断罪された商才令嬢は隣国を満喫中

水空 葵

文字の大きさ
上 下
8 / 70

8. 壊れないように

しおりを挟む
 バールフィルに入った日の翌朝。
 私はここの支部長と話をしていた。

「このごゴムレドン頬袋ほおぶくろですが、壊れやすい荷物の間に挟んだら破損防止になると思いまして。検討していただけないでしょうか?」

 今回の話題は、商品の破損対策。
 激しい馬車の揺れから守るために、何枚もの布を巻いて壊れないようにしているけれど、石を踏んだりすると壊れてしまう。

 商品の破損は損失につながるから、私も対策を考えていたのだけど、ゴムレドンの頬袋を使う発想は無かった。
 ちなみに、ゴムレドンの皮は火で熱すると溶けて違う形に出来る。

 だから、私はゴムレドンの皮から使った仕切り板を試したのだけど、陶器は壊れなくても魔道具が壊れることは防げなかった。
 風魔法で常に浮かせることも考えたけれど、魔力消費が激しすぎて実際には使えなかった。

 頬袋でも効果は変わらないと思っていたのだけど……。

「こんな風にお皿を落としても割れなかったんです」
「そんな効果があったのね。革をそのまま使うよりも、空気を入れた方が効果があるのね。貴女の意見、参考にさせてもらうわ」
「新商品、楽しみにしていますね」

 ここでは商品の開発はしていないから、このアイデアは本部についてから研究することに決めた。
 でも、ひとつだけ気になることがあったから、私はこんな質問をしてみた。

「他に頬袋は無いかしら?」
「あと十個ほどあります」
「四個もらっても良いかしら?」
「はい。お好きなだけお持ちください!」

 頬袋を受け取った私は、綺麗な四角形になるように馬車の荷台の床に並べてた。
 それから、支部の人達にお願いして、その上に二人掛けのソファーくらいの大きさの木箱を置いてもらう。

「これなら石を踏んだ時の衝撃を和らげてくれると思うのだけど……上手くいくかしら……?」
「不安定なので、倒れないように軽く縄で吊るした方が良いかと」
「そうね。お願いしてもいいかしら?」
「お任せください」

 指示を出している間に昨日から同行しているジークが姿を見せたから、荷物が倒れないように対策を終えてから出発することになった。
 ちなみに、ゴムレドンの頬袋は思っていたよりも頑丈で、荷物の上から私が座っても、少し沈み込むだけで穴が開いたりはしなかった。

 これなら、荷物と同じ状況を体験出来るわ……!
 私が内心で喜んでいると、ジークが不思議そうな顔でこんなことを訪ねてきた。

「商会長、今日は荷物の上に座られるんですか?」
「実験のために少しだけよ」

 本当に効果があるのかは、身をもって体験した方が分かりやすい。
 だから、こうして荷物の上に座ることにしたのよね……。

 ゴムレドンの皮から作った仕切り板の時だって、馬車の壁に貼り付けて試したのよね……。
 あの時は効果が薄いと分かっていても実際の食器で試したけれど、私の判断は間違っていなくて、食器は一部が割れていしまっていた。

「分かりました。転ばないでくださいよ」
「ええ、ありがとう」

 少しの間だけだから、クッションは敷いていない。
 でも、馬車が動き出してから、不愉快な振動はあまり感じなかった。

 足を床に付けていると不快な振動を感じるけれど、離していたら馬車の中とは思えないくらい快適だった。
 木箱の上に直接座っているからお尻は痛くなりそうだけれど、これなら眠ることだって出来そうね。

「乗り心地はどうですか?」

 この馬車は荷台と座席のある場所が繋がっているから、私の方に振り向いたジークと目が合った。
 ちなみに同乗している人は彼以外に三人いるけれど、今は資料を読み込んでいるから話しかけることなんて出来ない。

「すごく快適よ」
「それは良かったです」
「馬車の荷台ごと頬袋の上に乗せたいくらいよ」

 流石に耐えられる気がしないけれど、頬袋のように中が空洞になっている物を皮から作れば、上手くいくかもしれない。
 このことに気付いたのは、思い付きで言葉にした後だった。

「それは良いですね。実際に乗れる日を楽しみにします」
「ええ、頑張って完成させるわ」

 馬車の大きさになると私一人で作ることは無理だけれど、一緒に開発をしてくれる人たちがいる。
 だから、久々の本部入りがすごく楽しみになってしまった。

「商会長、お隣座ってみてもいいですか?」
「ええ。皆で交代で使いましょう」

 女性の従業員に声をかけられ、快諾する私。
 この良さを共有すれば、新しい馬車を開発することの賛同も得やすくなる。

 断ることなんて出来ないわ。
 
「いいのですか? ありがとうございます」
「ええ。私だけが使っていたら皆に申し訳ないもの」

 返事をしながら、席に敷いてあるクッションを剥がす私。
 この後は、荷台が一番の人気席になってしまったから、おかしくて苦笑してしまった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...