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恋愛初心者のためのお付き合い講座3
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食事に誘うことすら躊躇していた男の口から出る言葉ではない。
怪しすぎる。唐突すぎる。
「ええと、」
さすがの佐竹さんも、表情は変わらないものの戸惑いが滲んでいた。
「あ、いや、あの、本当に付き合うということではなくて…!」
焦りながらもそう提案した意味を早口で述べる。
「あの、やはりこのままでは周囲に心配をかけますし、危ない事件に繋がりかねないと思いまして、では僕とお付き合いをしているというテイにしておけば、お誘いの数も少しは減ると思いますし、断る口実に使っていただくとか…今回は大事なかったので良かったですが、もし今日誰も近くにいなかったらと思うと怖いですし、僕としても佐竹さんが事件に巻き込まれてほしくないので、あの、佐竹さんが研究に集中できるようにボディガード的な存在といいますか、」
佐竹さんはあまりに区切りなく話す僕を唖然と見つめている。
「う…すみません、急に、へんな提案ですね…」
「…ふふっ」
え、笑っ、た?
恥ずかしさに俯いた顔を思わずあげて確かめる。
「じゃあ、よろしく。」
佐竹さんの顔を見た時にはすでにいつも通りの表情になっていた。
ほとぼりが覚めたと連絡があり研究室にもどると、
近藤さんの姿はなかった。
同僚に話を聞けば、近藤さんが落ち着くと、これまでの経緯をぽつぽつ話してくれたとのことだった。
佐竹さんと付き合っていたが近頃連絡がつかず、今日たまたま僕と歩いているところを見かけてカッとなってしまったこと。
連絡がつかない間が辛すぎて、もうこの際、研究所を辞めようとしていたこと。
「とりあえず辞表は預かっていますが…」
今日のところは早退したという。
「迷惑をかけて申し訳ない。私が彼ときちんと話すよ。」
「でも…佐竹さん、大丈夫ですか?」
労務の同僚が心配そうに佐竹さんに聞いた。
「彼にはきちんと謝らなければならない。」
「西村さんは大丈夫ですか?一発は殴られているので、警察に相談さることもできますが…」
「あぁ、いえ、僕はなんとも。気にしていないので大丈夫です。」
佐竹さんは近藤さんに電話をかけ、直接会えないか打診したが、近藤さんは合わせる顔がないからと断ったそうだ。
佐竹さんは電話口で誠心誠意謝罪した。
近藤さんは勘違いを理解してくれ、恥ずかしくて仕方がないから、やはり研究所を辞めると言った。
そして近藤さんの辞表はそのまま受理され、彼は退職の運びとなった。
さて、疑似交際の話だが、
周囲に付き合っていると認知されないと、この話は意味を成さないので、どうすればそれとなくみんなに伝わるか、を佐竹さんとすり合わせていく。
「とりあえず、帰りと泊まり込みの時は僕もお供します。」
「いいのか?」
「遅い時間はただでさえ危険が多いですし。僕が佐竹さんに合わせていることが分かれば、周りも察してくれるのではないかと。」
「そうか、うん。わかった。」
「あとはその都度、必要な時に声をかけていただければ」
「必要な時って?」
「えと、お腹が空いた時とか、見たい映画がある時とか…あ、一人で行きたい時は無理に声をかけていただかなくて大丈夫です…えと、とにかく、僕は勘違いとかはしないので、安心して誘ってください。」
「うん、ありがとう。」
それから数日経って、僕がいつものように研究室に顔を出すと、佐竹さんから呼ばれた。
「今日は泊まりになりそうなんだ。君も付き合えるかな?」
「あ、はい」
近くの何人かの職員が、僕たちの会話に聞き耳を立てているのが分かる。傷つく人もいるだろうか…申し訳ないなと思いながらも、役目を全うするために平静を保って返答した。
「ありがとう。じゃあまたあとで。」
怪しすぎる。唐突すぎる。
「ええと、」
さすがの佐竹さんも、表情は変わらないものの戸惑いが滲んでいた。
「あ、いや、あの、本当に付き合うということではなくて…!」
焦りながらもそう提案した意味を早口で述べる。
「あの、やはりこのままでは周囲に心配をかけますし、危ない事件に繋がりかねないと思いまして、では僕とお付き合いをしているというテイにしておけば、お誘いの数も少しは減ると思いますし、断る口実に使っていただくとか…今回は大事なかったので良かったですが、もし今日誰も近くにいなかったらと思うと怖いですし、僕としても佐竹さんが事件に巻き込まれてほしくないので、あの、佐竹さんが研究に集中できるようにボディガード的な存在といいますか、」
佐竹さんはあまりに区切りなく話す僕を唖然と見つめている。
「う…すみません、急に、へんな提案ですね…」
「…ふふっ」
え、笑っ、た?
恥ずかしさに俯いた顔を思わずあげて確かめる。
「じゃあ、よろしく。」
佐竹さんの顔を見た時にはすでにいつも通りの表情になっていた。
ほとぼりが覚めたと連絡があり研究室にもどると、
近藤さんの姿はなかった。
同僚に話を聞けば、近藤さんが落ち着くと、これまでの経緯をぽつぽつ話してくれたとのことだった。
佐竹さんと付き合っていたが近頃連絡がつかず、今日たまたま僕と歩いているところを見かけてカッとなってしまったこと。
連絡がつかない間が辛すぎて、もうこの際、研究所を辞めようとしていたこと。
「とりあえず辞表は預かっていますが…」
今日のところは早退したという。
「迷惑をかけて申し訳ない。私が彼ときちんと話すよ。」
「でも…佐竹さん、大丈夫ですか?」
労務の同僚が心配そうに佐竹さんに聞いた。
「彼にはきちんと謝らなければならない。」
「西村さんは大丈夫ですか?一発は殴られているので、警察に相談さることもできますが…」
「あぁ、いえ、僕はなんとも。気にしていないので大丈夫です。」
佐竹さんは近藤さんに電話をかけ、直接会えないか打診したが、近藤さんは合わせる顔がないからと断ったそうだ。
佐竹さんは電話口で誠心誠意謝罪した。
近藤さんは勘違いを理解してくれ、恥ずかしくて仕方がないから、やはり研究所を辞めると言った。
そして近藤さんの辞表はそのまま受理され、彼は退職の運びとなった。
さて、疑似交際の話だが、
周囲に付き合っていると認知されないと、この話は意味を成さないので、どうすればそれとなくみんなに伝わるか、を佐竹さんとすり合わせていく。
「とりあえず、帰りと泊まり込みの時は僕もお供します。」
「いいのか?」
「遅い時間はただでさえ危険が多いですし。僕が佐竹さんに合わせていることが分かれば、周りも察してくれるのではないかと。」
「そうか、うん。わかった。」
「あとはその都度、必要な時に声をかけていただければ」
「必要な時って?」
「えと、お腹が空いた時とか、見たい映画がある時とか…あ、一人で行きたい時は無理に声をかけていただかなくて大丈夫です…えと、とにかく、僕は勘違いとかはしないので、安心して誘ってください。」
「うん、ありがとう。」
それから数日経って、僕がいつものように研究室に顔を出すと、佐竹さんから呼ばれた。
「今日は泊まりになりそうなんだ。君も付き合えるかな?」
「あ、はい」
近くの何人かの職員が、僕たちの会話に聞き耳を立てているのが分かる。傷つく人もいるだろうか…申し訳ないなと思いながらも、役目を全うするために平静を保って返答した。
「ありがとう。じゃあまたあとで。」
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