4 / 70
4. 馬鹿ですか?
しおりを挟む
部屋から聞こえる話し声が途切れたところで、扉をノックして、口を開く私。
「お父様、お話がありますわ」
「入りなさい
中からそんな答えが返ってきたから、扉を開けて中に入ってから、すぐに私が置かれている状況について説明した。
「……ということがあったので、騎士団がいつ来てもおかしくない状況ですの」
話すにつれて表情を険しくするお父様に不安を覚えながらも、説明を終える私。
「そうか。クソ王子を殴り飛ばしたいところだが……」
「早まらないでください!」
「旦那様、流石に首が飛ぶことになりますのでおやめ下さい」
拳を構えるお父様を制止する私と執事長さん。
冗談だと笑って誤魔化されたけれど、あの目は本気だったわ……。
そんなことを思った時、扉の外からこんな声が聞こえてきた。
「旦那様。
親衛隊がルシアナお嬢様を出せと要求してきていますが、如何なさいますか?」
「ルシアナ、隠し通路から逃げなさい」
侍女からの報告を聞いたお父様は私を逃がそうとしてくれている。
でも、私は首を横に振った。
「鞭で打たれるくらいなら耐えられますから、大人しく捕まりますわ。
お父様が牢に入れられる方が嫌なのです……」
騎士団から少しの間逃げる事は鞭打ちで済むけれど、罪人を匿ってしまうと一週間くらい牢に入れられることになる。
そうなってしまったら、みんなでアルバラン帝国に渡れなくなるかもしれない。
だから、申し訳ない気持ちを抑えて、大人しく玄関に向かった。
「ルシアナ・アストライア! 早く出てこい!」
玄関に向かって階段を降りていくと、何度も何度も私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
何かを強く叩きつける音も聞こえてきた。
襲撃と思えてしまう状況だけれど、騎士団の制服の左胸の印は本物だった。
「私に何か御用でしょうか?」
「御用でしょうか、じゃないんだよ! こっちは首がかかってるんだ!
大人しく拘束されてくれ!」
表情を浮かべずに問いかけると、焦った様子でそんなことを言われた。
真実は分からないけれど、私を捕らえられなかったら処刑すると脅されているのね……。
そういう意味では、彼らも被害者なのかもしれない。
でも、だからって床を抉って良いことにはならないわ。
「床に穴の修理費は払っていただけますか?」
「ああ、払う。頼むから縛らせてくれ。
神に誓って、鞭で打ったりはしない」
「分かりましたわ」
そう返事をして、両腕を前に出す私。
本来は後ろで縛るものだけど、私を拘束したという事実が欲しいみたいで、直されることは無かった。
「感謝する」
罪人の立場のはずなのに、お礼まで言われる私。
でも、喜んではいられなかった。
馬車に乗せられて辿り着いた場所が、学院の空き部屋にいる王子殿下とリーシャ様の目の前だったから。
「殿下、罪人を連れてきました。どうか処刑だけは……」
「逃げないように出口を塞いでくれたら、処刑はやめよう」
「承知しました」
騎士団の方が部屋から出れる場所を塞ぐと、リーシャ様が嫌な笑みを浮かべてひものようなものを取り出していた。
「今までのお返しよ!」
そんな言葉と共に、弱々しく振るわれる鞭。
一応私の腰のあたりに当たってはいるのだけど、全く痛くなかった。
鞭打ちって、こんなものではないはずなのに……。
嬉しい期待外れね。
でも、この二人を満足させた方が都合がよくなると思ったから、私は痛みで涙を流している演技を始めた。
「これ以上は……やめてください……」
「わたしの痛みはこの程度では収まらないわ!」
それから何度も何度もペチペチと鞭を当てられたのだけど、やっぱり痛くなくて。
演技で流していた涙が枯れてしまった頃、異変が起こった。
「はぁ……はぁ……。ふふっ、随分と惨めな姿ね。あはは……」
そのまま床に手をついて肩で息をするリーシャ。
私は立ったままだから、必然的に彼女を見下ろす形になったのだけど……。
この状況、私がリーシャを問い詰めているようにも見えるかもしれないわね。
でも、そんな時間も長くは続かなくて。
「ルシアナを隣国に捨ててこい! 国境の山の中までで良いから、決して我が国に入れるな」
「御意」
私は再び馬車に乗せられ、隣国アルバラン帝国との国境に向かうことになった。
「こんな状況でも悲しまないとは、よほどの悪女なのだな」
私の醜態を見れなくて殿下は残念そうにしているけれど、私は国から離れられることが嬉しかったから、笑顔を耐えきれなかった。
「何を笑っている!?」
「あなたから離れられることが嬉しくて仕方ないのですわ」
馬車の扉が閉じられる直前に、私はとびっきりの笑顔を浮かべた。
「くそっ! 馬鹿にしやがって!」
ええ、馬鹿にしていますわ。殿下は馬鹿ですから。
流石に口にはしなかったけれど、そんな風に思ってしまった。
「お父様、お話がありますわ」
「入りなさい
中からそんな答えが返ってきたから、扉を開けて中に入ってから、すぐに私が置かれている状況について説明した。
「……ということがあったので、騎士団がいつ来てもおかしくない状況ですの」
話すにつれて表情を険しくするお父様に不安を覚えながらも、説明を終える私。
「そうか。クソ王子を殴り飛ばしたいところだが……」
「早まらないでください!」
「旦那様、流石に首が飛ぶことになりますのでおやめ下さい」
拳を構えるお父様を制止する私と執事長さん。
冗談だと笑って誤魔化されたけれど、あの目は本気だったわ……。
そんなことを思った時、扉の外からこんな声が聞こえてきた。
「旦那様。
親衛隊がルシアナお嬢様を出せと要求してきていますが、如何なさいますか?」
「ルシアナ、隠し通路から逃げなさい」
侍女からの報告を聞いたお父様は私を逃がそうとしてくれている。
でも、私は首を横に振った。
「鞭で打たれるくらいなら耐えられますから、大人しく捕まりますわ。
お父様が牢に入れられる方が嫌なのです……」
騎士団から少しの間逃げる事は鞭打ちで済むけれど、罪人を匿ってしまうと一週間くらい牢に入れられることになる。
そうなってしまったら、みんなでアルバラン帝国に渡れなくなるかもしれない。
だから、申し訳ない気持ちを抑えて、大人しく玄関に向かった。
「ルシアナ・アストライア! 早く出てこい!」
玄関に向かって階段を降りていくと、何度も何度も私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
何かを強く叩きつける音も聞こえてきた。
襲撃と思えてしまう状況だけれど、騎士団の制服の左胸の印は本物だった。
「私に何か御用でしょうか?」
「御用でしょうか、じゃないんだよ! こっちは首がかかってるんだ!
大人しく拘束されてくれ!」
表情を浮かべずに問いかけると、焦った様子でそんなことを言われた。
真実は分からないけれど、私を捕らえられなかったら処刑すると脅されているのね……。
そういう意味では、彼らも被害者なのかもしれない。
でも、だからって床を抉って良いことにはならないわ。
「床に穴の修理費は払っていただけますか?」
「ああ、払う。頼むから縛らせてくれ。
神に誓って、鞭で打ったりはしない」
「分かりましたわ」
そう返事をして、両腕を前に出す私。
本来は後ろで縛るものだけど、私を拘束したという事実が欲しいみたいで、直されることは無かった。
「感謝する」
罪人の立場のはずなのに、お礼まで言われる私。
でも、喜んではいられなかった。
馬車に乗せられて辿り着いた場所が、学院の空き部屋にいる王子殿下とリーシャ様の目の前だったから。
「殿下、罪人を連れてきました。どうか処刑だけは……」
「逃げないように出口を塞いでくれたら、処刑はやめよう」
「承知しました」
騎士団の方が部屋から出れる場所を塞ぐと、リーシャ様が嫌な笑みを浮かべてひものようなものを取り出していた。
「今までのお返しよ!」
そんな言葉と共に、弱々しく振るわれる鞭。
一応私の腰のあたりに当たってはいるのだけど、全く痛くなかった。
鞭打ちって、こんなものではないはずなのに……。
嬉しい期待外れね。
でも、この二人を満足させた方が都合がよくなると思ったから、私は痛みで涙を流している演技を始めた。
「これ以上は……やめてください……」
「わたしの痛みはこの程度では収まらないわ!」
それから何度も何度もペチペチと鞭を当てられたのだけど、やっぱり痛くなくて。
演技で流していた涙が枯れてしまった頃、異変が起こった。
「はぁ……はぁ……。ふふっ、随分と惨めな姿ね。あはは……」
そのまま床に手をついて肩で息をするリーシャ。
私は立ったままだから、必然的に彼女を見下ろす形になったのだけど……。
この状況、私がリーシャを問い詰めているようにも見えるかもしれないわね。
でも、そんな時間も長くは続かなくて。
「ルシアナを隣国に捨ててこい! 国境の山の中までで良いから、決して我が国に入れるな」
「御意」
私は再び馬車に乗せられ、隣国アルバラン帝国との国境に向かうことになった。
「こんな状況でも悲しまないとは、よほどの悪女なのだな」
私の醜態を見れなくて殿下は残念そうにしているけれど、私は国から離れられることが嬉しかったから、笑顔を耐えきれなかった。
「何を笑っている!?」
「あなたから離れられることが嬉しくて仕方ないのですわ」
馬車の扉が閉じられる直前に、私はとびっきりの笑顔を浮かべた。
「くそっ! 馬鹿にしやがって!」
ええ、馬鹿にしていますわ。殿下は馬鹿ですから。
流石に口にはしなかったけれど、そんな風に思ってしまった。
53
お気に入りに追加
3,315
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる