だが、家督を捨てようとは思うな。ルシアナ嬢の刑を消せるように、手は回しておく」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げ、彼は部屋を飛び出した。
ちなみに留学をするには、学院に必要書類を提出し、留学先に在学証と申請の書類を直接持ち込む必要がある。
だから執事に学院へ送る手配を頼んでから、彼専属になっている護衛に予定を話すことになった。
「……というわけで、これからアルバラン帝国に向かおうと思っている。滞在期間は長くなるから、嫌ならここに残ってもらって構わない」
「私はどこまでもお供します」
「私もお供します」
「申し訳ありません。私には小さい子供がいるので……」
二人は王国に残る意思を示したが、レオンは彼らの意思を尊重して咎めることはしなかった。
そうして五人の護衛と共に出で立ちをすることになった。
「レオン様、侍女は同行させないのですか?」
「ああ。彼女たちには申し訳ないが、今はルシアナに追いつくことを優先したい。
騎馬での移動になるから、同行させることは難しい」
「承知しました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
そうして使用人たちに見送られながらアルバラン帝国へ向けて邸を出たレオン。
彼は想いの人の無事を祈り続けていた。
彼女と婚約しているレオン・クライアスは自身の父の執務室を訪れていた。
ルシアナが断罪される一部始終を見ていた彼は、その場で介入することも考えていた。
しかし侯爵家の嫡男とは言っても、王族の命令に背くことは出来ない。
また、周囲がルシアナを擁護する発言をしていたことを見て、介入を避けていた。
この状況で断罪するような王子が相手なら、介入しても結果は変わらない。
だから、下手に動いて王子の目につくよりも、断罪後にルシアナを助けられるようにと行動した。
そして、目論見通りにルシアナの望みを叶えることに成功したのだが、レオンはそれで満足しなかった。
「父上、話があります。アルバランへの留学を許可してください」
「嫡男であるお前を国外に出すことは簡単には出来ない。それは分かっているな?」
「もちろんです。ですが、家を継げなくなるとしても、ルシアナとの約束は反故にしたくありません」
ルシアナが国外追放に処されたことを知らない侯爵は目を瞬かせた。
その様子を見て、過ちに気付いたレオンはこう続ける。
「ルシアナが不当に国外追放に処されました。原因は王子の我儘です」
「そうか。家よりも彼女が大切なのだな?」
「はい。何があっても側にいると約束しているから、反故にしたく無い。我儘かもしれませんが、許可を頂きたいです」
クライアス侯爵家は子宝に恵まれており、レオンが家を離れたとしても後継に困ることはない。
しかし三人兄弟の中で一番優秀なレオンを嫡子から外すことは避けたいというのが、侯爵の考えだった。
「お前がルシアナ嬢を愛していることは知っていたが、そこまでのものだったか」
「どこかの誰かにそっくりね。貴方も、流刑に処された私を追いかけて来てくれたのよね。別荘まで建てたと聞いた時は驚いたわ」
今まで沈黙を貫いていた夫人が茶化すように口を挟む。
夫人が冤罪により流刑に処された時の話に、渋い顔をする侯爵。
彼はただ寄り添うだけでなく、冤罪の証拠をかき集めて、無実を証明していたのだが……。
「レオンの前でその話はするな」
「あらあら、照れてるのね」
すごく居心地が悪そうにしている。
一方、この会話を聞いていたレオンは不安が消えて、こんなことを口にした。
「留学は許可して頂けますか?」
「良いだろう。留学を許可する。
だが、家督を捨てようとは思うな。ルシアナ嬢の刑を消せるように、手は回しておく」
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げ、彼は部屋を飛び出した。
ちなみに留学をするには、学院に必要書類を提出し、留学先に在学証と申請の書類を直接持ち込む必要がある。
だから執事に学院へ送る手配を頼んでから、彼専属になっている護衛に予定を話すことになった。
「……というわけで、これからアルバラン帝国に向かおうと思っている。滞在期間は長くなるから、嫌ならここに残ってもらって構わない」
「私はどこまでもお供します」
「私もお供します」
「申し訳ありません。私には小さい子供がいるので……」
二人は王国に残る意思を示したが、レオンは彼らの意思を尊重して咎めることはしなかった。
そうして五人の護衛と共に出で立ちをすることになった。
「レオン様、侍女は同行させないのですか?」
「ああ。彼女たちには申し訳ないが、今はルシアナに追いつくことを優先したい。
騎馬での移動になるから、同行させることは難しい」
「承知しました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
そうして使用人たちに見送られながらアルバラン帝国へ向けて邸を出たレオン。
彼は想いの人の無事を祈り続けていた。
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