断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
9 / 70

9. 帝都で暮らすために

しおりを挟む
 普段の座席よりも快適になってしまった荷台を交代で使いながら移動すること丸一日。
 私達は無事に帝都セントリアに到着した。

 この間に、頬袋の問題点も見つかった。


 重い側が沈み込みやすいから、バランスを取るのが難しいこと。
 中の空気が少しずつ抜けてしまうから、風魔法で中に空気を生み出す必要があること。
 重い側の空気を多くすることで、水平を保つことが出来ること。

 移動中はずっと、馬車に上手く取り入れるためのことを考えていたから、丸一日という時間はあっという間だった。
 商会本部に着いたら、すぐにでも研究に取り掛かりたかった。

 けれども、私の家族が向かってきているはずだから、受け入れる準備をしないといけないのよね……。
 商会では従業員を雇ってはいても、使用人は雇っていない。

 商会の人達に手を貸してもらうことも考えたけれど、今はグレール王国かはの撤退作業で猫の手も借りたい状況だから、手を借りることは避けたいと思っている。
 でも、流石に半月も放置してある私の屋敷に家族を迎え入れることなんて出来ないから、最低限の掃除はすることに決めた。

 ちなみにこの屋敷は、来賓を歓迎する時以外や、半月に一度のセントリア滞在で私が過ごすために使っている。
 元々はお父様が持っていた別荘だけれど、ずっと放置されていたから私が譲り受けたのよね……。

だから、掃除に使える魔道具を持ち出して一人で掃除しているのだけど……。

「広すぎるわ……」

 終わりの見えない掃除に、心が折れそうだった。
 でも、そんな時。

 通信の魔道具が震えた。

「ルシアナ、レオンだ。今セントリアに入ったのだが、会えるだろうか?」
「ええ。どこで待ち合わせますか?」

 魔道具に魔力を通すと、レオン様の声が聞こえてきた。
 この魔導具を発明したのは私ではないけれど、作ったのは私。

 こんな風に距離が離れていてもお話が出来るから、いざという時の連絡に役立つのよね。

「ルシアナは今どこにいる? 近い場所で構わない」
「では、アルカンシェル商会の本部でお会いしましょう。場所はご存知ですか?」
「ああ。旗が見えるから、そこに向かう」
「分かりましたわ。では、また後で」
「ああ」

 そこで声が途切れたから、私も魔力を込めるのをやめた。
 今は掃除をしようとしていたから、簡素なワンピースを着ているけれど、周囲に溶け込むのにはちょうど良い。

 王国とは違って治安も良いから、襲撃の心配も殆どないのよね。
 だから、離れたところに護衛はいるけれど、一人で待ち合わせ場所に向かった。



「お待たせしました」

 本部の前に目的の人影を見つけて、声をかける私。
 彼も私も、目立つ護衛は付けていないけれど、遠巻きに見られていることは分かった。

「俺も来たばかりだから、気にしなくて良い。元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます。レオン様もお変わりなくて、安心しましたわ」
「ありがとう。こちらに来て間もないが、困っていることは無いか?」

 そんなことを問いかけられて、返答に困る私。
 彼は私が別荘を譲り受けていることは知っているけれど、素直に答えたら引かれる気がした。

 私が使っている部屋と、そこに通じる廊下や玄関だけは掃除の手が届いている。
 けれども、それ以外は一年以上放置しているから悲惨なことになっていると思う。

「別荘の掃除をしたいのですけど、私一人では手が足りなくて……。でも、レオン様に侍従の真似をさせることなんて出来ませんわ」

 私は伯爵令嬢だけれど、彼は侯爵令息。侍従と同じ仕事をさせることなんて、私には出来ない。
 けれども、彼は気にしないみたいで、こんなことを口にしていた。

「掃除なら任せろ。俺の得意な魔法、知っているだろう?」
「ええ、知ってはいますが……風魔法で掃除なんて出来るのですか?」

 風魔法で埃は飛ばせるけれど、部屋の中で舞うだけですぐに積もってしまう。
 簡単に解決したら苦労はしないのに、レオン様は余裕そうな表情を浮かべていた。

「適当な布を用意して、そこに埃を乗せた風を通すんだ。そうすると、埃を取り除ける」
「そんなことが出来ますのね……」
「簡単だろ?」
「私には難しいですわ」

 部屋中に風を行き渡らせてから一箇所に集めるなんて芸当、並の魔法の使い手には絶対出来ない。
 それに、私は風魔法が得意ではないから、難しいのよね。


 けれども、十数分後のこと。

 私の屋敷に入ったレオン様は、器用に風魔法を操っていて。
 ふわふわと舞う埃が一箇所に集まっていた。

「大量だな。これはやりがいがあるよ」
「私が使用人を入れていないばかりに……」
「こんな場所で一日でも過ごしていたら、喉を壊しそうなものだが、大丈夫なのか?」

 レオン様に使用人のような真似をさせるくらいなら、出費は増えてしまうけれど使用人を雇っておくべきだったわ……。

「喉は大丈夫ですわ。でも、鼻に違和感を感じたことはありますわね」
「よし、ここの掃除は俺が受け持とう」
「え、遠慮しますわ……!」

 私が声を上げた直後のこと。

「まずい、鼻がむずむずする……」

 レオン様のくしゃみの音が響き渡った。
 それから彼はますます掃除に熱を入れてしまって、もう私にはどうすることもできなかった。

「私も手伝いますわ!」
「いや、こんな危険なことルシアナにさせられない!」

 私の身を想ってくれるのは嬉しいけれど、このままでは私の立場が危ないわ……。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」 婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。 婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。 ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/10/01  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過 2022/07/29  FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過 2022/02/15  小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位 2022/02/12  完結 2021/11/30  小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位 2021/11/29  アルファポリス HOT2位 2021/12/03  カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...