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9. 帝都で暮らすために
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普段の座席よりも快適になってしまった荷台を交代で使いながら移動すること丸一日。
私達は無事に帝都セントリアに到着した。
この間に、頬袋の問題点も見つかった。
重い側が沈み込みやすいから、バランスを取るのが難しいこと。
中の空気が少しずつ抜けてしまうから、風魔法で中に空気を生み出す必要があること。
重い側の空気を多くすることで、水平を保つことが出来ること。
移動中はずっと、馬車に上手く取り入れるためのことを考えていたから、丸一日という時間はあっという間だった。
商会本部に着いたら、すぐにでも研究に取り掛かりたかった。
けれども、私の家族が向かってきているはずだから、受け入れる準備をしないといけないのよね……。
商会では従業員を雇ってはいても、使用人は雇っていない。
商会の人達に手を貸してもらうことも考えたけれど、今はグレール王国かはの撤退作業で猫の手も借りたい状況だから、手を借りることは避けたいと思っている。
でも、流石に半月も放置してある私の屋敷に家族を迎え入れることなんて出来ないから、最低限の掃除はすることに決めた。
ちなみにこの屋敷は、来賓を歓迎する時以外や、半月に一度のセントリア滞在で私が過ごすために使っている。
元々はお父様が持っていた別荘だけれど、ずっと放置されていたから私が譲り受けたのよね……。
だから、掃除に使える魔道具を持ち出して一人で掃除しているのだけど……。
「広すぎるわ……」
終わりの見えない掃除に、心が折れそうだった。
でも、そんな時。
通信の魔道具が震えた。
「ルシアナ、レオンだ。今セントリアに入ったのだが、会えるだろうか?」
「ええ。どこで待ち合わせますか?」
魔道具に魔力を通すと、レオン様の声が聞こえてきた。
この魔導具を発明したのは私ではないけれど、作ったのは私。
こんな風に距離が離れていてもお話が出来るから、いざという時の連絡に役立つのよね。
「ルシアナは今どこにいる? 近い場所で構わない」
「では、アルカンシェル商会の本部でお会いしましょう。場所はご存知ですか?」
「ああ。旗が見えるから、そこに向かう」
「分かりましたわ。では、また後で」
「ああ」
そこで声が途切れたから、私も魔力を込めるのをやめた。
今は掃除をしようとしていたから、簡素なワンピースを着ているけれど、周囲に溶け込むのにはちょうど良い。
王国とは違って治安も良いから、襲撃の心配も殆どないのよね。
だから、離れたところに護衛はいるけれど、一人で待ち合わせ場所に向かった。
「お待たせしました」
本部の前に目的の人影を見つけて、声をかける私。
彼も私も、目立つ護衛は付けていないけれど、遠巻きに見られていることは分かった。
「俺も来たばかりだから、気にしなくて良い。元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます。レオン様もお変わりなくて、安心しましたわ」
「ありがとう。こちらに来て間もないが、困っていることは無いか?」
そんなことを問いかけられて、返答に困る私。
彼は私が別荘を譲り受けていることは知っているけれど、素直に答えたら引かれる気がした。
私が使っている部屋と、そこに通じる廊下や玄関だけは掃除の手が届いている。
けれども、それ以外は一年以上放置しているから悲惨なことになっていると思う。
「別荘の掃除をしたいのですけど、私一人では手が足りなくて……。でも、レオン様に侍従の真似をさせることなんて出来ませんわ」
私は伯爵令嬢だけれど、彼は侯爵令息。侍従と同じ仕事をさせることなんて、私には出来ない。
けれども、彼は気にしないみたいで、こんなことを口にしていた。
「掃除なら任せろ。俺の得意な魔法、知っているだろう?」
「ええ、知ってはいますが……風魔法で掃除なんて出来るのですか?」
風魔法で埃は飛ばせるけれど、部屋の中で舞うだけですぐに積もってしまう。
簡単に解決したら苦労はしないのに、レオン様は余裕そうな表情を浮かべていた。
「適当な布を用意して、そこに埃を乗せた風を通すんだ。そうすると、埃を取り除ける」
「そんなことが出来ますのね……」
「簡単だろ?」
「私には難しいですわ」
部屋中に風を行き渡らせてから一箇所に集めるなんて芸当、並の魔法の使い手には絶対出来ない。
それに、私は風魔法が得意ではないから、難しいのよね。
けれども、十数分後のこと。
私の屋敷に入ったレオン様は、器用に風魔法を操っていて。
ふわふわと舞う埃が一箇所に集まっていた。
「大量だな。これはやりがいがあるよ」
「私が使用人を入れていないばかりに……」
「こんな場所で一日でも過ごしていたら、喉を壊しそうなものだが、大丈夫なのか?」
レオン様に使用人のような真似をさせるくらいなら、出費は増えてしまうけれど使用人を雇っておくべきだったわ……。
「喉は大丈夫ですわ。でも、鼻に違和感を感じたことはありますわね」
「よし、ここの掃除は俺が受け持とう」
「え、遠慮しますわ……!」
私が声を上げた直後のこと。
「まずい、鼻がむずむずする……」
レオン様のくしゃみの音が響き渡った。
それから彼はますます掃除に熱を入れてしまって、もう私にはどうすることもできなかった。
「私も手伝いますわ!」
「いや、こんな危険なことルシアナにさせられない!」
私の身を想ってくれるのは嬉しいけれど、このままでは私の立場が危ないわ……。
私達は無事に帝都セントリアに到着した。
この間に、頬袋の問題点も見つかった。
重い側が沈み込みやすいから、バランスを取るのが難しいこと。
中の空気が少しずつ抜けてしまうから、風魔法で中に空気を生み出す必要があること。
重い側の空気を多くすることで、水平を保つことが出来ること。
移動中はずっと、馬車に上手く取り入れるためのことを考えていたから、丸一日という時間はあっという間だった。
商会本部に着いたら、すぐにでも研究に取り掛かりたかった。
けれども、私の家族が向かってきているはずだから、受け入れる準備をしないといけないのよね……。
商会では従業員を雇ってはいても、使用人は雇っていない。
商会の人達に手を貸してもらうことも考えたけれど、今はグレール王国かはの撤退作業で猫の手も借りたい状況だから、手を借りることは避けたいと思っている。
でも、流石に半月も放置してある私の屋敷に家族を迎え入れることなんて出来ないから、最低限の掃除はすることに決めた。
ちなみにこの屋敷は、来賓を歓迎する時以外や、半月に一度のセントリア滞在で私が過ごすために使っている。
元々はお父様が持っていた別荘だけれど、ずっと放置されていたから私が譲り受けたのよね……。
だから、掃除に使える魔道具を持ち出して一人で掃除しているのだけど……。
「広すぎるわ……」
終わりの見えない掃除に、心が折れそうだった。
でも、そんな時。
通信の魔道具が震えた。
「ルシアナ、レオンだ。今セントリアに入ったのだが、会えるだろうか?」
「ええ。どこで待ち合わせますか?」
魔道具に魔力を通すと、レオン様の声が聞こえてきた。
この魔導具を発明したのは私ではないけれど、作ったのは私。
こんな風に距離が離れていてもお話が出来るから、いざという時の連絡に役立つのよね。
「ルシアナは今どこにいる? 近い場所で構わない」
「では、アルカンシェル商会の本部でお会いしましょう。場所はご存知ですか?」
「ああ。旗が見えるから、そこに向かう」
「分かりましたわ。では、また後で」
「ああ」
そこで声が途切れたから、私も魔力を込めるのをやめた。
今は掃除をしようとしていたから、簡素なワンピースを着ているけれど、周囲に溶け込むのにはちょうど良い。
王国とは違って治安も良いから、襲撃の心配も殆どないのよね。
だから、離れたところに護衛はいるけれど、一人で待ち合わせ場所に向かった。
「お待たせしました」
本部の前に目的の人影を見つけて、声をかける私。
彼も私も、目立つ護衛は付けていないけれど、遠巻きに見られていることは分かった。
「俺も来たばかりだから、気にしなくて良い。元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます。レオン様もお変わりなくて、安心しましたわ」
「ありがとう。こちらに来て間もないが、困っていることは無いか?」
そんなことを問いかけられて、返答に困る私。
彼は私が別荘を譲り受けていることは知っているけれど、素直に答えたら引かれる気がした。
私が使っている部屋と、そこに通じる廊下や玄関だけは掃除の手が届いている。
けれども、それ以外は一年以上放置しているから悲惨なことになっていると思う。
「別荘の掃除をしたいのですけど、私一人では手が足りなくて……。でも、レオン様に侍従の真似をさせることなんて出来ませんわ」
私は伯爵令嬢だけれど、彼は侯爵令息。侍従と同じ仕事をさせることなんて、私には出来ない。
けれども、彼は気にしないみたいで、こんなことを口にしていた。
「掃除なら任せろ。俺の得意な魔法、知っているだろう?」
「ええ、知ってはいますが……風魔法で掃除なんて出来るのですか?」
風魔法で埃は飛ばせるけれど、部屋の中で舞うだけですぐに積もってしまう。
簡単に解決したら苦労はしないのに、レオン様は余裕そうな表情を浮かべていた。
「適当な布を用意して、そこに埃を乗せた風を通すんだ。そうすると、埃を取り除ける」
「そんなことが出来ますのね……」
「簡単だろ?」
「私には難しいですわ」
部屋中に風を行き渡らせてから一箇所に集めるなんて芸当、並の魔法の使い手には絶対出来ない。
それに、私は風魔法が得意ではないから、難しいのよね。
けれども、十数分後のこと。
私の屋敷に入ったレオン様は、器用に風魔法を操っていて。
ふわふわと舞う埃が一箇所に集まっていた。
「大量だな。これはやりがいがあるよ」
「私が使用人を入れていないばかりに……」
「こんな場所で一日でも過ごしていたら、喉を壊しそうなものだが、大丈夫なのか?」
レオン様に使用人のような真似をさせるくらいなら、出費は増えてしまうけれど使用人を雇っておくべきだったわ……。
「喉は大丈夫ですわ。でも、鼻に違和感を感じたことはありますわね」
「よし、ここの掃除は俺が受け持とう」
「え、遠慮しますわ……!」
私が声を上げた直後のこと。
「まずい、鼻がむずむずする……」
レオン様のくしゃみの音が響き渡った。
それから彼はますます掃除に熱を入れてしまって、もう私にはどうすることもできなかった。
「私も手伝いますわ!」
「いや、こんな危険なことルシアナにさせられない!」
私の身を想ってくれるのは嬉しいけれど、このままでは私の立場が危ないわ……。
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