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3. 決意の理由
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あの後、無事に馬車に乗って学院を後にすることが出来た。
光を放つ魔道具は残り二個になってしまったけれど、これは屋敷に戻ればいくらでもあるから問題無いわ。
追手が向けられている気配も無かったから、今は少しだけ安心してレオン様とお話しをしている。
彼と話が出来るのも、これが最後になると思うと悲しい。
「ルシアナは何も悪く無いけど、本当にこれでいいのか?」
「ええ。迷惑はかけられませんから……。
こんな形で別れることになってしまって、申し訳ありません」
断罪されれば、婚約が解消されることは常識。
そして私は国外追放を言い渡された身だから、グレール王国で唯一の隣国アルバラン帝国の平民になることは間違いない。
だから、彼と会うことも出来なくなってしまう。
目頭が熱くなってしまうのを堪えていたら、レオン様はこんなことを口にした。
「何を謝っているんだ? 婚約は解消しない。父上を説得して隣国に渡ることも考えている。家を継ぐのは俺でなくても大丈夫だからな。
説得出来なかったら、家を出る。例え平民になったとしても、ルシアナを支えられる自信はある」
これは私の家族しか知らないことなのだけど、王国で一番大きな商会――アルカンシェル商会の実際の長は私だから、平民になっても苦労はしない。
アルバラン帝国にも拠点を構えていて、本当に良かったわ。
ちなみに、表向きの商会長は明かされていない上に、男性だという噂を流しているから、正体は見抜かれないと思っている。
だから、価値が無いはずの私を助けようとしてくれているレオン様の意図を測り切れないのよね……。
「そこまでする価値が私にあるのですか?」
「永遠を誓ったから、という理由では駄目か?」
「駄目ではありませんわ。ですが、申し訳なく感じてしまいますの」
「貴女のことを離したくないのだ。ルシアナ、君のことを誰よりも愛しているから。
本心を教えてくれないか?」
私が不安になって問いかけたら、告白が返ってきた。
この言葉を聞くのは初めてではないけれど、レオン様の意志はこんなに固いものだったのね……。
「私も貴方と一緒にいたいですわ」
「その言葉が聞けて安心したよ。すぐに留学出来るようにするから、待っていて欲しい。アルバランの帝都に入ったら、通信の魔道具で連絡する。
次に会う時は帝都セントリアで。無事を祈っている」
「ここまで送ってくださって、ありがとうございます。セントリアで待っていますわ」
ちょうどアストライア邸の前に馬車が止まったから、グレール王国での最後の挨拶を交わす私達。
本当はもっとゆっくりお話しをしていたかったのだけど、いつ追手が向けられるか分からない状況だから、屋敷の中へと急いだ。
お父様の部屋の扉をノックしようとした時、中からこんな声が聞こえてきた。
「また税が増えるのか!? これ以上増やされたら死人が出るぞ!」
「旦那様、落ち着いてください。まだ不正をする最後の手があります」
私がグレール王国から出ようと思っているもう一つの理由。
王家の散財のためにと毎月のように吊り上げられている重税のことが話されているみたいだった。
私はアルカンシェル商会の経営を楽しみたいと思っているけれど、重すぎる税の対策で頭を悩ませる日々になってしまっている。
それに、税が重すぎるせいで利益が出なくなってしまったから、新しい魔道具の研究も出来ない状況になってしまった。
税を納める義務が生じるの条件は、王国内に本拠地を構えていること。だから、拠点をアルバラン帝国に移したのだけど……今度は店の売り上げの半分を税とする法が出来てしまったから、利益を出すどころの話ではなくなってしまっている。
それに、取引先の貴族でさえも税に苦しんでいるせいで、モノが売れなくなってしまったのよね……。
今の状況に不満を持っている人は、平民を中心に増えてきている。
それも反乱が起こらないことが不思議なくらいだ。
「不正をした者は処刑されると法が変わった。死にたくはないから、不正など出来ない」
「左様ですか。では、隣国へ渡るというのはいかがでしょうか? 幸いにも、当家にはルシアナお嬢様のアルカンシェル商会があります」
「ああ、ルシアナなら快諾はしてくれるだろう。
いつでも隣国に渡れるように、全員準備をするように」
そんな言葉が聞こえてきて、ほっと息をつく私。
一人寂しく行くことになると思っていたから、お父様のこの決断は嬉しかった。
光を放つ魔道具は残り二個になってしまったけれど、これは屋敷に戻ればいくらでもあるから問題無いわ。
追手が向けられている気配も無かったから、今は少しだけ安心してレオン様とお話しをしている。
彼と話が出来るのも、これが最後になると思うと悲しい。
「ルシアナは何も悪く無いけど、本当にこれでいいのか?」
「ええ。迷惑はかけられませんから……。
こんな形で別れることになってしまって、申し訳ありません」
断罪されれば、婚約が解消されることは常識。
そして私は国外追放を言い渡された身だから、グレール王国で唯一の隣国アルバラン帝国の平民になることは間違いない。
だから、彼と会うことも出来なくなってしまう。
目頭が熱くなってしまうのを堪えていたら、レオン様はこんなことを口にした。
「何を謝っているんだ? 婚約は解消しない。父上を説得して隣国に渡ることも考えている。家を継ぐのは俺でなくても大丈夫だからな。
説得出来なかったら、家を出る。例え平民になったとしても、ルシアナを支えられる自信はある」
これは私の家族しか知らないことなのだけど、王国で一番大きな商会――アルカンシェル商会の実際の長は私だから、平民になっても苦労はしない。
アルバラン帝国にも拠点を構えていて、本当に良かったわ。
ちなみに、表向きの商会長は明かされていない上に、男性だという噂を流しているから、正体は見抜かれないと思っている。
だから、価値が無いはずの私を助けようとしてくれているレオン様の意図を測り切れないのよね……。
「そこまでする価値が私にあるのですか?」
「永遠を誓ったから、という理由では駄目か?」
「駄目ではありませんわ。ですが、申し訳なく感じてしまいますの」
「貴女のことを離したくないのだ。ルシアナ、君のことを誰よりも愛しているから。
本心を教えてくれないか?」
私が不安になって問いかけたら、告白が返ってきた。
この言葉を聞くのは初めてではないけれど、レオン様の意志はこんなに固いものだったのね……。
「私も貴方と一緒にいたいですわ」
「その言葉が聞けて安心したよ。すぐに留学出来るようにするから、待っていて欲しい。アルバランの帝都に入ったら、通信の魔道具で連絡する。
次に会う時は帝都セントリアで。無事を祈っている」
「ここまで送ってくださって、ありがとうございます。セントリアで待っていますわ」
ちょうどアストライア邸の前に馬車が止まったから、グレール王国での最後の挨拶を交わす私達。
本当はもっとゆっくりお話しをしていたかったのだけど、いつ追手が向けられるか分からない状況だから、屋敷の中へと急いだ。
お父様の部屋の扉をノックしようとした時、中からこんな声が聞こえてきた。
「また税が増えるのか!? これ以上増やされたら死人が出るぞ!」
「旦那様、落ち着いてください。まだ不正をする最後の手があります」
私がグレール王国から出ようと思っているもう一つの理由。
王家の散財のためにと毎月のように吊り上げられている重税のことが話されているみたいだった。
私はアルカンシェル商会の経営を楽しみたいと思っているけれど、重すぎる税の対策で頭を悩ませる日々になってしまっている。
それに、税が重すぎるせいで利益が出なくなってしまったから、新しい魔道具の研究も出来ない状況になってしまった。
税を納める義務が生じるの条件は、王国内に本拠地を構えていること。だから、拠点をアルバラン帝国に移したのだけど……今度は店の売り上げの半分を税とする法が出来てしまったから、利益を出すどころの話ではなくなってしまっている。
それに、取引先の貴族でさえも税に苦しんでいるせいで、モノが売れなくなってしまったのよね……。
今の状況に不満を持っている人は、平民を中心に増えてきている。
それも反乱が起こらないことが不思議なくらいだ。
「不正をした者は処刑されると法が変わった。死にたくはないから、不正など出来ない」
「左様ですか。では、隣国へ渡るというのはいかがでしょうか? 幸いにも、当家にはルシアナお嬢様のアルカンシェル商会があります」
「ああ、ルシアナなら快諾はしてくれるだろう。
いつでも隣国に渡れるように、全員準備をするように」
そんな言葉が聞こえてきて、ほっと息をつく私。
一人寂しく行くことになると思っていたから、お父様のこの決断は嬉しかった。
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